ソフトバンクロボティクスの新戦略「ロボットインテグレーター(RI)」とは グローバルNo.1を宣言、ロボット界のAmazonになる

ソフトバンクロボティクス株式会社は、2022年10月18日に「新プロダクト・戦略発表会」を開催し、「ロボットインテグレーター(RI)」としてのビジネス戦略を発表した。戦略パートナーとしてアイリスオーヤマやテレイグジスタンスも登壇した。


デジタルトランスフォーメーション(DX)に対してロボットトランスフォーメーション(RX)を推進し、システムインテグレーター(SI)ならぬ「ロボットインテグレーター(RI)」として、新たなフェーズに展開していくとした。ロボットは単に「作る」フェーズから「様々なロボットからどう選び、どう組み合わせ、いかにその力を活かすか」という時代への移行を見据えたもの。発表会では「業務用屋内サービスロボット グローバルNo.1を達成」や「ロボット界のAmazonになる」などの宣言も飛び出した。


「ロボットインテグレーター(RI)」とは

ロボットのラインアップを拡充し、パートナーと連携して生産を管理し、現場の課題に向き合い、複数のロボットが連携するクラウドを構築し、蓄積した知見・ノウハウ・ビッグデータを活用、運用・保守・サポートを提供していくことを目指す。

「ロボットインテグレーター」として展開する3つのサービス
1.導入事業者向け:ロボット導入のコンサルティング&アウトソーシング
2.メーカー向け:新たなサービス・ロボットの開発・量産・保守サポート
3.世界のロボットビジネスの最適化を促進する独自データプラットフォームの立ち上げ





業務用屋内サービスロボット グローバルNo.1を達成

報道関係者向け発表会でビジネス戦略のプレゼンテーションとデモが行われた。最初に登壇したソフトバンクロボティクスグループ代表取締役の冨澤氏は、これまでの同社の実績を具体的に公表した。

ソフトバンクロボティクスグループ株式会社の代表取締役、冨澤文秀氏

Pepper発表以来、8年間の同社の実績として、2018年に清掃ロボット、2021年に配膳・運搬ロボット、2022年に物流自動化事業に参入、2021年1月にはアイリスオーヤマとの業務提携を振り返った。

Pepper発表以来(発売は2015年)、ソフトバンクロボティクスの8年間の軌跡

衝撃の発表で注目を集めた「Pepper」は累計2万台超を販売し、接客数は年間500万回以上、ここ数年はプログラミング教育やSTEAM教育への需要の高まりによって教育期間での導入が伸び、1,300以上に導入されている。


業務用(法人向け)清掃ロボットは「Whiz i」を開発し、アイリスオーヤマとの協業で「Whiz i アイリスオーヤマ エディション」を追加して拡販、総出荷台数は約20,000台、床清掃のために走行した距離を積算すると600万kmに達し、これは地球150周分に相当する、とした。


2021年に自社開発した「Servi」で参入した配膳ロボットでは、導入ブランド300以上、配膳回数は延べ4,700万回。サイズの大きな「Keenbot」もラインアップに追加した。


なお、配膳ロボットについては今回の発表会で、更に2機種の追加を発表し、飲食業界に対して更にアプローチを強化する考えを示した。


2021年9月には多数の物流ロボット関連システムの販売とサービス展開を発表。物流自動化事業に参入すると共に、市川市に各種デモ展示と相談窓口を兼ねたラボ施設を設置したことを発表した。現在、問合わせや予約で好調なスタートを切った。


こうした実績を総合して、冨澤氏は「業務用屋内サービスロボット グローバルNo.1」を宣言した。



そして同時に、今後は「ロボットインテグレーター(RI)」として新たなフェーズ展開を行うことを宣言した。


これが前述したRI展開への背景となる。


「ロボット界のAmazonになる」

続いて、ソフトバンクロボティクスのCBO、吉田氏が登壇し、RIの意味や「Robot World Data」のキーワードについて解説した。吉田氏は2022年5月に設立したロボット清掃会社「SmartBX」を担当しているが、その事例を踏まえて解説した。元は株式会社くうかんグループの「SmartBX」が前身で、ソフトバンクロボティクスが資本参加し、次世代の清掃代行サービスの合弁会社としてスタートした。業務用の清掃ロボットや先進のデジタル技術を活用し、清掃スタッフを派遣するスマート清掃代行業だ。

