ロボット掃除機の運用効果を定量化する試み 日本ビルメンロボット協議会がセミナー
公益社団法人全国ビルメンテナンス協会と一般社団法人日本能率協会が主催する「ビルメンヒューマンフェア&クリーンEXPO 2019」が2019年11月13日から15日の日程で東京ビッグサイトで開催された。
最終日の15日には「日本ビルメンロボット協議会」による講演が行われ、複数台、あるいは複数種類のロボット運用事例、施設共有部や病院での活用事例などが各社から紹介された。なお、より詳細について知りたい方には、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会による「清掃ロボットの運用実験報告書(https://www.tokyo-bm.or.jp/dcms_media/other/清掃ロボットの運用実験報告書.pdf)」をご覧になることをおすすめする。
・専有部でもロボット掃除機は使えるか フィグラ
・ロボット掃除機の入れ方を定量化する 小田急ビルサービス
・ホテルでの複数ロボット掃除機の運用効果 大和ハウス工業
・病院での掃除ロボット運用効果 中西金属工業
・展示についてもごく簡単に
専有部でもロボット掃除機は使えるか フィグラ
まずはじめに、フィグラ株式会社 F.T.事業ロボット部 課長の扇谷敏明氏が「清掃ロボットの専有部における運用の事例報告」と題して、建物専有部でのロボット掃除機の実証導入事例が紹介された。今までの掃除ロボットは共用部での活用が多いが、同社は専有部でのロボット清掃が可能かどうかを検証した。
扇谷氏ははじめに「ロボットと人との共同作業が前提だ」と述べた。人とロボットは違う。ロボットは万能装置ではない。あくまで家電同様、特定の仕事に特化した機械だ。そのため、どうしても人でなければできないところと、ロボットがやれるところの分業が発生する。
バキューム清掃は重労働だ。専有部の清掃は、椅子を片手でひいて、もう片方の手でバキュームする、終わったらまた戻すという作業の繰り返しだ。現在のロボット掃除機にはものを動かす機能がないので、このような作業は難しい。そのため、単純に清掃ロボットを入れても工数の削減にはなかなか繋がらない。
今回の検証を実施した時期は2018年10月から2019年1月下旬。場所は9F建オフィスビルの7F専有部。土日、定日の18時以降に運用した。1フロア面積は840平米、事務フロアは528平米と、そのうち62%を占める。今回は、528平米中の200平米に限定して検証実験を行なった。
使用機材はフィグラ社の「F.ROBO CLEAN」の750タイプ。選定理由は、什器が立ち並ぶ室内で求められる直線移動の正確さとバキューム幅の広さ(750mm)。ロボットの動きは事前にメーカー側で、実測と図面から設定する。運用では壁面から10-20cm程度逃げるように設定した。今回実証した専有部の通路は1.3m-1.9m、机間間隔は2.2mと広め。ロボットの走行速度は24m/分(時速1.4km程度)。750mmのバキューム幅があるので、行って帰ってくるくらいで通路は清掃できる。
専有部での掃除においても、ロボットは、できるだけ直線で掃除できるところをカバーする。椅子まわりは人が手でコードレス掃除機でバキューム作業する。ロボットは椅子の足を避けながら清掃していく。
結果は、全面の清掃を人だけでやった場合は22分以上かかるが、ロボットと一緒に行なった場合には、人の作業(机の下などの清掃)時間は14分だった。ロボット清掃時間は17分。全面を人がやった場合に比べて、人の作業は8分ほど短縮したことになる。ロボットの作業時間の短縮幅は5分間となった。ロボットと併用することで、直線部分のバキューム負担が減ったことになる。実作業としては、隅は週に一回人がやり、普段はロボットに任せるといったことで、より全体の作業時間を短縮できる。必要なことはロボットの安定稼働だと述べた。
また、センサーなどについては確実な停止や再稼働は可能だったが、バキュームノズル部分での接触については再運転が自動でできないことがあり、再度リセットが必要だったという。この点については現状は止まる設定にしているが、今後、改善していく。また椅子の足のように低い位置にあるものはセンサーで事前に検知できないことがあるので、軽い什器はあらかじめ清掃範囲から事前排除しておくといった配慮、什器への接触リスクの低減が必要だと述べた。
