ロボットの頭脳「クラウドロボティクス」の現状と未来 〜3つのキー・テクノロジーとは〜 米クラウドマインズ社長に聞く

AIやロボット工学は大きく進歩しています。ロボットの目、耳、足、そして手が開発されています。一方で、知性の基準を人間とした場合、ヒューマノイドロボットの中で人間のような知能を可能にする技術は残念ながらまだありません。ただし、クラウド上では高度なAIエンジンや遠隔操作によって、知的な仕事ができるロボットを開発しています。

クラウドマインズは2015年に設立され、本社は米国シリコンバレーのサンタクララ、東京と北京にオフィスを展開し、現在600人以上の社員が働く企業だ。同社のビジョンは、2025年までに人に役立つヒューマノイドロボットを提供すること。一般の各家庭で家事の手伝いをするコンパニオンロボットを普及させる未来像を描いている。
ロボデックスの最終日、クラウドマインズ(CloudMinds Technology)の共同創立者であり社長のRobert Zhang氏が「クラウドAIと将来のロボティクス」というテーマで登壇した。

CloudMinds Technology Inc. の共同創立者であり社長のRobert Zhang氏


ロボティクス市場に重要な3つの技術

Zhang氏はまず、グローバルなロボティクス市場の現状について解説した。高齢化が進んでいることが世界中で課題になっているため、ヘルスケアや介護分野で自動化を進めたり、さまざまなサービス改善のためにAIやロボットを活用することが求められているとした。その上で3つの技術「クラウド・ロボティクス」、次世代通信技術である「5G」、「多彩なハードウェア」がキーになると言う。インフラとしては5Gの大容量と低遅延性が重要として「5Gは限定的ではあるものの2019年中には使えるようになるでしょう。5Gが普及すれば、AIクラウドとロボットを世界中どこにでも置けて、低遅延で通信ができ、カメラ映像のような大容量データのやり取りもできるようになる。われわれのソリューションは5Gのキラーアプリケーションになるでしょう」と語った。

ポイントはクラウドベースの知性、高速で安全なコネクティビティ(5G)、多彩なハードウェアの3つ


AGI(汎用人工知能)はまだ先の話

人間と同様の知能を持つことを目指して開発されている汎用型のAIシステムを「AGI」と呼ぶ。Zhang氏は「AGIはやがて開発されるだろう」としながらも「それはまだまだ先の話。ロボットが完全に役立つためのAIの実現すら、まだ先の話」とする。それが実現するまでは、ロボットが人と協働して働いて補完し合ったり、人の能力を拡張するためのAIシステムやロボットが必要となる。
そして、それを実現するプラットフォーム環境のひとつが「MCS」(モバイル-イントラネット・クラウド・サービス:MOBILE-INTRANET CLOUD SERVICES)だ。様々な情報を収集するセンサー端末、ユーザーのインタフェースとなるロボット、ロボットとクラウドを繋ぐ安全で高速なネットワーク「VBN」(バーチャル・バックボーン・ネットワーク:Virtual Backbone Network)、ロボットからのデータを解析して知的に処理するクラウド「HARI」で構成される。

クラウドマインズが提唱するクラウド・ロボティクス環境「MCS」。センシングデバイス、ロボット、セキュアなネットワーク、クラウドで構成される


クラウド・ロボティクスの頭脳となる「HARI」

クラウド・ロボティクスの頭脳となるのが「HARI」(ハリ)だ。HARIは「Human Augmented Robot Intelligence」の略称で、人間を拡張するためのロボットの知能を表している。AIの回答が適切でなかったり、回答に時間がかかる場合、オペレータであるスタッフがAIに代わってロボットをコントロールして、顧客と対応するというしくみを実現した。また、オペレータがロボットをコントロールして行った正しい対応方法をAIにフィードバックし、ディープラーニングによって機械学習を繰り返すことで、ロボットによる自動の回答率が向上し、正しいコミュニケーションが続けられるように改善されていくことが期待できる。

第3回 ロボデックスのクラウドマインズ社のブースに展示されていたPepperとHARI。携帯電話ショップで来店客を案内して質問に回答する。遠隔からオペレータが複数のロボットを監視できる

Zhang氏は「コンシェルジュ、警備ロボット、家事手伝いロボットなど、ロボットは自身をサポートするためのインフラとなるエコシステムが必要」とし、同社が提供していくと語った。