ソフトバンクロボティクス株式会社 取締役兼CBO 吉田健一氏

吉田氏は、RIをSIと比較し、物理的なサービス業界(ファシリティマネジメント業界、飲食業界、物流業界等)を対象とし、ロボット、センサー、人を業務に合わせて統合するのが「RI」の役割だと説明した。


確かに現在のロボット事業には、導入する側から見れば様々な不安や課題がある。自動化にはロボット導入が有効と感じながらも、その不安や課題によって、どの程度の効果が上がるか予測できないし、効果測定の方法も曖昧だ。市場は、こうした相談を一元的に引き受け、解決提案を行ってくれるパートナーを求めている一面がある。


吉田氏は「各業界に最適なロボットを発掘し、エンタープライズ品質までレベルアップ」「各ロボットをデータプラットフォームで統合」「Robot Transformation(RX)コンサルティング・アウトソーシングで提供」と、具体的な方策を示した(下図右側)。


これを実践する一例として、先のロボット清掃会社「SmartBX」(SBX)をあげた。ロボット清掃分野はビルメン業界が派遣社員を中心に請け負っているためロボットを提案しても、人の代わりにロボットを導入するとなると売上減になる恐れがあると後ろ向きだった。


その一方で、清掃業界では特有の課題も浮き彫りになっていて、これを解決したいという需要はあった。


そこで「SmartBX」は清掃スタッフに加えて人の支援を行うロボットのサービスを併せて提供、清掃効率や成果を数値化、見える化することを付加価値とするサービスに変革した。施設のオーナーは清掃業務のコストダウンと清掃成果のメリットだけを考慮し、ロボット運用はSBXが行い、清掃スタッフはより高度な専門業務に従事するという業態として躍進。設立してから3ヶ月で30施設から受注し、コンペ勝率は100%を実現しているという。


最大の特徴はセンサー等を導入して清掃品質を見える化して定量で評価するなどのDX化。床面・立面の清潔度をATP試験で測定、空気中の清潔度を空気品質センサーで測定等することで高クオリティの清掃サービスを提供する。



そこでも重要となるのがビッグデータと解析、それを業務に活かす技術だ。ロボットを利用するにつれてデータと知見が蓄積され、課題と対策がデータで明らかになり、運用の効率があがる。データの蓄積が繰り返されればより精度の高い解析が可能になる。世界No.1の「Robot World Data」を武器に、「Real World Data」で顧客情報を分析して業務を効率化して躍進しているAmazonをあげて、同社は「ロボット界のAmazonになる」と語った。


ロボット清掃会社「SmartBX」の有賀社長はビデオメッセージで登場


戦略パートナーのアイリスオーヤマ登壇

他に、戦略パートナーとしてアイリスオーヤマの大山社長が登壇。ソフトバンクロボティクスは2021年2月に合弁会社としてアイリスロボティクスを設立し、清掃ロボット「Whiz i」や「Servi」などの配膳ロボットの生産や販売、技術協力を行っている。ソフトバンクロボティクスにとってはアイリスオーヤマの驚異的な製品化や製造・生産能力にも期待している。

アイリスオーヤマ株式会社 代表取締役社長 大山晃弘氏


テレイグジスタンスはソフトバンクロボティクスと量産サポートで連携

意外だったのがファミリーマートでドリンク補充を自動化する遠隔操作ロボットを開発・提供するテレイグジスタンスのCEO富岡氏が登壇したこと。同社は今後、3年間で約5万台のロボット提供を計画しているが、ソフトバンクロボティクスの量産サポートを受けることでこれを実現したい意向を明らかにした。

テレイグジスタンス株式会社 代表取締役 CEO 富岡仁氏

サービスロボットの世界市場規模は、2021年時点で2兆7,410億円、2030年には5兆7,628億円と2倍以上の成長が予測されている(出典:富士経済)。自社開発に加えて、提携とアウトソーシングでロボット導入を推進していく「ロボットインテグレーター」への変貌を決断したソフトバンクロボティクス。今後の展開に注目が集まる。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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