近年、温暖化の進行がもたらす気候変動の影響等により、全国各地で水災害が激甚化・頻発化しており、国土交通省や流域自治体等では「流域治水」の取り組みを加速させている。
流域治水の取り組みでは、流域の状況を把握するための監視・観測(航空 LP 測量/縦横断測量)を定期的に行っているが、流域が広範にわたるため、コストや労力の観点から十分なデータの取得に至っていないことが課題であり、同時に流域治水において的確な治水マネジメントを行うためには大雨などの事象発生後の土砂移動や生産源を把握することが重要となるため、タイムリーなデータの取得も求められている。
これらの状況に対して、オリエンタルコンサルタンツと日本電気株式会社(NEC)は、広範性・周期性を特長とする「衛星SAR」(衛星から地球の地表面にマイクロ波を照射し、その反射波を受信して画像を生成する技術)に着目し、これまで経時変位(時系列差分干渉解析)として利用されてきた技術を発展させ、標高とこれを基に体積を算出する解析手法を確立し、土砂移動量などの算出をより安価でタイムリーにモニタリングする技術を開発した。同解析技術は、現在、特許出願中となっている。
「航空LP測量」とは、航空機に搭載したレーザスキャナから地上にレーザ光を照射し、地上から反射するレーザ光との時間差より得られる地上までの距離と GPS測量機、IMU(慣性計測装置)から得られる航空機の位置情報より、地上の標高や地形の形状を精密に調べる測量方法だ。また、河川の縦断方向の天端高さや主要な構造物の標高・位置、断面方向の形状等を測量することを「縦横断測量」とよんでいる。
土砂移動量を衛星データから算出
衛星SAR で撮像したデータを解析して対象エリアの標高を面的に算出。次に、土砂移動後の撮像データの解析を行い、面的な高さを算出する。この2つの面的高さデータを差分解析することで、土砂移動量の算出を実現する。同技術を活用することで、流域内における土砂の経時変化を体積として把握することが可能となるため、定量的な土砂量と、いつ・どこで生産土砂量が発生したかなどの客観的事実に基づいて、様々な対策立案ができるようになる。
これにより、例えば、土砂堆積によって生じる河積阻害や土砂堆積速度の推定に基づく砂防堰堤の計画的な除石計画の立案など、これまで定量的な予測・計画が難しかった事象の定量化に活用可能だ。
今後の展開
多くの社会インフラの課題解決に貢献してきたオリエンタルコンサルタンツと、長年にわたって衛星SARの解析技術を培ってきたNECは今後、降雨後の土砂移動量を予測する技術の開発に向けて、引き続き連携を強化するとしており、両社はさらに効果的な流域治水を支援し、流域全体の安全・安心に貢献していくと述べている。