小型の高性能アクチュエータをまもなく発表

更に、ロボットの構成部品の中で最も重要なものが「アクチュエータ」(サーボシステム)だ。ロボットの約70%はサーボシステムが占めると言われており、低コストで高性能なアクチュエータがなければ次世代のロボットを作ることは難しい。クラウドマインズはロボットを普及させるために、これら「Smart Compliant Actuator」製品群を自ら市場に供給し、メーカーのロボット製品化を後押しする考えだ。

まもなく正式発表される予定のアクチュエータ。詳細な仕様や価格などはまだ不明

「Smart Compliant Actuator」には、サーボモータ、サーボドライブ、減速器、エンコーダなどのコアコンポーネントがすべて統合され、従来と比較して1/10のサイズを実現していると言う(価格も1/10を目指すと言う)。ロボットの可動部分や関節部分に必要なアクチュエータは小型になればなるほど、ロボットクリエイターは自由なデザインを実現できる。


クラウド・ロボティクス分野に注力する CloudMinds Technology の共同創立者であり社長のRobert Zhang氏と、クラウドマインズジャパンの代表取締役社長 朱暁華氏に話を聞いた。


Sprintにクラウド・ロボティクス製品を導入

編集部

クラウドマインズ社がグローバルで展開しているコアビジネスを教えてください。

Zhang氏

最大のビジネスは、クラウド環境でロボットの頭脳や知能を提供する「クラウド・ロボティクス」です。クラウドに必要な「セキュアのネットワーク環境」、ロボットに関連する「センシング端末」なども開発しています。

CloudMinds Technology Inc. 共同創立者 社長 Robert Zhang氏 Ph.D.

編集部

クラウド・ロボティクスの海外での具体的な導入事例を教えてください

Zhang氏

米国の大手通信会社のSprintとは2018年に提携契約を結び、クラウド・ロボティクス関連のソリューションを提供しています。Sprintは米国に1,000店舗以上の携帯ショップがありますが、そこにリアルロボットとして「Pepper」を、バーチャルロボットとして大画面テレビの「アバター」を導入して、来店客に対して商品やサービスの紹介やご案内をしています。ロボットはそれぞれクラウドサービスの「HARI」に接続し、AIが自動で応対したり、複雑な質問にはオペレータがロボットを通して回答しています。

編集部

なるほど、大きな案件ですね。Sprint以外ではHARIをどんな分野で活用されていますか

Zhang氏

病院など医療関係でも活用されています。マイクとカメラを装備した大型テレビでバーチャルロボット(アバター)を写し、それをクラウドのHARIと接続して、来院患者の案内や相談にのっています。看護士やスタッフの煩雑な作業を軽減し、自動化およびコスト削減に貢献しています。

編集部

HARIはクラウド・ロボティクス関連のソリューションですが、アクチュエータ(Smart Compliant Actuator:SCA)やセンサー端末など、ハードウェアの開発も手がけていますね。これらはビジネス上、どのようなシナジーを生み出すのでしょうか?

Zhang氏

現在のビジネスの主力は「クラウド・ロボティクス」のサービスプロバイタです。簡単にクラウド・ロボティクスに繋げられるロボットのハードウェア・インタフェースを開発して提供したり、「HARI」をエコシステムとして普及させたいと考えています。しかし一方で、市場を作っていくには「HARI」に接続するロボット製品やセンサー端末等のハードウェアが増えることが重要です。クラウド・ロボティクスを活用するハードウェアがないと普及は望めません。そこで、ロボットに組み込める小型で高性能なアクチュエータやセンサー端末をリリースして、安くて仕事ができるロボットを、多くのパートナーが開発できるように後押ししたいと思います。
ロボットや端末をクラウドと繋いで運用したいパートナー企業や協業できるベンダーなど、エコシステムの提供先を現在探しています。




ロボティクス分野における米、中、日の違い

編集部

Zhangさんはシリコンバレーでもビジネスを展開していますが、シリコンバレーのクラウド・ロボティクスの現状をどう感じていますか

Zhang氏

シリコンバレーは現在、主にAI技術に注力しているように感じています。ディープラーニングなど、機械学習のアルゴリズム開発やシステムの知能化が中心ですね。ここ数年で、AIがいろいろなところで活用されるようになってきたものの、実際にはどのようなユースケースが最適なのか、活用できる分野を模索しているように感じています。また、AIがどのように解析し、どうしてその結論を導き出したかなど、理論的に説明可能なAIの開発が求められています。

