超少子高齢化の進展に伴い医療の財源や人材不足がより深刻となる中、QOL(Quality of life)向上にも繋がる患者の早期在宅復帰や介護予防が求められており、特に、リハビリによる短い期間で最大限に患者の日常生活動作(ADL)能力の回復を促す取り組みが重要だ。
綿密なリハビリ計画を立て実行することにより在院日数の短縮は可能となっているが、その一方で、リハビリ介入は、スタッフ個人の経験に依存する作業が多く標準化が難しいため、経験の浅いスタッフが作成したリハビリ計画をベテランスタッフが見直すことで計画の質を担保しており、効率的にノウハウを伝承して経験の浅いスタッフでも質の高いリハビリ計画を作成できる仕組みの構築が望まれている。
そこで、日本電気株式会社(NEC)と北原病院グループの医療法人社団KNIは、AI技術を活用して患者に最適なリハビリテーション介入プログラムを作成する技術実証を北原リハビリテーション病院において実施し、同技術実証にて、NEC独自のAI技術である「模倣学習技術」を用いて支援することで、経験の浅いスタッフが行うリハビリ介入プログラム作成業務の正確性が46%向上することを確認した。
なお、NECとKNIは、AI技術などICTを活用して医療の質の向上と業務の効率化を目指す「デジタルホスピタル」(様々なセンサーやAI技術により自動化された病院の概念)の実現に向け2017年より共創を開始しており、今回の取り組みはその一環として実施されたものだ。
※冒頭の画像:リハビリ介入プログラム作成に関する技術実証の様子(イメージ)
原因疾患が「脳血管系」の入院の場合、平均在院日数は約3ヶ月と言われているが(平成30年2月一般社団法人 回復期リハビリテーション病棟協会発行「回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書」より)、北原リハビリテーション病院では平均日数を約1か月までに縮めることに成功している。
今回の取り組みについて
リハビリ計画作成業務は、「患者の回復度の予測」「リハビリ目標の設定」「リハビリ介入プログラム作成」の3つのプロセスがあり、NECとKNIは、2019年度に「患者の回復度の予測」と「リハビリ目標の設定」の2つのプロセスについては検証を実施し、AI技術を活用することで経験の浅いスタッフもベテランスタッフと同程度の質を実現できることを確認している。今回は「リハビリ介入プログラム作成」に着目し、AI技術を活用した業務負荷の軽減について検証を行った。
具体的な内容について
北原リハビリテーション病院に蓄積されているリハビリ介入プログラムの実施事例データベースに、熟練者の経験に即した行動を学習して再現する「模倣学習技術」を適用して回復効果が高かったリハビリ介入プログラムの実施事例を模倣することで、患者一人ひとりの状態に最適と思われるリハビリ介入プログラムの候補を表示する。経験の浅いスタッフは、表示された候補を参考にリハビリ介入プログラムを立案することで、プログラムの正しさが46%向上した。
なお、電子カルテ情報を使っての患者のリハビリ介入プログラム作成について、経験の浅いスタッフが作成したリハビリ介入プログラムの正しさは、ベテランスタッフが判定。ただし、スタッフは電子カルテ情報に記載されていない、より詳細な情報を使って、精緻に患者に最適なリハビリ介入プログラムを作成するため、今回の結果はあくまでも電子カルテ情報のみでの場合となっている。また、AI技術を活用しない場合と比べて、プログラム作成に要する時間は変わらない。
同実証実験の結果と今後
NECの「模倣学習技術」は、熟練者のデータが少ない場合でも、非熟練者のデータを活用することで、熟練者の行動を効率的に学習し、熟練者の経験に即した行動を再現可能な技術だ。同取り組みでは、特に退院までにFIM(Functional Independence Measure/機能的自立度評価:日常生活動作の評価尺度)に改善がみられた事例を真似るべき熟練者のデータとし、それ以外の事例を非熟練者のデータとして同時に学習することにより、効果の高いリハビリ介入プログラムの候補を出力する高精度な学習モデルを生成することができ、ベテランスタッフから経験の浅いスタッフへのノウハウの伝承を補完。同技術を活用することで、経験の浅いスタッフが作成するリハビリ計画の質が向上し、指導するベテランスタッフの業務負荷を軽減することが期待できる。
NECは、時代に即した安全・安心なサービス提供を通じてヘルスケア領域のデジタルトランスフォーメーションを加速し、ヘルスケアにおける新たな社会価値の「共創」に貢献していくと述べており、KNIも、近い将来訪れる超高齢社会とその先の未来において、一般市民が安心・安全・快適な生活を送れるように、医療を起点とした社会改革を進めていくとのことだ。