2022年のFIA世界ラリー選手権(WRC)第13戦「ラリー・ジャパン」が愛知県と岐阜県で開催されました。世界選手権「ラリー・ジャパン」の開催は12年ぶり、愛知県と岐阜県での開催は初めてとなりました。来場者数は89,460人と発表されています(冒頭の写真 出典:トヨタ自動車)。今シーズンからラリー競技車はハイブリッドとなりました。この記事ではハイブリッドや脱炭素について、やさしく解説します。
ヒョンデが1位、2位、トヨタは勝田選手が3位表彰台
競技の結果は、ヒョンデ(現代自動車)が1位、2位、トヨタは日本人の勝田 貴元選手が3位表彰台を獲得しました。トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)のトップドライバー達は今年のチャンピオンを決めている若手のロバンペラ選手やベテランのオジェ(昨シーズンのチャンピオン)をはじめとして、優秀な選手が揃い、マシンの「GR YARIS Rally1 HYBRID」にも速さがありましたが、勝田選手以外はパンクに悩まされ、順位が後退してしまいました(勝田選手は正式には「TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team Next Generation」というチームで参戦しています)。
今回のWRCラリージャパンは地上波でも一部放送されたので、WRCやラリー競技を初めて見た、興味を持った、という人も多かったのではないでしょうか。
競技車は今シーズンからハイブリッドに
WRCに参戦している競技車は「今年からハイブリッド(HEV)仕様」になりました。「今年から?」「今頃?」と感じる人が多いと思います。F1では既に2014年からハイブリッドが導入されていますから。
WRCが元々、欧州を中心に歴史を積み上げてきたという背景があったためかもしれませんが、それはF1でも同じですね。導入が遅すぎると感じていたのは著者も同じです。
WRCにはメーカー自身が主体で参加する「ワークス」やメーカーが支援する「セミワークス」は3社、トヨタ、ヒョンデ、フォードしかありません。少し寂しいですが、現状では3社のチームが複数のドライバー用にマシンを用意して参戦し、競っています。
タイムアタックはHEVで、一般道区間はEVで
「ハイブリッド仕様」は、基本的なしくみとしてはF1や一般車と同様です。車両にはエンジンとモーターを両方積んでいて、エンジンはガソリン系で1.6L 直列4気筒ターボ(GRヤリス)、モーターは電気で動いてエンジンパワーを支援します。電気は使い放題というわけではなく、回生エネルギーと呼ばれる、ブレーキや減速時に発電した電気をバッテリーに蓄電して、ここぞというときにその電力でモーターを回して更にパワーを得るしくみです。なお、WRCラリーの場合は、競技車両のメンテナンスや修理を行う「サービスパーク」で、バッテリーのプラグイン充電が行われますので、プラグインハイブリッド(PHEV)というのが正確かもしれません。
ラリーは公道を使うため、非常にメリハリがはっきりとしています。一般公道は各国のルールを守って走行し、できるだけEVで静かに走行し、SS(スペシャルステージ)というタイムアタック区間は道路を閉鎖してエンジンとモーターを駆使し、エンジンの爆音をバリバリと響かせて全力で駆け抜けます(その時は約500馬力前後と言われています)。
レースが好きな人にとってはこの爆音も魅力の一つです。海外では、サーキットでのフォーミュラ競技の中には電気自動車(EV/BEV)での世界選手権レースも行われていますが、爆音がないので今ひとつ盛り上がりに欠けています(フォーミュラ競技の中には自動運転車での競技もあります)。
今シーズンは水素エンジン車が初めてデモ走行(デモラン)
レースが好きなトヨタ自動車の豊田社長は、爆音が魅力であることも理解し、かつ、将来自動車業界がすべてEVにとって変わるとも限らないため、水素エンジンを使った自動車の開発も行っています。ラリーでもデモンストレーション・ランではありますが水素エンジンのラリー仕様カーを走らせています(水素エンジンは脱炭素ですが、実用化はまだまだ先のことです)。伝説のプロドライバーや豊田章男社長自らがドライブして水素エンジンの可能性をベルギーや日本開催のWRCで提起しています。
報道されているとおり、欧州はEV化の将来に一目散という感じですが、トヨタ自動車はHEV、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCEV(燃料電池車)、EVをラインアップし、更に水素エンジンの開発、と脱炭素に向けては、EVに偏らず、いくつかの選択肢を設けて開発を進める戦略です。
モーターレースの技術は自動車メーカーにとって新技術を開発したり、耐久性をテストしたり、クルマ作りのノウハウを蓄積する場でもあります。時代に合わせて、いろいろな技術が試され、いろいろなレースのカテゴリーがあってこそ、新しい自動車技術の進歩も加速すると考えられています。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。