スマートスピーカーやコミュニケーションロボット、チャットボットなど、ユーザーと話ができるAI会話システムが増えています。そのようなAI会話システムはユーザーからの質問に対して最適な回答をしたり、「音楽をかけて」「テレビをつけて」などの指示に対して対応するように作られています。しかし、実はほとんどの会話システムは「雑談が苦手」です。
人は親しい友人や家族とは「今日は疲れたよ」「最近寝不足で」など、とりとめのない会話をしますが、AI会話システムにとって、ユーザーからの雑談の問いかけに満足のいく回答をするのはとても難しいのです。非常に難しい雑談ですが、NTTドコモは雑談専用の会話システム「かたらい」の技術開発を行い、既にロボットやチャットボットへの導入が始まっています。
ほとんどの会話システムは雑談がにがて
スマートスピーカーや会話ロボットは、予め用意された質問や、得意分野の質問に対して適切に答えるものの、シナリオが用意されていない質問にはほとんど対応できません。ユーザーの多くは雑談の会話が続かないとガッカリしたり、親しみが湧かないと感じてしまいます。
「かたらい」は雑談専用の会話システム
NTTドコモが雑談を専門に開発した技術を用いた対話システムが「かたらい」です。「しゃべってコンシェル」に蓄積された21億回以上の日本語大規模データをもとに、4000万シナリオ相当の雑談を対話AIの最新技術でこなします。
「かたらい」は「WEB API」としてスマートスピーカーやロボット、チャットボットなどの既に開発済みの会話システムをサポートするかたちで提供されます。例えば、ユーザーが話した質問に対する回答のシナリオが会話システムに用意されていない場合、「かたらい」に切り替えるようシナリオに書いておけば、「かたらい」が気の効いた回答を行い、会話を継続することができます。
スマートスピーカーやロボット、チャットボット等、会話システムの会話の幅を大きく拡げる雑談専用のエンジン「かたらい」は、社会の課題をどのように解決するのか、開発者やメーカーはどのように導入できるのか、NTTドコモの「かたらい」プロジェクトの大西可奈子氏と角森唯子氏に詳しく聞きました。
雑談は会話を楽しくする
編集部
NTTドコモが雑談専用のAIを提供しているとは知りませんでした。「かたらい」を開発した思いや経緯を教えてください
大西さん
「KatarAI」は語るAIという意味を込めて命名しました。人と雑談できる、雑談専用のAI会話エンジンをAPIで提供しています。
私たちは「人に寄り添うAIが存在し、人とAIがふつうにコミュニケーションしている世界」を目指しています。日本は少子高齢化社会を迎え、ひとり暮らしの人が増えていて、世界的にも「孤独は大きな社会問題」となっています。そうなると会話は減る傾向にありますが、認知症の予防には会話を増やすことが有効だという説もあります。高精度な雑談AIシステムを開発することで、人とAIが会話する機会が増え、人が抱えるさみしさなどを解消するひとつの手段になるのではないか、と考えています。
編集部
なるほど。しかし、雑談はコミュニケーションの中でも最も難しいと言われています。FAQシステムであれば、想定される質問とその回答をすべて網羅できれば完了、というゴールがありますが、雑談にはゴールはありませんよね
大西さん
その通りです。実際に今、世の中にある多くの会話ロボットやチャットボットは、得意分野の質問には答えられるけれど、雑談には答えられないものがほとんどだと思います。それではユーザーはAIとの会話が楽しいとは感じませんし、満足度も向上しません。
人と人とのコミュニケーションに雑談は欠かせませんが、AI会話システムにとって雑談はとても難しい技術が必要です。雑談はユーザーからどんな投げかけがあるか予想できませんし、最近の情報や流行なども話題として取り込んでいく必要があります。
約4000万シナリオ相当の大規模発話データベースを構築
編集部
それほどに難しい雑談の受け応えを「かたらい」はどうやって実現しているのか興味があります。まず「かたらい」の優位性とはどんな点にあるでしょうか
角森さん
