政府や経団連は、月末の金曜日の就業時間を短縮する「プレミアムフライデー」を提案している。
残業時間を減らそうという動きもあり、仕事の効率化はどの企業にも重要なテーマになっていて「働き方を考え直さないとなぁ」なんて声があちらこちらから聞こえてきそうだ。
マイクロソフトは本日、政府の「働き方改革」に呼応して「働き方AI」を発表した。
具体的な製品としては、「Office365」の「MyAnalytics」と「Office Delve」のAI機能を「働き方AI」として改めて発表したカタチとなる。Office 365のバージョン「E5」を利用している場合は、両方の最新サービスがアップデートで提供される。
では、「MyAnalytics」(マイアナリティクス)と「Office Delve」(デルブ)とはなんだろうか。
このサービスはクラウドのAIシステムと連携して、現時点では「メール」と「会議」について働き方の質を向上させるために必要な「AIによる気づき」を提供するクラウドサービスだと言う。
同社内でも既に利用していて、オペレーションAPIの可視化によって生産性は約26%向上したと言う。
また、海外のメディアでの評価が高いことが紹介されたという。
「MyAnalytics」を使うとメールと会議を一週間につき2時間短縮でき、ユーザーを1000人だとすると、一ヶ月で8000時間の節約が可能で、これは従業員50人相当の増員に匹敵すると言う。
世界中のワークスタイルを機械学習
「働き方AI」は量と質の両面で働き方改革を支えるMicrosoftのテクノロジーと言うことだ。
Office365はクラウドサービスなので、ユーザが利用している際のワークスタイルのデータがMicrosoftのクラウドに蓄積することができる。「働き方AI」とはそのビッグデータを分析して、機械学習によって働き方の見える化を行い、よりよい働き方へのアドバイスを行うものだ。
現在、ワールドワイドでは600億添付ファイル、70ペタバイトの企業データを既に蓄積していて、そのビッグデータを匿名のまま傾向値として利用する。
どんなことにどれだけ時間を裂いているか、誰と誰がコラボレーションしているかを収集・分析し、ワークスタイルを機械学習に活用する。
分析するのはExchangeの領域で、1週間のうち業務で多くの時間を費やしている「メール」や「会議」に問題を感じている企業に適したサービスになりそうだ。当初はこの2項目についてAIによる分析を行っていく。
例えば、Office 365のPowerPointをクラウド上で作業すると、その状況はチームスタッフ全員で共有することができる。作業をしながら、他のメンバーからアドバイスを得たり、相談をしながら業務を進めていくことができる。
2時間以上集中して行う作業を「フォーカス時間」と呼び、それが仕事の効率を上げると言われているという。そこで、どれだけのフォーカス時間で業務を行えているかも知ることができるようにしている。
各項目を詳しく分析することができる。例えば、会議についてはどのようなものだったかを可視化する。
会議中に内職(メールの処理)している人は会議に集中できていないと判断される。その場合は、きちんとしたアジェンダがあった方が良い、業務をもっと絞り込んだ参加メンバーに限定した方が良いなどのアドバイスとなる。
その結果、会議が有効なのか、問題意識を持つべきなのかが見えてくると言う。
また、他の人を巻き込んで仕事を進める人との方が仕事ができるという統計があるらしく、その意味でコラボレーションの状況をはかることができると言う。誰と多く連絡を取り合っているか、それが「コラボレーション」として集計されたものだ。同じチームだけでなく、開発や営業とのコラボが必要だったかを振り返ることができるとした。同じようなメンバーだけとコラボしていたことをAIを指摘された結果、海外にいるメンバーや他部門のメンバーとも連絡をとるようにすることで最新の情報を盛り込めるようになった、などの改善を想定している。
その場合、Office Delveを通じてコラボを進めることで効率性が増す。
メールではOutlookのアドオンと連携する。メールに費やした時間はどれくらいか、メールの傾向としてどのような分類に該当するか、15%の既読率の場合、いつ送ったのか、いつ読まれたのか、1日たって読まれなければ他のメールに埋もれてしまう、その状況が可視化できれば、改善方法してはツールを使い分けるスカイプ、SNS、会議で話すなど、AIからの提案に繋がるのではないか、としている。
そもそも論になるが、世界的に収集したワークスタイルのビッグデータから理想の働き方を機械学習したAIが、日本のワークスタイルに合わせて的確なアドバイスができるのか疑問だ。機械学習は個々の企業によるカスタマイズのみとしているIBM Watsonとは言わば真逆のアプローチだ。
現時点では、どのようなデータをもとにして、なにを根拠にAIが測定や提案をしてくるのか不明確なので、その状態では企業側も導入に腰が引けてしまうというのが実情なのではなかろうか。
どのように提供されるのか
今回のクラウドサービスには「MyAnalytics」と「Delve」がある。
「MyAnalytics」は2015年からE5またはアドオンで提供しているクラウドサービス。E3等の場合は月額440円(1ユーザあたり)で追加できる。現在のバージョンには既にAI機能が含まれている。現在のバージョンでは個人単位での時間の使い方とコラボレーション状況を可視化する機能があるが、2017年春頃にアップデートしてグループ分析機能を追加する予定だ。
さらに2017年夏には、事業の優先順位に沿ったカスタマイズレポートの作成と詳細分析を行う「Workplace Analytics」を提供していく予定だ(オラクルやセールスフォース、その他のCRM、会計システムなども含めたカスタマイズ分析が可能)。
「働き方改革」の推進
同社は日本政府による「働き方改革」の推進に呼応するカタチでマイクロソフト自社内の効率化とともに製品サービスにも反映していくつもりだ。数年前に品川にオフィスを移転し、働き方改革を様々なカタチで実践してきたが、AI技術を使うことで働き方の質を向上していくという新しいフェーズに入ると言う。
働き方を量と質の両面で支援するもの
いま働き方の変化が社会的な課題となっている。企業としても、残業時間の規制によって仕事の中断を余儀なくされたり、こっそり自宅に持って帰ることを防ぐといった、一見相反するような課題を解決していく必要がある。無駄をなくす方向で最新のテクノロジーをこちらの課題に活用していかなくてはならない。
そのために働き方を見える化すること、働き方を振り返ることが大切と語った。
仕事の改善はAIに聞く、そんな時代が現実的にやってきた、と言えるかもしれない。