文章を理解する人工知能とロボットが連携して実現すること 〜FRONTEOコミュニケーションズに聞く(2)
前回「Kibiro for Biz 発表!文章を読んで内容を理解する人工知能「KIBIT」とは?」に続き、今回はKibiroがKIBITと連携すると、どんな機能が実現するのかを見ていこう。その前に、Kibiroの基本的な概要をおさらいしておきたい。
FRONTEOコミュニケーションズの「Kibiro」は、ビッグデータ解析事業を手がけるFRONTEOが開発した人工知能「KIBIT」と連携をすることで、知識だけでなく、好みや感覚を理解する生活密着型ロボットとして誕生した。人々の暮らしに溶け込み、共に過ごすことで、日常を豊かにするロボットとしての期待を、この小さな身体に背負っている。
■家庭におけるKibiroのコンセプトムービー
このコンセプトムービーは一般家庭に入るロボットをイメージしたもので「一般向け」Kibiroをイメージした動画だ。
個人向けKibiroと法人向けKibiro
「Kibiro」には一般向け(個人向け)と法人向け(BtoB)がある。どちらも2016年11月に発表、2017年2月から提供を開始した。
Pepperは個人向け市場よりも法人向け市場の方が結果的に早く起ち上がった格好だが、Kibiroも同様だと言える。法人向けKibiroはほとんどこれまでプロモーション(PR)を行ってこなかったものの、問合わせや引き合いが想定より多く、好調に推移している。
「法人向けKibiro」(BtoB)は3つに分けられる。
ひとつは「Kibiro for Biz」のように受付や接客対話に特化した基本パッケージだ。受付や接客対話はロボット化したい業務として人気のある業務。企業にとって簡単にかつ顧客的安価に導入できるため、導入件数や出荷台数は多くなるだろう。社名や製品サービスを会話に盛り込む程度のカスタムも可能だ。
もうひとつは、人工知能との連携までは必要がないものの、カスタムのアプリケーションを開発し、クラウドと連携した独自のサービスを提供していきたいと考える企業向けだ。
3つめは人工知能「KIBIT」とKibiroを連携させ、本格的に応答・判断・予測等を行うシステムをカスタムで開発していく案件となる。ビッグデータと機械学習によって人工知能システムを育てるため、ある程度の期間と予算を見込む必要がある(非構造化データを扱う他の人工知能システムに比べて、KIBITは教育期間が短くて済む点に特徴があるものの、それでも教育と育成は必ず必要になる)。Kibiroはその端末としてユーザーとのインタフェースを担当する存在になるのだろう。
Kibiroによるレコメンデーション
人工知能「KIBIT」とKibiroはどのように連携するのか。
一般向けKibiroの場合は冒頭のコンセプトムービーのように、家族の一員として様々な情報を覚え、家族の好みに応じた情報を提供してくれる。では法人向けKibiroの場合はどうなのか? それは、BtoBtoC での利用が想定される。
例えば、観光案内所や道の駅、旅行代理店などにKibiroを設置するケースだ。Kibiroはその可愛い仕草や声で観光客を迎えて会話をする。会話の内容はネットワークを経由して、地域の観光情報のデータベースと機械学習済みの人工知能システム「KIBIT」と連携している。訪れた観光客は自分が今までよかったと感じた観光スポットをKibiroに伝える。もしかしたら会話の中で好みや趣味、旅の目的などをKibiroに話しかけることもあるだろう。Kibiroはこうした情報をもとに人工知能で好みを解析して、個々の観光客に合わせて最適な周辺の観光スポットをお勧めする。観光ガイド・コンシェルジュといったところ。
もちろん、観光分野に限らず、様々な業種の店頭に置いて商品やサービスを勧めたり、イベント会場などに設置して来場者の好みに合わせたブースを紹介したりも可能だ。専門分野のビックデータで学習させたKIBITと連携すれば、どんな分野でも活用できると見られている。
個人向けKibiroでもレコメンデーション機能は重視されている。
例えば、Kibiro(KIBIT)がユーザーの本に対する好みを学習し、お勧めのタイトルを推奨してくれる機能がある。本や健康情報のレコメンドは個人向けKibiro用のアプリとして提供されているので、ユーザーは無料で利用することができる。
以前からこの機能が気になっていたので早速、デモで体験させてもらった。
まずは、スマートフォンに本のリストが表示され、Kibiroが可愛い声で話しかけてくる。
「次の中からあなたの好きな本を選んでね」
リストの中から好きな本、面白かったと感じた本をチェックすると、その情報がKIBITに送られ、ユーザーの好みの傾向を判断する。
具体的にいうと、読書ログが投稿されるレビューサイトと提携し、書籍ごとのすべてのレビュー文章(クチコミ情報)をKIBITが読んで理解し、書籍ごとにいろいろな視点からのスコアづけを行い、独自のデータベースが予め作成されている。KIBITもその情報から機械学習が行われ、ユーザーの好みやその傾向から、このデータベースと照合して、推奨する理由とともにお勧めの本を表示する準備ができている。
