WHO(世界保健機関)の推定によれば、脳卒中、脊髄損傷、多発的硬化症等により、下肢麻痺者は世界中で毎年25万~50万人程度増加している。
個々人の身体状況や周辺環境を把握して対応していくスマートなモビリティ技術を活用することで、多彩なニーズに適合した補装具が登場する可能性があるのではないか、と期待されている。しかし一方で、補装具の市場規模は大きくはなく、商品化に必要な許認可の取得も容易でないことで、小規模事業者等にとっては市場への新規参入の妨げとなっているという声もある。その結果、日常の暮らしやすさに関する技術革新やイノベーションが起こりにくい状況にあると分析されている。
一般財団法人 トヨタ・モビリティ基金 (Toyota Mobility Foundation : 以下「TMF」)は、英国のNPO、「NESTA」のチャレンジプライズセンターと連携して、コンテスト形式の「モビリティ・アンリミテッド・チャレンジ」(MUC)を開始した。このチャレンジは、障がい者(下肢麻痺者)の自立した生活を支援するため、移動の自由に貢献する革新的な補装具に関するアイディア発掘と開発支援を目的としている。選定されたアイディアは開発に繋げて、将来は実社会で役立つものが想定されている(トヨタ自動車が商品化するとは限らない)。
選定されたアイディアの賞金総額は 400 万ドル。開発支援資金として提供され、約3年の開発期間を経て、2020 年夏に東京にて優勝者を発表する。
■動画 Mobility Unlimited Challenge Launch Film (60s)
このチャレンジでは革新的なイノベーションの促進のため、世界中の多様なアイディアをもつイノベーターと、ユーザーである下肢麻痺者とのコラボレーションを推進し、インテリジェントなシステムを組み込んだパーソナルモビリティデバイスの開発を支援する、と言う。例えば、今までにない形状の補装具や、人工知能やコンピューターが自ら学習する機能の搭載、クラウドコンピューティングの活用、革新的なバッテリーが搭載された補装具等があげられる。
アイディア募集から選定、開発までの大まかな日程は次の通り。募集は世界規模で行われ、8月15日が締め切りとなる。もちろん、日本からの応募も大歓迎とのこと。
詳細は下記のホームページで案内されている。
アンバサダー、ピンタレスト社のレイエス氏のコメント
MUCには、現在日本を含め世界中に8名のアンバサダーがいる。MUCの考え方に賛同して自ら関わりたいと言う意思を持ち、ボランティアでMUCに参画し、活動をしている。いずれも、車椅子を使って生活し、テクノロジー、スポーツ、メディア、アートなどの分野で活躍している人たちだ。
その中のひとり、ピンタレスト社のデザイン責任者であるオーガスト・デ・ロス・レイエス氏は次のようにコメントしている。
下肢麻痺者にとって、毎日、一歩外に出かけようとすることさえもチャレンジです。
「デザイン」がその不便を解決していくと強く信じています。
同じ仲間の下肢麻痺者にとって、意味のある違いをもたらそうと言う意思を持っている人々にとって、MUCは素晴らしい機会です。
私は、デザイン、コンピューティング、エンジニアリング、がもっと様々なことに貢献できると信じており、人々がそれに挑んで欲しいと思っています。
まだ未開の地図をたぐり、私のような下肢麻痺者をサポートし、家から外に出て、世界中の街を行き来できるようにしてくれる、現在よりも”インテリジェント”なモビリティの解決策を産み出すことに、デザイン、コンピューティング、エンジニアリングが領域を広げて活用されていくことを願っています。