【中国ロボット市場最前線 vol.07】中国からみた日本のロボット事情
日本は「ロボット大国」だけではなく、「ロボット強国」でもあります。日本は、世界のロボット産業をずっと前からリードしていることは、もはや世界の共通認識になっています。今回はこの「ロボット大国」&「ロボット強国」である日本について、「中国ではどう見ているか」というテーマを中心に、簡単にご紹介したいと思います。
「ロボット大国」&「ロボット強国」の日本に対するイメージは、以下の観点から捉えられます。
1.まず、日本人はロボットが好き
中国ロボット業界の人からみると、「日本人はロボットが好き」という基本的なイメージを持っています。好きだから、組織的にも個人的にもロボットの研究開発や製品化に力を入れ、そして愛情を注ぐわけです。
少子高齢化、産業自動化にロボットの必要性が高まっていることは、社会的な背景もありますが、「そもそも日本人はロボットが好きなのだろう」との声をよく耳にしています。工場、職場、家庭、コミュニティなどに出てきた様々なロボットを大事にし、親しい名前を付けたり、かわいい顔を創ったり、きれいな服装を着せたりすることなどは、ロボットへの愛着の現れです。それに、仕事や生活で叶っていない願望や未来への思いなどは、ロボットというカタチのあるものに夢だったり、願いだったり、希望だったりを託しているようです。
2.なんとなく、マンガ・アニメと連想している
最近、中国の実業界で起こっているロボットブームは、ロボット産業の発展の重要な呼び水になっています。しかし、一般市民にとっては、実体のロボットに触るチャンスはそれほど多くありません。一般市民にとっては、マンガやアニメに出てきた各種ロボットは、イメージとしてロボットの啓蒙になっています。
日本のロボットと聞かれると、ドラえもん、機動戦士ガンダム、鉄腕アトム、超時空要塞マクロスなどなど、自然に日本のロボットに関するマンガ・アニメが浮かんできます。そもそもロボットの定義が曖昧なこともあり、これらマンガ・アニメに登場したロボットと実際に存在するロボットが頭の中で混在している人も少なくありません。この混在状態のなかで、マンガ・アニメの架空の世界からは、現実社会へ、そしてロボット産業そのものへ何らかのヒント、発想を与えてくれています。
3.なによりも、日本のロボット技術が高い
ロボットの世界では、複雑な要素技術を融合して初めてロボットを創ることができるようになるので、高度な技術力が求められています。日本のロボット産業が世界をリードしている理由は、その高度な技術力にあると思われます。
YASKAWA BUSHIDO PROJECTでのモトマンの居合術(瞬発力と正確性)、アシモの自由自在な歩き方(関節の柔軟な動き)、ムラタセイサク君のバランス感覚(自転車が完全に停止しても倒れない)、未夢(HRP-4C)の人間に近い歌声(表情と音声の同期性)などから見ても、日本ロボットの制御技術は驚くほど進化していることが分かります。国連の世界知的所有権機関(WIPO)が2015年11月11日に発表した報告書によると、1995年以降のロボット工学分野に関する特許申請数でトップ10社のうち8社を日本企業が占めたことでも、日本の高い技術力を物語っています。
■ YASKAWA BUSHIDO PROJECT / industrial robot vs sword master
4.長年ずっと、研究し続けている
ロボット技術の高度化や製品の高い完成度には、長年の試行錯誤の繰り返しや絶えずの改善が必要となります。特に安定的な性能を保つレベルに仕上げるには、一朝一夕ではできるわけではありません。
日本のロボット技術がはるかに進んでいる理由は、長年間に渡って研究し続けていることだと認識されています。最初のモトマンは1977年、アシモは1986年、ムラタセイサク君は1990年、未夢は1998年から開発・誕生し、これらの完成品はいずれも長い歳月を経て遂げたものであり、経験とノウハウの結晶でもあるとされています。精密減速機、サーボモーター、コントローラーなど個別の中核部品も同じです。独占とも言える日本の中核部品は、歳月に伴う研究開発の進化ではないでしょうか。従いまして、ロボット分野で中国はいつ日本に追いつけるかと聞かれると、「そう簡単ではない」との答えがほとんどです。
5.意外に、ビジネス上の商用化・産業化はやや遅い
技術と商用化・産業化は別々のものです。お互いに促進するものですが、社会需要の規模やタイミングなどによっては必ず足なみを揃えるわけではありません。
日本は、ロボット領域において世界で抜群の技術を持っていることには、おそらく異議がないだろうと思われます。しかし、一部はビジネス上での商用化・産業化がそれほど進んではいないと見られています。アシモ、ムラタセイサク君、未夢などのロボットは、どれも高度な技術で支えられていますが、社会で実際に利活用されている場面はそれほど多くありません。日本でも最も必要な福島原発事故の際に、日本製ロボットが解決策につながっていなかったとの批判の声も挙げられています。利活用する分野は、それぞれ細分化が進んでいるので、簡単にあれこれ言えないですが、テクノロジーの価値を存分に発揮し、社会に貢献する意味ではもったいないという側面もあるかもしれません。このような状況はだんだん変わってきている模様で、ソフトバンクグループのペッパーは、ビジネスの商用化で規模が広がっていて、これが追い風になり、今後ビジネス上のロボットの利活用が期待できるのではないかと思われます。
上記のように、ロボット先進国として、強固な技術をもとに、日本は今後もロボット業界において世界をリードしていくだろうと思われます。中国のロボット業界は、日本の業界の動きにも常に目を向けています。日本で起こった重要なロボットの出来事や面白いものは報道されています。次に、特に新しい発想やインパクトのあることについて簡単に紹介します。
6.中国で注目された日本のロボット業界のできごと
1.ペッパーの発売
