経済産業省とNEDOが推進する生成AI開発支援プロジェクト「GENIAC」の採択事業者による事業計画発表会、中間報告会、成果報告会が、2026年9月9日に東京都内で開催された。
「データエコシステムの構築等に関する研究開発事業・第4回公募」では9社・グループが採択され、今回新設された「ロボット基盤モデルの研究開発事業(多用途ロボット等)」では13社・グループが選ばれており、当日は両事業の新規採択事業者に加え、過去の公募で採択された事業者による中間・成果報告もあわせて行われた。本記事では、その様子をレポート形式でお届けする。
冒頭、経済産業省の渡辺琢也氏が、AI開発とAI利活用を循環させる政策の全体像を説明した。GENIACは経済産業省とNEDOが2024年2月に開始したプロジェクトで、正式名称は「Generative AI Accelerator Challenge」である。経済産業省は、AIロボティクス戦略の一環として、2040年までに18分野で約1,000万台のAIロボット導入を目指す方針を示している。
続いてボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の岩井諒介氏は、実世界で動作するロボットや設備を対象とするフィジカルAIを、AIの発展における新たな段階、AIエージェントの次に来る技術革新と位置づけた。2023年時点では大きく出遅れていた日本のAI産業だが、2024年のGENIAC立ち上げ以降、計算資源の支援やデータ整備、社会実装に向けた取り組みを段階的に広げてきたと説明した。
現場データをAIにつなぐ仕組みづくり

「データエコシステムの構築等に関する研究開発事業」は、データホルダーとAI開発者などが連携し、既存の企業内データの利活用や新たなデータの構築・拡充を含め、複数の企業等にまたがるデータを適切に集約・利活用する仕組みを構築・実証する事業である。第4回公募では、製造、生活サービス、インフラ、医療、ロボット動作などの現場データに関わる9社・グループが採択された。
製造現場では、小松製作所と産業技術総合研究所(産総研)が、建設機械の稼働状況を可視化するシステム「KOM-MICS」のデータを産総研が匿名化・構造化し、マルチエージェント型のAI生産スケジューラを実証する計画を示した。DMG森精機、WALC、産総研のグループは、製造業向けデータ連携基盤を軸に、協力企業を含む設備接続とデータ活用の拡大を目指す。ELEMENTSは、実際の工場ラインで撮影された構造化データや、工程・熟練度などの意味ラベル付きデータが不足している現状を指摘し、稼働中の製造現場で作業者の動作に意味を付けたデータセットづくりが必要だと訴えた。
生活サービスの現場では、ベアーズと東京大学松尾・岩澤研究室が約100人のスタッフにウェアラブル端末を装着させ、のべ約1万時間分の作業データを集める計画を説明した。法政大学と宇宙サービスイノベーションラボ事業協同組合、パシフィックコンサルタンツは、道路橋やトンネル、下水道といったインフラ点検データの整備を進めるとしている。
医療の現場では、国立大学法人神戸大学が9社・グループの一員として、登壇した。複数の医療機関と連携して手術関連データを収集し、国産の手術支援ロボット「hinotori」やナビゲーションシステム「ANSUR」の手術映像、各機器のログなどを組み合わせ、熟練医の暗黙知をAIが学習できるマルチモーダルな時空間データへと変換する構想を示した。

そして、ロボットが自ら動作を学習するための土台づくりも、この第4回公募の枠組みのもとで進められている。一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)は、ロボット向け動作データセットや視覚言語行動(VLA)モデルの整備・公開に関する取り組みを報告した。STATION Aiは、少量の作業データを複数のロボットに転用することを目指す手法を示した。川崎重工業を代表事業者とするコンソーシアム(大阪大学、ファナック、FingerVision、安川電機)は、コネクタの嵌合や柔軟物の把持など触覚を要する作業を対象に、視覚・触覚・言語・動作を統合した「VTLA」基盤モデル向けのデータ収集計画を説明した。
ロボットに現場の勘所を教え込む13社