ここで特徴的なのは、ユーザーが好みの本として選ぶ対象の冊数だ。基本は2冊選択だが、たった1冊であったとしてもお勧めを選出してくれる。
デモでは、青山学院大学の駅伝チームのサクセスストーリーを描いたノンフィクション書籍「フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉」を選んで「好き」だとチェックしてみた(アウトドアスポーツ、ビジネス実用書系)。
すると、Kibiroは数秒後に「解析完了、お勧めの本はコレだよ」と言って、ランキングスコアの上位からいくつかのタイトルをお勧めしてくれた。
ひとつはプロ野球チームの成功を描いた内容のノンフィクション書籍(アウトドアスポーツ、ドキュメント)だった。もうひとつは、なでしこジャパンを題材にしたフィクション小説を推薦してくれた。
よく見かける一般のレコメンド機能には、タイトルに同じ単語が使われているものや、著者が同じもの、ジャンルが同じものなどで推奨してくるものが多い。それではあまり実用的だとは感じないが、Kibiroは内容の近いもの、近いと読者が感じたものを推奨する点が今までと大きく異なり、実用性を感じるものだった。
なお、推奨の本の画面には、Kibiroが推奨した理由も表示されている。それを読むとそれぞれの書籍のクチコミ情報に共通した内容が書かれていたり、類似のトピックを抜き出して解析していることが解る。今回のデモでは推奨の1位は同じジャンルの似ている本だったが、2位の本はフィクションのため、ジャンルを飛び越えて書籍の中身でレコメンドしてくれていることが感じ取れるものだった。
人工知能と連携するロボットが、個人に必要な情報をすばやく提供
編集部
ユーザーの好みを判断するのに「ひとつかふたつの質問でOK」という点がユニークですね
斎藤(敬称略)
通常、人工知能が各ユーザーに合わせて最適なレコメンドを行うためには、ユーザーの行動履歴や購買履歴のビッグデータを蓄積・解析して、初めて好みが学習できるようになるものが多いのですが、KIBITは少ない情報で的確な回答を出す点が特徴のひとつです。
この書籍レコメンドの例で言えば、現在は好みとして指定できる書籍は最大で2冊までです。好みの書籍情報がたくさんあれば精度が上がるというものでもなく、ある程度元の書籍は絞り込んだ状態の方が結果はよいだろうという考えです。
編集部
家族の好みを学習するなら、日々の会話から蓄積したデータを分析していけますが、観光案内所に来る観光客は一見さんが多く、初めて会う人の好みを少ない情報で解析できる点は有効でしょうね。
斎藤
KIBITの特徴はまさにその部分ですね。通常解析のために大量のデータが必要になることが多いですが、KIBITは少量のサンプルを与えるだけで、高速に情報をみつけて的確なレコメンドを行うことができます。少ない情報からでも判断できるのは、文字情報から人の機微を理解できるからこそだと思っています。そのため、実証実験においても観光案内では実際に高い評価を頂いています
編集部
ちなみに仮に観光案内所ではどのようなやりとりが行われるのでしょうか。
斎藤
しくみは本の場合と同じです。例えば、誰でも知っているような有名な観光スポットをいくつか表示し、どのスポットが好きかを選択してもらうとします。選んだスポットの評価が「カップルがゆっくりできる温泉」だった場合、そのスポットが温泉かどうかは別としてその周辺地域内でゆっくりできた、落ち着いた雰囲気でよかった、といった評価がある地域内のスポットをレコメンドするでしょう。もし、有名なテーマパークを選んだら、周辺の遊園地に限らず、家族やカップルでアクティブに楽しめるスポットや、日常とは異なる体験ができるスポットを推奨するでしょう。
FRONTEOグループとしては人工知能KIBITを世の中に広めることがミッションです。KIBITを活用すれば自分に合った情報、個人にとって本当に必要な情報が得られます。書籍でも観光案内でも、楽しい体験に出会える機会を人工知能が教えてくれるでしょう。しかし、人工知能と会話でやりとりするのにはデバイスが必要です。デバイスはスマートフォンであったり、スピーカーでもいいでしょう。しかし、デバイスがコミュニケーションロボットだとしたら、何ができるのか、どのように活用される可能性があるのか、を私達は提案していこうと考えています。人工知能+ロボットとの出会いが「自分の知らない自分を発見する」ことに繋がれば素晴らしいですね。
Kibiroは新機能として、ユーザーがKibiroに発言した言葉に対して、Kibiroが何と答えるべきかをユーザー自身が教えておく機能が追加された。例えば、ユーザーが「山田さん」と言ったとき、Kibiroのデータベースに山田さんという名詞が登録されていなければ、ロボットは答えることができません。しかし、ユーザーが個別に「山田さんは釣りが上手な人だよね」と登録しておけば、Kibiroはそう答えるようになる機能だ。
Kibiroは今後も定期的なアップデートによって新機能が追加されていくという。
コミュニケーションロボットと人工知能の組み合わせは大きな可能性を持っているので、今後の機能追加にも目が離せない。