基本的にイレギュラーな移動などがない限り、走行直進性や距離の確実性については問題なく、スタート位置の設定さえ確実に行えば3ヶ月間ぶれがなく安定稼働させることができたという。
■動画
ロボット掃除機の入れ方を定量化する 小田急ビルサービス
株式会社小田急ビルサービス 清掃事業部 次長兼第2清掃課 課長の高橋英治氏は「清掃ロボットの同機種複数台同時運用の事例報告」と題して講演した。
以前、高橋氏が、あるセミナーで「将来、清掃ロボットが必要になると思うか?」と聞いたら、全員が手を挙げたという。しかし、「ロボットを導入する気持ちになったか?」と聞いたらゼロだったそうだ。つまり多くの人が「ロボット掃除機に未来はある」と思っている。だが「実際には買わない」人たちが多かった。その状況は今でもあまり変わってないという。
高橋氏は、ロボット掃除機は技術的には進化しているが、実際に清掃業者にとって進化しているというと、ちょっと疑問があると語った。今後、労働人口は減る。現場は外国人雇用に頼っているのが現状だ。そしてロボットによる効率化への期待は高い。一部導入事例もメディアでは盛んに報告されている。しかし、本当に定着しているかどうかは怪しいし、機械の導入が活発になっているかというとそうでもない。高橋氏は、ロボット技術は伸びていると言われているが、清掃などのサービス現場での導入は進んでいないのが実情だと指摘した。
ロボット技術への期待度は以前から高い。だが、導入は進んでいない。メーカーも導入側も技術に注目しすぎていたのではないかと高橋氏は述べた。技術に注目した結果、ロボットはセンサーをいっぱい実装するようになり、壁際まで寄れるようになった。実際、メーカーからは「これまでは30cmだったのが25cmまで寄れるようになった、どうだ」といった売り込みが多いそうだ。高橋氏は「技術の進化の尺度が壁際○cmになっている」と指摘し、これではユーザーとメーカーのあいだの議論は平行線のままであり、結果、導入が進まず、現場からのフィードバックはなく、開発が進まないという悪循環から脱することはできないと述べた。課題があるのは技術側だけではなく、清掃業者にもあり、文句はいうが、互いにそのベクトルが噛み合ってないので、一番大事な現場データが吸いあがらず、モノは売れず、結果としてロボットの価格は高止まりしてしまっている。
そこで小田急ビルサービスでは、開発はもういいとわりきり、今の価格のもので何ができるのかを検討するためのチームを作った。そして「清掃会社がやるべきことは使い方を考えることだと考えた」。メーカーは既に十分なモノを作っていると受け入れて、運用技術の確立を目指した。清掃ロボットが運用できる条件は限られている。その条件を探索したのである。
たとえば家庭用の掃除ロボットは一定の効果があると認められ、価格にも値ごろ感ができており、量販店でも売れている。そして家庭用ロボット掃除機のオーナーたちは、ロボット掃除機を導入するために室内の邪魔なものをどけたり、仕上がりについても「このくらいできれば十分だ」といったオーナー了解がある。結果、価格も安くなり、サイクルが回るようになったわけだ。
では業務用清掃はどうか。高橋氏は、「ロボットだけに着目する気は毛頭なかった。ロボットはとりあえず置いといて、世の中の建物が汚れるとはどういうことかを探った。床材が汚れていくプロセス、汚染が進行していくプロセスを探った」と語った。
つまり、ロボットの短所を建材で補えないかと考えたのだという。壁際の掃除ができないのであれば、壁際に汚染が進行し難い建材を探せばいいのではないかというわけだ。答えはカーペットだった。カーペットにはダストポケット効果があり、汚れは基本的に垂直方向に進み、横には飛散しない。人が通行すると土砂が持ち込まれるるが、その土砂はカーペットのパイルが取り込む。つまり、歩行動線ではないところには汚れは入り込まない。
運用方法も見直した。これまでの代表的な運用方法は、ロボットに何かをさせている間に、並行して人は何かをするというものだったが、これは案外難しいのだという。人とロボット、それぞれの清掃速度が異なるからだ。また、ロボットは深夜に動かすというパターンもあるが、深夜作業にはセキュリティや作業時間変更の問題、バッテリーや緊急停止といった問題もある。