今回新設された「ロボット基盤モデル開発支援」枠には13社・グループが採択され、各社ともロボットに現場の作業を学習させるための土台をどう築くかという共通の問いに、それぞれ異なる角度から取り組んでいる。
テレイグジスタンスは遠隔操作ロボット技術を軸に機体・データ・モデルを自社で一体的に開発する垂直統合モデルを掲げた。メルカリは、フリマアプリに出品される商品の検品・出品作業の自動化を目指す取り組みとして、中古靴を対象にしたデモンストレーションを披露し、ロボットアームが靴箱から靴を取り出して傷や汚れの有無を確認する動きを見せた。KDDIは、国産・海外双方のロボットメーカーと連携し、ローソン店舗を舞台に、作業者目線のデータやシミュレーションデータ、自然言語による作業指示などを組み合わせて基盤モデルを構築する計画を示した。Muso Actionは、商品ごとに異なる硬さや形状に応じて力加減を調整する力制御の技術と実際の倉庫で収集したデータを組み合わせ、多品種混在の現場に対応するモデルの開発を目指すと説明した。
家庭用ロボットを手がけるMWは、日本の住宅環境に特化したロボット基盤モデルの研究開発を掲げ、Preferred NetworksとPreferred Roboticsは環境高度理解基盤モデルの開発と屋内移動ロボット業務への適用をテーマにした。FastLabelはプラント産業の巡視点検業務を対象に、四足歩行ロボットのロコマニピュレーション技術とVLAモデル開発を掲げた。
重工業分野からは日立建機が、岩石などの支障物除去や土砂掘削・積み込み工程の自律化を対象に掲げ、ヒューマノイド分野ではアトム、SB Intuitions、XNOVA、ugo、Highlandersが、それぞれ触覚付き双腕二足ヒューマノイド、双腕ロボット、電動工具作業、製造組立、部品の位置合わせといった対象を定めて名乗りを上げた。
SB Intuitionsは、製造業の量産ライン工程を対象に、双腕ロボット向けの失敗予見型高速VLA基盤モデルと遠隔協調運用システムを開発する構想を紹介した。同社の発表によれば、製造業における10,000時間規模の関連データを用いてロボットの動作基盤モデルを構築し、強化学習による動作高速化、失敗予測、遠隔介入による復旧の仕組みを組み合わせることで、作業速度とタスク完遂率の向上を目指すとしている。

また、Highlandersは発表の際に実機のヒューマノイドロボットをステージに登場させた。自動車製造における部品の位置合わせ作業を対象に、ヒューマノイド向けVLAと物理状態世界モデルを開発する計画を説明した。

13社・グループの発表はいずれもロボットが実世界の作業を学習する基盤づくりの出発点を示すものだった。
積み重ねたデータを社会に還す
過去の公募で採択された事業者による中間・成果報告では、すでに具体的な成果が積み上がっていた。
Visual Bankは、高品質(Quality)であることと権利関係がクリア(Clean)であることを両立させたデータセット「Qlean Dataset」を紹介。出版社や個人クリエイターが保有する高品質なコンテンツをデータホルダー側に保持したまま、AI開発者が検索拡張生成(RAG)を通じて参照でき、利用実績に基づいた対価還元を目指す仕組みを報告した。

ティアフォーは、自動運転技術の開発で培った走行データと生成AIの知見をもとにしたAIデータ基盤の構築を進める。Preferred Networksと東京大学生産技術研究所(豊田研究室)は、都市空間の3DデータやBIMデータを整備し、ロボットの自律走行への活用も見据えるとしている。
創薬分野ではSyntheticGestaltが複数の製薬・農薬・化学関連企業と組み、標的タンパク質を対象に、化合物とタンパク質の結合を予測する自由エネルギー摂動(FEP)計算データや実験データを組み合わせ、基盤モデルとFEP予測モデルの開発を進めていると報告した。医療分野ではHEMILLIONSとイヨウガゾウラボが画像や検査値、診療記録を組み合わせたマルチモーダルな医療データの整備を進めていると報告した。
会の締めくくりに

採択事業者の発表が終わった後に、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の高田和幸氏が締めの挨拶を行った。最後に登壇した採択事業者らによる記念撮影が行われ、事業計画発表会は幕を閉じた。
この日の発表会は、製造業や生活サービス業、物流、医療、都市計画といった幅広い産業の現場データをAIが利用できる形へと整備し対価還元や産業利用につなげていく取り組みと、そのデータを土台にロボット自身が作業を学習していく取り組みが、GENIACという同じ政策の枠組みのもとで並行して進んでいることを示すものだった。