編集部

ロボティクス分野において、米国シリコンバレー、中国、日本の違いを感じる点はどんなことでしょうか

Zhang氏

シリコンバレーはAIを中心にしてソフトウェアやアルゴリズムに強みを持っています。中国はグローバルを対象にした製造分野に強みがありますが、アルゴリズムやアプリケーションについてはまだまだ弱いと感じます。その点で日本はアプリケーションや活用面に強く、マーケティングや実証実験・導入事例で先行しています。各々が各国の特徴や強みを合わせれば、クラウド・ロボティクス業界はもっと飛躍的に発展する可能性を持っています。

編集部

日本でのビジネス展開や戦略を聞かせてください

朱氏

クラウドマインズジャパンは、米国の子会社として同様の戦略をとっています。ただし、日本市場が米国や中国市場と異なる点として、例えば、日本ではPepperを見慣れてしまっていて既に目新しさはありません。そんな状況の中で、Pepperとクラウドを繋げばどんな新しいことができるのか、いろいろな拡張性があってどれほど役に立つのかを提案していきたいと考えています。そして、既存の様々のロボットをクラウドに繋げて、更なるの利用シーンが出てくると確信しています。
日本はロボットの開発ベンダーや専門家が多いので、安くて高性能のアクチュエータでは積極的に協業していきたいと考えています。

クラウドマインズジャパン株式会社 代表取締役社長 朱暁華氏




クラウド・ロボティクスには標準化が重要

編集部

今後、クラウド・ロボティクスはどのように発展していくでしょうか

Zhang氏

将来、ロボットが単体ですべての仕事を処理したり、ロボットとクラウドが連携しない環境など考えられず、クラウド・ロボティクスの流れが来ることは間違いありません。しかし、クラウド・ロボティクスの最も重要なことは標準化です。
以前のパソコンも様々なOSが使われていて、ユーザーは環境の違いや互換性で苦心していました。しかし、Windowsが登場してから事実上標準化されました。スマートフォンも現在はiOSやAndroidで標準化されています。同様にクラウド・ロボティクスも普及するためにはプラットフォームの標準化が重要です。
当社も標準化に注力しています。クラウド・ロボティクスの標準化を推進する団体であるACRO(Association of Cloud Robot Operators)に積極的に参加して、ソフトバンクロボティクスほか、大手ロボティクス関連会社や通信キャリアなど関連業界と力を合わせて標準化をしていこう、と呼びかけています。

編集部

御社はブロックチェーンも手がけていますね。ビジネス活用としてどのように提案していくのでしょうか

Zhang氏

米CloudMinds Technologyは、ブロックチェーンをベースとした高セキュリティーな認証ソリューションをソフトバンクと共同開発したことを2018年の5月に発表しました。このソリューションは、クラウドマインズのブロックチェーンベースの認証ソリューションと、モバイルキャリアの認証プラットフォームを組み合わせたものです。ブロックチェーンを使ってデバイス、ユーザー、サービスを連携して、認証を一元管理することができます。ブロックチェーンの安全性ではいわゆる「51%攻撃」が懸念されていますが、当社のシステムではそれを防止する特別なしくみも用意しています。
また、ブロックチェーンとAIは連携させて活用することができると考えています。ブロックチェーンは分散型ネットワーク技術ですが、コンピュータのリソースや電力など多くの資源を消費します。AIは最適化が得意なので、ブロックチェーンによるリソースや電力消費を最適化できる可能性があります。また、分散型のブロックチェーンは内部のアーキテクチュアが解りやすくなり、AIのアーキテクチュアをオープンにすることで相互に発展できる可能性があります。

朱氏

当社はVBNを含めて高いセキュリティを確保したネットワークを提供できます。セキュリティの高いネットワークシステムを病院などに導入するなど、ブロックチェーンはビジネスというより、技術を発展させることを最優先に考えて開発しています。日本でも電子カルテの導入などが進められていますが、個人情報をリモートで活用するために、分散型で安全性と保全性の高いネットワークが必要だと思います。

編集部

ありがとうございました。最後にロボスタの読者にひとことお願いします

Zhang氏

日本だけでなく、ロボット開発環境において新しいアイディアが次々と登場してとても素晴らしいと感じています。クラウド・ロボティクス環境が標準化されれば、ロボット開発は更に活発化が進むと思います。標準化の策定を一緒にやっていきましょう。

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