そこで、まずカーペットに特化することを考えた。基本的に人が通れるところ(汚れるところ)はロボットも通りやすい。障害物がないからだ。そこで、軽汚染となる壁やコーナーについてはロボット稼働を考えるのではなく、カーペットのダストポケット効果を最大限発揮し、清掃周期を伸ばすことを考えた。連日動かすロボットは重汚染の通路を主に清掃するようにした。
重要なことは、重汚染と軽汚染の区別、ゾーニングだという。そして既存の作業時間内に終了させるため、複数台を同時稼働させる。ランダム走行ではなく、汚れに応じたゾーニング資料をもとに、人とロボットのフォーメーションを作成し、効率化を測った。これらによって、全面バキュームが、ほぼスポットバキューム程度の作業に軽減することができたという。もちろん隅を全く掃除しないでいいわけではない。だが、歩行導線へのロボット導入で、かなりの汚れがカバーできるという。
しかし建材が石材やPタイルの場合だと、埃は壁際コーナーへ移動し、集中する。だがカーペットなら導入が可能であり、ロボットのメリットが活かせるという。ロボットの動かし方についてはかなり細かく指定した。それによって掃除が必要な面積を絞り込んで作業時間を短縮した。フロア間の動かし方も無駄なくなるように考えた。ロボットのプログラムも頻繁に見直して、各ロボットの動きを1分、2分と短くして、逐一改善していった。
すると小田急の見積もりでは、最低限1時間で400平米くらいの清掃速度がないとロボット掃除機の導入メリットがないとわかった。「こうじゃないと仕事にならない」がわかることで、現場から見て根拠がある仕様を出して、メーカーにフィードバックを返すことができるようになったという。そして導入前に損益の見積もりと導入可否の判定ができるようになった。
さらに導入への簡易判定基準を作ることで、プロの清掃業者よりも前に、ビルのオーナーが事前に効果をチェックできるシートも作成した。コスト比較もできるので、どのくらいの価格・運用費のロボットなら導入する意味があるかないかを事前に知ることができる。なおチェックリストにはカーペットのパイル状態や掃除面積はもちろん、掃除機の収納場所や充電場所、職場やオーナーの改善意欲なども含まれている。
改善された運用によって、実際の清掃ではロボットがどんどん作業を終わらせていくので、人も無駄なく動くことになる。これによって規則正しく、誰がやったとしても均一な労働をすることになり、人件費算出においてもプラスとなったという。
最後に高橋氏は、将来は「清掃ロボットオペレーターとプログラマーを募集」とか、逆に「機械ではなく手仕上げ重視」といった広告が出るかもしれないし、「品質向上にはロボットの走行経路をこのように見直すといいのでは」といったインスペクション所見が出るようになるだろう、そうなると清掃ロボットが浸透したと言えるだろうし、ロボットと対抗する人の力が出てくるときにロボットが根付いたと言えると締めくくった。
ホテルでの複数ロボット掃除機の運用効果 大和ハウス工業
大和ハウス工業株式会社 営業本部 ヒューマン・ケア事業推進部 ロボット事業推進室 インスペクションチーム 主任の小林恵氏は「清掃ロボットの他機種同時運用の事例報告(大和リゾート那須)」と題して講演した。同社はリゾート型ホテルを全国29箇所で運営しており、そこでロボット掃除機の運用を行っている。小林氏ははじめに、速度、パワー、位置極めに利点を持つ産業用ロボットと違い、サービスロボットは単体では100点を取れず、人の手によって運用方法を工夫することで能力を発揮すると述べた。
紹介された導入事例は、地上13F 190部屋の「Royal Hotel那須」での運用。人と道具とロボットを組み合わせることで労務時間を短縮できるのではないかと考えて、2018年6月から検討・調査をはじめ、2019年3月から5月まで3ヶ月間の短期レンタルでの導入実証を行なった。実施場所は1Fのエントランスホール、ロビーエレベーターホール、通路、2Fの宴会ロビーなどのほか、通路など。ロボットと道具の導入によって作業軽減、労務負担軽減を目指した。以前には家庭用のロボット掃除機などもテストしてみたが、すぐにダストボックスが溢れてしまったという。
導入したロボットは、マッピング式で動くアマノの「RcDC」による共用通路や廊下の清掃、ランダムに動くマキタ「ロボプロ」による宴会場や会議場の清掃、そして窓清掃用にセールス・オン・デマンドが国内で展開する「ウインドメイトRT10」と「同WM」。このほか、マキタの背負い式の掃除機やハンディコードレス掃除機、充電式ポット型を利用した。マキタの機材は共通バッテリーで使えるためだ。
