有線給電のドローン2機が連携して100時間連続飛行も 土砂やがれきの下の遭難者のスマホ位置の特定に成功 ソフトバンク、東工大、フタバ共同研究

ソフトバンク株式会社と双葉電子工業株式会社(フタバ)は、東京工業大学工学院 藤井輝也研究室と共同で、2機の大型ドローンが給電用ケーブルを接続した状態で飛行し、要救助者の捜索を支援するシステムを発表し、千葉県内で報道陣に対してデモを公開した。
このシステムはドローンが100時間以上も連続で飛行することを可能とするため、雪崩や土砂崩れ、台風などの災害時、要救助者の捜索のためにドローンが活用される機会が飛躍的に増える可能性がある。

地上からの給電ケーブルを装着した遭難者(要救助者)を探す「主ドローン」(左)と、給電ケーブルが障害物に接触するのを防ぐために飛ぶ「補助ドローン(こちらも有線給電)」(右)

大型ドローンはバッテリーによる飛行時間が約20~30分程度と短いため、要救助者の捜索には時間的な制約があった。そのため、フタバ製のドローン2機を給電ケーブルで接続し、1機のドローンが捜索し、もう1機が高度の高い上空から捜索用ドローンにケーブル給電するコンビネーション連携を実現することで、バッテリーによる時間制限を取り払った。
また、要救助者の捜索は、要救助者がスマホを所持していることを前提に、要救助者が土砂に埋まった状態でもドローンとの通信電波による捜索を可能にする技術を使うデモとなっていた。

今回のシステムの研究開発を主導する国立大学法人 東京工業大学 工学院 教授、ソフトバンク株式会社(兼任)藤井輝也氏。デモの前にドローンのしくみやシステム構成などを報道陣に解説


有線給電とスマホ電波の受信による捜索

ソフトバンクは、地震や台風に伴う土砂崩れなどにより遭難された方や要救助者の捜索を支援することを大型ドローンを使って実践していたが、搭載するバッテリーの制限により、捜索時間は短時間に限定されていた。そこで「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」を地上からの有線給電で運用することで、ドローンを長時間飛行させながら、土砂やがれきの中に深く埋まったスマホの位置を特定する有線給電ドローンシステムを開発した。

雪や土砂、瓦礫に埋まった要救助者を捜索するドローン(デモ)

このシステムは、有線給電ドローンを活用しているため、連続100時間以上飛行させることが可能となる。この時、課題となるのは、地上の給電装置からドローンまで電源ケーブルを伸ばすと、途中で倒木などの障害物に引っ掛かってしまう恐れがあること。この解決策として、スマホを捜索するドローン(主ドローン)と、電源ケーブルを持ち上げて制御する「補助ドローン」の計2機のドローンを活用することで、給電しながら最長約200メートルの移動距離を実現する。


また、千葉県の長生村にある双葉電子の長生工場に、通信圏外かつGPSの信号が届かない土砂の山を築き、その中にスマホを埋めて本システムで捜索する実証実験を行い、最大5メートルの土砂に埋まったスマホの位置を特定することに成功した。

この記事のデモで使用したフタバ製のドローン(ソフトバンク仕様)

この日、用意されたフタバ製のドローンは2機種。別のデモで公開された

ソフトバンク仕様の大型ドローンの概要




雪山や山岳遭難、災害救助にドローン活用を

ソフトバンクと東京工業大学は、雪山や山岳地帯などでの遭難者や、地震などにより土砂やがれきに埋まった要救助者の位置をドローンで特定するシステムの研究開発に2016年から取り組んでいる。

山での遭難、土砂災害、雪崩、瓦礫に埋まるなど、災害時に要救助者の迅速な捜索にドローンの活用が求められている

2020年には双葉電子と共同で「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」を開発した。一方で、土砂やがれきの中に深く埋まり、「通信圏外」となっているスマホを「通信圏内」にするためには、現場上空をゆっくりと飛行してドローンから発信する電波を地中深くまで届くようにする必要があった。位置特定の精度を向上させるために現場上空でくまなく測定する必要があり、捜索範囲の広さによっては長時間の飛行が必要とされた。

ドローンは地面に向けて電波を発信して、スマホの電波強度の強さで場所を特定するが、そのためには少しずつ移動しながら電波起用度を探査する必要がある。なお、Wi-Fiを使用する技術とモバイル通信を使用する技術があり、Wi-Fiのメリットは要救助者が持つスマホのキャリア(通信事業者)を選ばないこと。今回は電波の回り込みや通信可能範囲でWi-Fiと比較して捜索に有利なモバイル通信のプラチナバンド(900MHz)帯を使用した(ソフトバンクが利用している周波数帯)。その場合、要救助者のスマホはソフトバンク対応機種の場合に限られるという制限がうまれる。