ペッパーが、世界初の自分の感情を持つロボットとして日本で発売されてから、中国でも注目を集めています。日本でよく売れていると中国のマスコミが報道しています。ただし、日本での価格体系は正確に認識されていないケースがあります。ペッパー(一般販売モデル)の価格は、本体(税抜き198,000円)+Pepper基本プラン(税抜き14,800円×36ヶ月)+Pepper保険パック(税抜き9,800円×36ヶ月)の構成となり、3年間で合わせて1,083,600円(税抜)、1,170,288円(税込)になります。しかし、マスコミの報道では上記の税抜き本体価格の198,000円がよく紹介されています。ざっと見て日本ではこの値段では高額なものではないと誤認されやすいです。
では、ペッパーの中国進出はどうなっているか、を見てみましょう。ペッパーは、アリババグループのロボット専門会社「阿里機器人(Alibaba Robot Corporation)」により中国市場に登場しています。2016年10月に開催されたイベント「Alibaba Cloud 2016 Computing Conference」では、アリババ独自のYunOSを搭載した中国向けのプロトタイプが展示され、販売価格が198,000人民元(約300万円)に設定されています。この値段は、本体、品質保証、サービスなどから構成されているそうですが、中身についてはまだ公表されていません。見た目では、日本での本体税抜き価格(198,000円)と通貨の違いみたいなものですが、なぜこのような価格に設定されているかは、明らかにされておりません。
2.変なホテルのロボット導入
社会生活においてロボットの応用例としては、ハウステンボスの「変なホテル」が新しい発想でロボットを利活用することで中国でも注目を浴びています。ホテルの各利用シーンに合わせて様々なロボットを組み合わせ、ホテルの業務を確実に行うイノベーション的な運営手法は、確かに目新しいものです。
そして2号店舞浜東京ベイがいよいよ開業することで、東京ディズニーランドを訪ねる中国の観光客にとっては、わくわくするものだと思われます。
ちなみに、変なホテルには、いくつか中国製のロボットも入っているようです。例えば、エコバックスロボティス社(ECOVACS ROBOTICS)の窓用お掃除ロボットWINBOTが導入されています。また、穿山甲ロボット社(PANGOLIN ROBOT)のレストラン用ロボットも導入の検討が始まっているそうです。
3.人型と車型との完全変形ロボット
株式会社BRAVE ROBOTICS、アスラテック株式会社、三精テクノロジーズ株式会社による有限責任事業組合(LLP)で進められている人型(ロボットモード)と車型(ビークルモード)とに完全変形できる巨大ロボット「J-deite RIDE」(神器建造ジェイダイト)は、量産化も目指していることが、中国でもよく報道されています。
素晴らしいアイデアの上に、徐々に実現され量産化も進められていることは、どれほどの技術とコストが必要か、簡単に見計らうことができませんが、形も技術も格好いいプロジェクトとしては評価されています。中国では、このような体形が大きい変形ロボットの研究開発はあまり聞いたことがないので、車とロボットを完璧に融合させることはとてもインパクトのあるニュースです。トルコのLetvision社もいま車とロボットとの完全変形に成功したそうですが、人がまだ乗れません。実用化の意味では、「J-deite RIDE」のほうがより期待されています。
4.日米巨大ロボットの対決
日本の水道橋重工が製作した巨大ロボット「KURATAS」(クラタス)とアメリカのMegaBots社の巨大ロボット「メガボット」が対決するというニュースは、ロボットファンの間で話題になっています。
中国では、いま巨大ロボットの設計・製造業者があまり出ておらず、巨大ロボットに触れるチャンスもなかなかありません。今回のような日米巨大ロボの対決は、MegaBots社の挑戦状から既に盛り上がってきており、今か今かと待ちわび、楽しみにしているファンが多いようです。巨大ロボの戦いの場面を現実には一度も見たことがないので、全世界のロボットファンは同じくわくわくしているのではないでしょうか。
5.安川電機モトマンの「居合術」
安川電機100周年記念の『YASKAWA BUSHIDO PROJECT』で「MOTOMAN-MH24」が披露した居合術は、とてもインパクトのあるものでした。産業用ロボットの「正確性」、「俊敏性」、「しなやかさ」を高次元に融合させた性能限界に多くのロボットファンが魅了されています。
伝統的な武術・スポーツなどを生かして、最新テクノロジーとしてのロボットとの共演はとても面白く意味深い発想です。安川電機モトマンの居合術共演もそうですが、中国の瀋陽新松社ロボットと拳師との太極拳共演、ドイツのクーカ社のロボットと卓球選手ティモ・ボルとの卓球対決も大きな反響を呼んでいました。
以上、一部のみ紹介しました。
ロボット産業はグローバル化の波に飲み込まれ、世界各国がお互いに影響を与えながら進化していくだろうと思われます。そして、産業構造、業界マップが変わりつつある状況の中で、お互いに対する認識や理解も変わっていくではないかと思っています。
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Dequan Tangイーパオディング株式会社代表取締役社長、北京璞華機器人(ロボット)情報技術有限公司CEO。東京・北京にてITシステム化、日中間ビジネス、グローバルビジネスコンサルティング業務に十数年間携わり、いま中国でロボットのメディア、展示、販売、研究開発を行うロボット事業、及び「個客」ビジネスの「自由自在」を支援するグローバルリサーチ、コンサルティング、インターネットサービス事業に従事。IT関連の講演・著書多数。 Email:tang_dequan@epaoding.com 微信(Wechat) ID:tomotogether