ロボット掃除機の導入によって、ざっくりと月に100時間の労働生産を向上させることができたという。ただし100時間そのまま削れたのではなく、ロボット掃除機の導入によって、細かいところまで手が回るようになったり、パートのシフトが組みやすくなったという点が現場から高評価だったとのこと。「ロボプロ」のほうも使用し続けることでダスト量が少なくなってきたり、宴会場の掃除のための早出残業をしなくてよくなったという点が評価されたそうだ。
窓清掃についてはこれまで時間がをさけていなかったので、それができるようになったと評価された。また小林氏は、「清掃中、お客さまから窓が綺麗ですねと声をかけられた」と、あまり口の軽くない現場でのロボット運用担当者が嬉しそうにコメントした点が本当に印象的だったと紹介した。いまはSNSでの写真投稿が増えており、そのためにも窓清掃のニーズは高まっているという。
病院での掃除ロボット運用効果 中西金属工業
中西金属工業株式会社 輸送機事業部 営業統括部 東部統括グループ 物流チーム 田村英郎氏は「清掃ロボットの医療施設における運用の導入事例報告」と題して講演した。中西金属工業株式会社はベアリング、製造工場の搬送コンベアなどを手掛ける企業だが掃除ロボットのほか、フォークリフトのロボット化、自動倉庫なども手がけている。
同社の掃除ロボットは、外装に可愛い図柄をつけて親しみやすくしている。たとえば千葉駅では夜間に毎日清掃を行っている。ロボットはマッピングでエリアごとに走行して清掃するタイプ。狭い装置間でも反射板を使って走行したり、細い廊下でも走行できる。スマホに清掃レポートを送る機能もある。スイスのSC規格の認証を取得している。
移転・新設に伴って2019年3月に清掃ロボットを導入した芳賀赤十字病院の規模は5F建、364床。清掃受託先は、ビルメンテナンス事業のほかレンタル事業やコインランドリー・無人精米機などを運営する中央テクニカ株式会社。同社では2017年からロボットの必要性を認識しており、2018年のビルメンフェアで各社のロボットを実際に知り、検討のうえ、導入を決めた。
導入されているロボットは二台。運用は1名で行っている。ソファーや看板などを定位置に戻す作業を事前に行う必要はあるが、それをすれば、後は手がかからず、ロボットが自動で清掃をする。ソファの上やテーブルの上、トイレなどは人が掃除する。ロボットは騒音があるので、清掃するのは1Fと2Fの外来や管理フロアなど。
田村氏は、病院内の清掃は「ソファとの戦いだ」と語った。とにかくあちこちに椅子があり、なくなったかと思うと別の場所に設置されてさらに増えたりするのだそうだ。ロボットは1フロアを3つくらいのエリアに区分して清掃していく。ガラス板については反射板で対応した。屋内だが点字ブロックもある。ロボットは足先高さ5cm以下だと見えないので、そういう土台を持つ看板は、事前に定位置に持っていく必要がある。血圧計などの複雑形状の機械にはシーツをかけて、センサーで認識しやすくしている。田村氏は、このような「人による『整地化』が運用では重要だ」と強調した。
2Fでは交代時間を迎えたスタッフたちの集団や、調理場の給食台車トレイの列などを回避して進む必要がある。人の往来が事前に予想されるときには稼働時間に配慮したり、スタート位置についてもわかりやすいところに設定することが重要だ。導入コストについては「生産性向上特別措置法」による支援が中小企業は利用できることを紹介し、ロボット二台も一括償却して、一台あたり350万円で済んだと述べた。
ロボット掃除機の運用面でのメリットは清掃品質の均一性と作業時間短縮、終わり時間が読めること、院内事故の防止を挙げた。感染対策にもなるという。今後については、来年3月、真岡市では市庁舎が新設されることから、中央テクニカでは名物のイチゴをつけた掃除ロボット導入を狙っているとのことだった。
展示についてもごく簡単に
■ 動画
中西金属工業は、掃除ロボット「ロボクリーパー」のほか、追随、パレート(追従)、リモコン操作と3種類の走行モードを持つロボット台車「Forolley」を参考出展。50万円程度での販売を目指している。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!