従来の「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」は、ドローンに搭載しているバッテリーでドローンと無線中継システムに電力を供給しており、1回当たりの飛行可能時間が最大約30分のため、捜索範囲が広い場合は捜索を中断してバッテリーの交換を行う必要があり、迅速な救助支援への障壁となっていた。
そこで、地上から有線で電力を供給し、長時間の運用が可能な「有線給電ドローン無線中継システム」と組み合わせることで、連続100時間以上の捜索ができるシステムを開発し、実験に成功した。


実際のデモの風景。遭難者(要救助者)を探す「主ドローン」(左)と、給電ケーブルが障害物(この写真の場合は右下の高い木と紅葉の木)に接触するのを防ぐためにケーブルを持ち上げて高度を上げて飛ぶ「補助ドローン」(右)。写真では見えにくいが2機のドローンは給電ケーブルで繋がっている




このシステムのポイント


ドローンがスマホの受信電力から要救助者の位置を推定

このシステムの基本的な仕組みは、従来から同社は発表している「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」と同様。土砂やがれきの中に深く埋まった場合、要救助者のスマホは通信圏外になり、位置情報を示すGPSも動作しない。「ドローン無線中継システム」によって通信圏内とすることが可能だが、スマホはGPSの信号を変わらず受信できないため、スマホの位置情報は取得することができない。

実験では、スマホを所持した人形を遭難者として用意した

遭難者の人形を横穴から入れる

スマホを所持した遭難者が土砂に埋まった状態と想定する

そのため、捜索現場の上空にGPSを搭載したドローンを飛行させ、ドローンに搭載した下向きの指向性アンテナによって、スマホから送信される電波の受信電力を探って埋まっている位置を推定し、ドローンのGPS位置情報からスマホの現在位置(要救助者が埋まっている位置)として特定する仕組みになっている。

主ドローンが地中に向けて電波を発信し、スマホの電波を探る。何度も移動しながら電波強度が最も強い位置の真下にスマホ(遭難者)が埋まっていると推定する

ドローンからの情報を確認する画面。中央の左右に伸びる赤い点線が電波強度。ローリング式にスキャンしながら、電波強度が高い(上に示す)場所にスマホが埋まっていると特定できる

なお、ドローンによって特定したスマホの位置情報は、「位置情報取得システム」によって遠隔地からパソコンやスマホで確認することができる。


有線給電の課題を「補助ドローン」で解決

このシステムの利点は給電装置から有線でドローンに給電しているため、100時間ともいえる長時間の捜索が可能なことだが、一方で、地上の給電装置からドローンまでの電源ケーブルが捜索現場までの間に建物、倒壊した家屋、倒木、高い樹木があるような場合、電源ケーブルがそれらに引っ掛かって捜索が継続できなくなる恐れがあることが課題となる。

捜索(主)ドローンとケーブル制御用ドローンが連携して発進

捜索(主)ドローンを紅葉している樹木を越えて現場に向かわせたい。給電ケーブルが樹木に引っかからないようにケーブル制御用ドローンがサポート

給電ケーブルを引いて飛ぶ捜索(主)ドローン。長時間の飛行を実現するが、ケーブルが飛行の障害になることが考えられる

この課題を解決するために、無線中継システムを搭載してスマホの位置を捜索する「主ドローン」に加え、電源ケーブルを上空から持ち上げてついて移動する補助ドローンの計2機のドローンを連携させる。これにより、障害物を回避しながら、約200メートルの範囲を連続100時間以上安定してローリング式に捜索ができるシステムを実現した。

(再掲)遭難者(要救助者)を探す「主ドローン」(左)と、給電ケーブルが障害物に接触するのを防ぐためにケーブルを持ち上げて高度を上げて飛ぶ「補助ドローン」(右)

なお、ソフトバンクと東京工業大学は、2021年に消防庁の「消防防災科学技術研究推進制度」の研究課題に採択されており、このシステムはこの研究の一環として開発したものとなっている。




報道陣に実証実験を公開

千葉県長生村の双葉電子の長生工場内に土砂の山を築き、その中にスマホを埋めて、本システムによってスマホの位置を特定する実証実験を行なった。土砂の山と地上の給電装置の距離は約200メートルで、その間には高さ約10メートルの木々や高さ約3メートルの柵があり、主ドローンに接続した電源ケーブルがそれらに引っ掛かるため、実質的には捜索ができない環境となる。

しかし、実証実験の結果、主ドローンは補助ドローンのケーブル制御によって土砂の山の上空に到達することができ、最大5メートルの土砂に埋まっているスマホの位置を数メートルの誤差で特定することに成功した。
この結果により、スマホが土砂やがれきの中に深く埋まって通信圏外かつGPSの信号が受信できない場合であっても、このシステムによって位置の特定が可能なことが検証できた。
なお、今回の実証実験における主ドローンと補助ドローンの飛行は、異なる操縦者による手動操縦で行なった。

■連続100時間飛行できる災害対策用ドローンのデモ

実験を行ったチームは「今後もソフトバンクと双葉電子は、東京工業大学と共同で本システムの実用化を目指すとともに、自治体や公共機関、企業と連携し、ドローンを活用した災害対策や社会課題の解決に向けた研究を進めていきます」とコメントしている。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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