金沢大学と東芝、SOMPO 人工透析が必要な重症化を防ぐためのAIを開発 糖尿病患者への保健指導をAIが支援、QOL向上を目指す

金沢大学と東芝、東芝デジタルソリューションズ、SOMPOホールディングスは「糖尿病性腎臓病の重症化に関連するリスク因子を算出するAI」を活用した患者への保健指導を今月から開始したことを発表した。
このAIは、糖尿病性腎臓病の重症化の予防と、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の改善に向けて、4者で開発したもの。なお、金沢大学は和田隆志理事・副学長(腎臓内科学)らの研究グループが研究・開発にあたっている。

4者は、石川県金沢市の医療機関(かかりつけ医)、石川県栄養士会、中等度腎機能障害を併発した糖尿病患者の協力のもと、このAIを糖尿病患者のQOL向上に生かすための実証研究「糖尿病性腎臓病重症化予防プログラム」を2021年12月から行なっていて、AIを活用した保健指導は、このプログラムの一環として行うもの。


日本は世界第2位の人工透析大国

人工透析を受けている人の数が日本は世界と比較しても多く、人工透析は生活にに大きな負担となってくる。また、人工透析に至る重症化を抑えるためにも早期に最適な診断を行う流れが社会にとっても望まれている。そこにAIを活用という取り組みだ。

日本は、台湾に次ぐ世界第2位の人工透析大国。透析患者数は国民の約370人に1人、約34万人にも及ぶという。中でも、糖尿病の合併症として発症する糖尿病性腎臓病の重症化による透析患者数が最も多く、全体の約4割を占める。
人工透析が必要になると、透析治療によりQOLが低下するだけでなく、1人当たり年間約500万円の医療費負担、国全体では年間約1.6兆円の公的医療費が必要とされ、これら費用の負担も甚大となる。
このため、糖尿病性腎臓病の重症化を予防することは健康寿命を延ばすだけでなく、医療保険財政を健全化する点からも喫緊の課題となっている。糖尿病性腎臓病の重症化を防ぐためには、患者の行動変容(日常的な健康生活の習慣化)に加え、医療機関受診による治療の継続が求められる。


重症化に関連するリスク因子を算出するAIを開発

これを背景に、金沢大学、東芝、東芝デジタルソリューションズの3者は、2019年8月に、糖尿病性腎臓病患者の症状が改善・悪化するパターンを分析し、重症化メカニズムを解析する共同研究の開始を公表した。

糖尿病性腎症患者の重症化パターン別の予防法開発を共同研究で目指す(2019年8月発表) 東芝アナリティクスAI 「SATLYS(サトリス)」は高精度な識別、予測、要因推定、異常検知、故障予兆検知、行動推定などを実現するAIサービス。(https://www.toshiba-sol.co.jp/pro/satlys/

その後、SOMPOホールディングスを含めた4者で共同開発を進め、金沢大学の高度な医学的知見と東芝、東芝デジタルソリューションズのAI技術、SOMPOグループが持つヘルスケアのノウハウに加え、東芝健康保険組合が持つデータを活用することで、重症化に関連するリスク因子を算出するAIの開発に成功した。


「糖尿病性腎臓病重症化予防プログラム」の概要

この実証(図1)では、まず、4者で共同開発したAIに、実証研究の協力者30名の中等度腎機能障害を併発した糖尿病患者の健康診断結果を解析させた。

図1.実証研究でのオペレーションイメージ

「現状維持が望ましい検査項目」と「改善が望ましい検査項目」が分かる個別化されたリスク状況を記した「生活習慣の維持/改善目標シート」を作成(図2)。
このとき、アナリティクスAIがパターン分類を行い、維持・改善が望ましい項目を選定して、管理栄養士による指導のアドバイスを行う(図2の下半分)。


図2.生活習慣の維持/改善目標シート

次に、本シートを活用して、管理栄養士が患者への保健指導を行う。さらに、従来の健康指導を組み合せることで、糖尿病患者の生活習慣とQOLの変化を検証。
AIの解析結果に基づく保健指導に加え、管理栄養士が持つ保健指導のノウハウを結集させることで、糖尿病性腎臓病の重症化を防ぎ、患者のQOLの向上、および医療保険財政の健全化を目指す。


今後の展開:重症化予防方法の有効性を検証

この実証研究を通じて得られたデータをもとに4者は糖尿病性腎臓病の重症化予防方法の有効性を検証し、医療機関、自治体、SOMPOグループをはじめ民間事業者が連携して、プログラムの社会実装を行い、患者のQOL向上を目指す。


この研究に関わる関係者コメント

国立大学法人金沢大学 理事・副学長(腎臓内科学) 和田 隆志氏は下記のコメントを寄せている。

和田 隆志氏

AIを用いた新たな診療補助ツールです。患者さんお一人お一人に寄り添い、明日に希望を持てる医療を提供できることを目指しております。住民の皆様の健康維持や笑顔につながることを心より念じております。



公益社団法人石川県栄養士会長 新澤 祥惠氏のコメントは次の通り。

新澤 祥惠氏

重症化予防における栄養食生活指導の役割を検証する機会と捉えています。
特に患者さんのリスク状況を説明し食生活を一緒に考えることにより、治療への意識と、より良い生活習慣につながることを期待しています。

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