NTT、100km以上離れた遠隔手術でロボットを操作 IOWNと「hinotori」で大容量/長距離/低遅延/暗号通信を実証

日本電信電話株式会社(NTT)と株式会社メディカロイドは、物理的に離れた手術環境をあたかも1つの環境のように統合し、手術室の状況をよりリアルに伝送、コミュニケーションがスムーズに行える場の共有をめざした共同実証を開始した。
遠隔手術の実現が将来的には一般化していくと想定し、それに向けた研究として、国産の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」とNTTのIOWNオールフォトニクス・ネットワーク(APN)を接続することで実現する。

参考:「国際ロボット展」に展示された国産の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」

NTT武蔵野研究開発センタ内に、大容量・低遅延・遅延ゆらぎほぼゼロの特徴を持つAPNの実証環境(100km以上)を構築した。その環境下でメディカロイドの「hinotori サージカルロボットシステム」を接続し、APN上で「遅延ゆらぎ」ほぼゼロでのロボット制御、非圧縮による超低遅延かつ暗号技術による高セキュリティな映像伝送での手術環境共有を行うとともに、NTTが長年取り組む音声技術を用いて、様々な音が飛び交う手術室でもクリアな会話を可能にする機械音除去等の技術の実証を行なったという。

構成図

なお、この研究成果は2022年11月16日から18日まで開催される「NTT R&Dフォーラム — Road to IOWN 2022」での展示が予定されている。


手術支援ロボットによる遠隔手術への期待と課題

「hinotori サージカルロボットシステム」は、メディカロイド製の手術支援ロボット。2020年8月に国産の内視鏡手術を支援するロボットとして製造販売承認を取得し、同年12月に泌尿器科領域で1例目の手術を実施した。2022年10月には消化器外科および婦人科への適応について承認を取得。現在は日本全国で使用症例を増やしている。

参考:「国際ロボット展」に展示された国産の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」

一方、手術支援ロボットによる遠隔手術は、人口減少や外科医師数の減少、医療の均てん化といった社会課題の解決だけでなく、地域医療支援と若手外科医の教育・育成による医療レベルの向上にも寄与することが期待されている。しかし、実現に向けては以下のような課題があるとされている。


実現に向けての課題

・手術支援ロボットの遠隔操作は、ネットワークでの遅延やゆらぎの影響を大きく受けるため、執刀医がストレスなく、通常のロボット手術と変わらない形で遠隔手術を行えること

・遠く離れた環境では手術中の意思疎通を図るコミュニケーションが重要であり、執刀医や医療従事者が長時間ヘッドホン等のデバイスを装着することはストレスとなるため、デバイスを装着することなく空間環境全体の映像や音などの情報を高品質かつリアルタイムに伝送できること

・遠隔手術ではロボットにかかわる情報だけでなく、バイタルデータなどの個人に関わる情報を安全かつ正確に伝送するため、量子コンピュータでも解読されない高度なセキュリティ対策が講じられること


大容量/長距離/低遅延/暗号技術を実証

この研究では、APNを中心としたNTTの技術を応用することで以下の実証を継続して実施する。

・拠点間で「1波長あたり100Gbps以上」の大容量、物理限界に迫る低遅延性、ネットワーク遅延の時間変動がない遅延ゆらぎほぼゼロの特徴を持つ光伝送パスを実現し、通常の手術と変わらない動きでの遠隔操作に関する実証

・超低遅延映像伝送技術により、8Kの超高精細映像で手術環境の共有に必要な手術支援ロボット以外の情報を光伝送パスに非圧縮でダイレクトに送出し、長距離かつ超低遅延のリアルタイムコミュニケーションを行うとともに、コミュニケーションの阻害要因となる音のみを除去するノイズキャンセリングにより同一環境で手術しているかのような手術環境の共有に関する実証

・量子計算機でも攻撃が困難な暗号鍵交換技術やセキュア光トランスポートネットワーク技術を用いて、遠隔手術で送受信するデータを耐量子計算機暗号技術で交換した暗号鍵で暗号化することによる、量子計算機時代のセキュリティ確保に関する実証


今後の展開

今後、この研究および技術を適用した遠隔手術支援のフィールド実証を共同で進め、遠隔医療の更なる拡大による医療の質の向上、質の高い医療へのアクセシビリティの確保に貢献するとともに、この基盤である「IOWN APN」の技術を、遠隔での低遅延、遅延ゆらぎのないリアルタイム制御の活用を通して、各産業分野における課題解決ならびに、社会課題の解決に展開していく考えだ。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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