ドコモはエージェント機能「しゃべってコンシェル」を2012年3月にリリースし、その後も開発・運用を続けてきました。そこで培ったノウハウと、最先端のAI研究を行っているNTTメディアインテリジェンス研究所の技術をもとに「かたらい」を開発しています。単純な一問一答ではなく、文脈から次にシステムがすべき話題や発話タイプ(質問や共感など)を推定し、返答するしくみになっています。このようにして、ユーザーの投げかけに対して最適な回答を返す、雑談AI会話システムを実現しています。
また、定期的にインターネット上のデータを収集して、最近の情報や流行語などに対応できるシステムの応答を自動生成しています。こうして作成したデータは、シナリオに換算すると現時点で約4000万相当あります。
「かたらい」は講談社のATOMにも実装
講談社の「週刊 鉄腕アトムを作ろう!」でお馴染みの会話ロボット「ATOM」には、雑談を専門に担当するAI会話システムとして「かたらい」が採用されています。ATOMには膨大な会話シナリオが標準で用意されていて、ユーザーの指示に応えて、天気やニュースなどを回答します。更に、標準のシナリオにないユーザーからの問いかけに対しては、「かたらい」にバックグラウンドで切り替わって応対しています。
下はその様子を示した動画です。ユーザーが「流行語」についてATOMに質問した際、ATOMは標準のシナリオから回答しています。その後、ユーザーが「もうすぐオリンピックだね」と話しかけると、その回答は標準のシナリオにはないので、「かたらい」から適宜、最適な回答を行っています。
■ ATOMとの会話 「流行語について教えて」から雑談(かたらい)へ
FAQチャットボットを雑談対応に
編集部
最近は企業や観光施設などのお問い合わせ窓口に「FAQチャットボット」を導入している企業も多いですが、チャットボットにも「かたらい」を追加できるんですか?
角森さん
はい、「FAQチャットボット」にも追加できます。実際にドコモオンラインショップのFAQチャットボットで導入しています。ドコモオンラインショップのFAQチャットボットは、通常は「機種変更したい」「学割について教えて」と言った専門的な質問にお答えしています。
一方で、ご質問欄にFAQチャットボットが答えられないような入力がされた場合は、「かたらい」に切り替わって回答するようなしくみになっています。
編集部
なるほど、専門的なFAQの会話エンジンから、雑談エンジンにすぐさま切り替わっているんですね
角森さん
はい。FAQエンジンが雑談にも対応することによって、チャットボットとの会話が増えて、印象やイメージアップ、お客様満足度の向上に貢献しています
既存の会話システムに手軽に追加できる雑談API
編集部
ロボットやチャットボットなど、既に開発済みの会話システムに追加することができるんですか?
大西さん
はい。「かたらい」はWEB APIで提供しますので、基本的にはネット接続されたシステムならどんなものにも対応できます。お申し込み頂いてから3営業日程度で導入して頂くことが可能です。既に4000万相当の雑談シナリオを用意していますので、開発者の方はシナリオを作成する必要はありません。APIで接続するだけで豊富な話題に答える雑談システムと連携できます。
角森さん
もうひとつ大きな特徴が、独自のキャラクタを作成できることです。例えば、ロボットであれば会話の語尾に「ロボ」をつけて話すとか、キャラクタの口調を設定することができます(エンタープライズプラン)。
また、「わたし」「ボク」「オラ」など、一人称を指定したり、名前、趣味や出身地といった様々なプロフィールを設定するなど、キャラクターをカスタマイズすることができます。アニメやコミックスのキャラや地元のゆるキャラ、独自にプロフィールを持ったAIキャラクタなどを簡単に作ることもできますので、ユーザーにとって会話が楽しくなりますよね。雑談することに価値が生まれ、ロイヤルティを上げる効果もあります。
「かたらい」はインターメディアプランニング株式会社がサービス提供元となっていますので、窓口もインターメディアプランニング株式会社です。開発会社やメーカーの方からのお問い合わせをお待ちしています。
ロボットやスマートスピーカー、チャットボットとの会話で、期待通りの回答が返って来なくてガッカリした経験がある人も多いと思います。期待通りに答えられるAI会話システムはもちろんまだ存在しませんが、「かたらい」はそれに一歩近付くための先進技術と言えるでしょう。