ソフトバンクが正確な自分のアバター生成と服の質感も再現する新技術「バーチャルフィッティング」発表 未来の試着はデジタルツインでこうなる

ソフトバンクは新技術「バーチャルフィッティング」を開発中だ。これは、自分の体型を高精度で再現したアバターをデジタル上で生成する技術。そして更に、そのアバターにリアリティのある衣服を着させることで、より正確なデジタル試着を実現しようというもの。服はサイズ感だけでなく、カラーや素材感も高精度に再現することができる。


この技術は2022年2月21日にZOZO NEXTがソフトバンク等と連携してデジタル試着サービスとして発表したもの。ZOZOと言えば「ZOZOスーツ」を思い出すが、それとは全く異なる。しかも、ZOZO NEXTと共同発表されたサービスのうち、ソフトバンクが研究している技術は内部で一部が使われているに過ぎない。

同社の技術は試着に留まらず、メタバースやデジタルツインなど、将来は幅広い活用が期待できるものとなっている。
これに取り組むのが、ソフトバンクの中でも人間の脳を模倣したニューロサイエンスを研究するチームだ。今回はこの技術について掘り下げてレポートしよう。




アパレルECの課題「イメージした質感と違い、サイズも合わなかった」

同社の資料によれば、アパレルECは右肩上がりで伸張していて、コロナ禍でも堅調に市場は拡大している。一方で「ネットショッピングで洋服を買って、失敗・公開した経験がある」と、実に86.7%の消費者が回答している。これは試着できないことに起因していることは明らかで、結果アパレルECでの返品率は比較的高くなり、ビジネス面では無視できない課題となっている。


「アバター生成SDK」と「着装SDK」

そこで冒頭、説明した技術が望まれる。そして、ソフトバンクが開発している技術は大きく分けて2つの革新を目指したもので、「アバター生成SDK」と「着装SDK」の開発だ。



アバター生成SDK

「アバター生成SDK」は採寸データを入力すると、その情報に基づいてアバターをリアルタイムに自動生成する技術で、それをSDKとして提供していこうというものだ。


入力された採寸データを、UMA(Unity Multipurpose Avatar)を使ってマッピングする技術

CAD技術のひとつパラメトリック人体モデルを使用し、入力できる採寸データは、用途に応じて何箇所でも拡張できる。テンプレートとしては、8箇所と24箇所の部位を指定してモデリングする環境を用意した。入力したデータによって、アバターの体型はリアルタイムに変化し、新たなアバターを自動生成することができる。


アプリ上で体型を自在に変形できる(GIF)

この技術はあくまで、指定したデータの体系でアバターを生成する技術なので、生成したアバターを自分そっくりに作ったり、映画俳優に似せて作ったり、アニメのキャラクターとして生成することも技術的には自在にできる。


また、今まで3D CADを使用したモデリングはCPUやGPUの高い処理能力が必要だったが、同社の技術とスマートフォン上でも稼働するように、低パワー、低リソースの環境でも動作することを目指して開発が進められている点も特徴のひとつだ。


着装SDK

アバターが完成したら、次は試着だ。「着装SDK」は生成されたアバターに、素材やサイズ、デザインを忠実に再現した衣服を着せることで、自身の試着を客観的な視点で眺めることができる技術。


ただ着装するだけでなく、服がきつい場所をカラー変化で示すヒートマップも用意されていて、試着した結果、どの部分がきつめかを確認することができる(下記、動画のブルーのヒートマップ)。また、重ね着やシャツとジャケットとのコーディネイトなどもリアルな寸法でデジタル上で再現することができる。

■動画 Vertual Fitting


研究開発中の主な機能
・複数枚の重ね着(コーディネイト)
・きつい箇所のヒートマップ表示
・ボタンやジッパーの開閉
・パンツの履く腰の位置調整
・キャラクタのアニメーションに伴うクロスシミュレーション

なお、質感をリアルに表現しているところも特筆点となっている。摩擦係数も加味していて、揺れる様子もリアルに再現されている。下記の動画もぜひご覧頂きたい。

■Virtual Fitting -Personalized Avatar and Real Time ClothSimulation-

技術的に言えば「高精度なアバターを生成し、リアルタイム着装して素材のイメージやコーディネイトを客観的に見られるシミュレーション」。これらをSDKとして展開し、スマートフォンのアプリに実装できる点も魅力的だ。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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