倉庫の商品棚ごと運んでくる物流ロボット「バトラー」、グレイオレンジが日本市場に本格参入へ 市場規模や販売目標は?

サプライチェーンの自動化をグローバルで展開しているGreyOrange(グレイオレンジ)社が日本市場に本格参入する。同社が持つ最も知られているシステムは倉庫で配送する製品を棚ごと運んでくる自動化ロボット「Butler(バトラー)」だ。
Amazon Robotics(旧Kiva Systems)と似ているしくみのロボットだが、Amazon Roboticsは自社Amazonの倉庫への導入のみ行っているのに対して、グレイオレンジは同分野で販路の拡大をはかる (Amazon Roboticsキラーと呼ぶ)。

倉庫で活躍する自動搬送ロボット「バトラー」。可搬式棚(MSU)と、更には運用管理・最適化システム「GreyMatter(グレイマター)」とセットでシステム構築を行う

9月26日に都内で事業戦略説明会(メディアブリーフィング)を開催し、オークラ輸送と提携して販売・サービス網を構築することを発表した。日本市場にはGROUND社と組んで2015年から参入していて、バトラーはニトリやトラスコ中山をはじめとして複数のクライアントに既に250台超が導入されている。

倉庫内の可搬式棚をピッキングスタッフのいるステーションへ運ぶバトリー。一般に大規模な倉庫では、商品を探してスタッフが歩き回る歩行距離は平均して一日一人あたり11kmに及ぶケースもあると言う

バトラーについてはロボスタの記事「ニトリも導入した自動搬送ロボット「バトラー」物流倉庫の自動化を加速!4.2倍のピッキング効率を達成するしくみ」も参照のこと。

■ 動画 GreyOrange Butler 2018: A Goods-to-Person System (GTP)


日本の物流・倉庫関連業界の実状とロボット自動化

GreyOrangeは2011年創業、米国とシンガポールを中心に、インド、日本、ドイツにて事業展開をしている。発表会には本社のシニアバイスプレジデント兼COOのジェフ・キャッシュマン氏が来日し、日本の報道関係者に向けて同社のグローバル展開の状況と日本市場での戦略について説明した。

GreyOrange Inc. シニアバイスプレジデント兼COO ジェフ・キャッシュマン氏 「フルフィルメントセンターも大きく変革して行かなくてはならない。スピード感が重要で、発注したその日に届けることも特別ではなくなってきた。自動化が不可欠だ」

キャッシュマン氏によれば、日本の物流市場は最大25兆円と大きく、GDPの5%を占め、210万人が業界で働いていて、この数字は日本の全就業者数の3%だという。また、日本の物流の品質は高く、世界的に見ても競争力は高いレベルにあることが特徴だと語った。

日本の物流市場の規模は最大25兆円。GDPの5%を占め、物流競争力は世界的に見て高い、と分析

また、日本のオンライン市場は全世界で中国、米国に続いて3位、利用者数も年々増加していて世界11位(2018年)となっている。また、消費者の期待値の高さは世界最高標準にあるとした。特に消費者は、オンラインショップには3ヶ月ごとに新製品が並ぶことを期待していて(四季がはっきりしていることも影響)、新製品への入れ替えが激しいことは、物流業界にとっては大きな負担になっていると説明する。

eコマース市場は世界第3位、物流を含めて、サービスに対する期待値は世界トップという

消費者は3ヶ月に一度、商品が新しくなることを期待している。日本の物流や配達業務のレベルはとても高い


1日50万オーダーを処理するための自動化

大規模な物流倉庫は、今や1日に50万オーダーを処理する必要があり、スピードでも巨大なオンライン市場をリードする巨人、Amazonとも競合していかなければならない。こうした背景もあり、更には日本特有の極度な少子高齢化、賃金の上昇などから、物流や倉庫の自動化が強く求められている、とした。2018年には194,000台だった倉庫・物流ロボットは2022年までに938,000台に伸びるという予想も出ている、と強調した。


中でも自律移動ロボット「AMR」(Autonomous Mobile Robots)を採用する小売業者が注目され、今後の導入が進むとみている。

フルフィルメント業界でGTP(Good to Person)型ロボットが普及する見込み。AMRが注目されている

物流倉庫の業務をインバウンド、アクティブな在庫作業、ピッキング、仕分け、アウトバウンドに分け、グレイオレンジはアクティブな在庫作業とピッキングの部分で作業員を支援していく。



導入実績は250台強

気になるバトラーの導入実績は、GreyOrange株式会社の佐々木社長によると日本では合計250台強。ニトリが80台、トラスコ中山70台(10月より埼玉でスタート)、トラスコ東北50台弱、大和ハウス30台(昨年4月から稼働中)などが公表できる実績だとしている。バトラーの参考価格は50台前後で約3億円。グローバルでのロボット導入台数は、2300台以上(設置中も含む)、物流ロボットでは最大級の規模だとした。XPOロジスティックスとの特別な関係にあるという。

GreyOrange株式会社 代表取締役 佐々木佳彦氏

年商1千億円規模の企業であれば、物流・倉庫の自動化を検討するのに十分適した規模だと見込んでいる。


「2020年3月末までに100台強の導入めざす」オークラ輸送機

兵庫県加古川市に構えるオークラ輸送機はコンベアや仕分け機、ピッキングシステムなど、マテハン関連のコンサルティング、設置、サポート等をメインの事業としている。創業から約90年の歴史と実績があり、単体では従業員数約500名、グループ会社を入れると約1,000名、約450億円の売上に達する。倉庫や物流システム今年6月よりGreyOrangeの自動搬送ロボット「バトラー」の日本国内での販売を担うことになり、それにあわせて東京オフィスを永田町に構え「日本市場でのビジネスの本格的な拡大を目指していく」としている。販売目標について記者から質問があると「導入しているGTP(Good to Person)の規模からいくと、ロボットは1案件で50台前後となっている。初年度(来年の3月まで)に2案件、100台強の導入を目指す」と語った。兵庫県の本社ではバトラーとシステムを導入してデモ用ショールームを設置する見込みだ(年明けには見られる)。

オークラ輸送機株式会社 執行役員 物流システム営業統括部長 長嶺 正氏

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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