世界最大の技術専門家組織「IEEE」社会インフラにおけるロボティクス、7つの視点についてメンバーのコメントを発表

米国における橋の平均築年数は44年だ。下水道管は平均45年、ダムや堤防は建設から50年以上も経過している。

社会インフラの老朽化は世界的な現象であり、点検や補修工事に膨大なリソースを必要としていて、点検の対象が危険な場所にあったり人が近づけない場合もあるため、ロボットが点検する機会が増えている。たとえば、かつて高圧送電線は、人がヘリコプターで近づいて点検していたが、実はこういった環境でも接近できる特殊なロボットが登場してからすでに10年以上が経過している。

米国に本部を置く電気・情報工学分野の学術研究団体(学会)、技術標準化機関であるIEEE(アイ・トリプルイー)は、世界各国の技術専門家が会員として参加している。さまざまな提言やイベントなどを通じ科学技術の進化へ貢献しており、この度、IEEEのインパクトクリエイター数名にロボティクスによる社会インフラ検査の現状について聞いたことを、2023年2月24日に発表した。


IEEEについて

IEEEは、160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体だ。世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しており、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っている。また、同団体は電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催している。





ロボティクスによる社会インフラ検査の現状について

ロボティクスによる社会インフラ検査の現状について、同団体のインパクトクリエイターは以下のように述べている。



検査用ロボティクスは助走期間にある

IEEEメンバー ジャヤクリシュナン・スリヴィカマン・ネア(Jayakrishnan Thrivikaman Nair)氏

工場のように明確に規定され、予測可能な環境では、長年にわたってロボットの使用が確立されてきました。しかし、ロボットは往々にして、特別な設計要件がある過酷な環境に配備することが求められます。



センサーと機械学習の進化により、ロボットの自律性が高まっている

IEEEメンバー エレノア・ワトソン(Eleanor Watson)氏

それにより安全性が向上し、より広域網を短時間で作業することができます。さらに、緊急の検査が必要になっても、常に自律的に対処することが可能になります。



作業によってさまざまな形やサイズのロボットがある

IEEEフェロー 邢國良(Guoliang Xing)氏

各産業での点検作業が多様化し複雑化しているため、これらのロボットの標準的な形状はまだ定まっていません。それでもモーションコントロール、ローカライゼーション、センサー、アクチュエーターなどの主要技術は共通化しています。検査ロボットに向けた、高度にカスタマイズ可能でモジュール化されたソリューションがまもなく登場することは間違いないでしょう。



ロボットには人間に見えないものが見える

IEEEメンバー エレノア・ワトソン(Eleanor Watson)氏

センサーフュージョンのような新技術により、電磁スペクトルの複数の波長をつなぎ合わせて、一段とまとまりのある状況の画像を提供することができます。赤外線と紫外線とで判明することとは違います。さらに、電波の後方散乱により、壁の向こう側の物体やその動きさえも検出することができます。



しかし、まだ人間を外さないように

IEEEメンバー エレノア・ワトソン(Eleanor Watson)氏

人間とロボットを比べるのは、鳥と飛行機を比べるようなものです。どちらも空を飛べますが、その方法は異なり、抱えている制約も異なります。人間は器用で、さまざまな作業に適応する柔軟性があり、適度な環境条件において優れた能力を発揮します。一方、ロボットは危険な環境での日常的な作業や退屈な作業に最適であり、充電の時間が確保されていて急を要しないスケジュールでの作業に適しています。



人間とロボットがうまく連携する

IEEEシニアメンバー パウロ・ドリュース Jr.(Paulo Drews Jr.)氏

検査はチーム作業です。ロボットがデータを取得し、そのデータに基づいて人間が報告します。



すでにロボットはインフラを建設しているが、将来的にはプリント作業も行うようになる

IEEEメンバー ジャヤクリシュナン・スリヴィカマン・ネア(Jayakrishnan Thrivikaman Nair)氏

組み立て、溶接、材料運搬など、ロボットは何十年にもわたって建設目的で広く使用されてきました。この10年では、レンガ積み、タイル貼り、左官工事、壁塗りなどができるロボットの使用が増えています。最近の動向としては、巨大な3Dプリンティングロボットが建設目的で使用されています。素早く設定ができ、拡張性に富んでいることから、このようなタイプのロボットは、間違いなく近い将来、建設業界に革命を起こすことでしょう。



また、同メンバーであるある慶應義塾大学 理工学部の 西 宏章教授は、社会インフラにおけるロボティクスについて以下のようにコメントしている。

IEEEメンバー 慶應義塾大学理工学部教授 西 宏章教授

皆さんはこの話を夢物語と思いますか?いえ、夢物語ではなく、一部は既に実用化されていますし、多くは実用化に向けてもう一息のところにあります。

では、どのような点がもう一息なのか、身体的な側面と心理的な側面に分けて考えてみましょう。

身体的な観点には、その骨格や動作を司るロボットのボディであり、素材やセンサー、モータ、そしてバッテリーなどのエネルギー源なども含まれます。特にバッテリーは重要です。例えば、工事現場などで自動運転するブルドーザーなどが既に実用化されており、より細やかな制御を実現でき、様々なエネルギー源を利用できるという観点では、電気とモータによる制御が優れているといえます。一方で整地一つをとっても膨大なエネルギーが必要となり、電気ブルドーザーやショベルカーが十分に活躍できる状況にはまだ至っていません。

心理的な観点には、頭脳である計算機や記憶するメモリ、さらには近年発展が著しい深層学習などが含まれます。自動運転のレベルが向上しつつある現在では、インフラ補修ぐらいは十分任せられるように思います。ただそれは、決められた作業を繰り返すという範疇に留まり、また、仕事を覚えるコストも大きいままでしょう。もちろん、一度学習させてしまえば、ともすれば人間よりも精度よく、また低コストで作業をこなす可能性もありますが、各現場に応じた作業をさせるための初期コストを抑えるには、まだしばらく研究開発が必要です。

もう一つ、自ら作業を改善できるかどうかは重要な観点です。人間は作業を繰り返すと熟練していきます。同様のことがAIロボットも可能ですが、その前に作業が上手くいったかどうかは、基本的には人間がプログラムした基準でしか判断できません。基準が固定されれば、改善・発展の自由度はどうしても小さくなります。どのようにしてロボットを熟練させるか、こちらも重要なテーマとなるでしょう。

IEEE Impact Creatorの皆さんが指摘するように、人間を凌駕する力やセンシング性能などを獲得しつつあるロボットは、既にインフラ補修において必要不可欠です。ロボットは様々な能力をこれからも次々に獲得し、インフラそのものがロボットになる時代がすぐそこに来ているといえます。

関連サイト
IEEE

ABOUT THE AUTHOR / 

ロボスタ編集部

ロボスタ編集部では、ロボット業界の最新ニュースや最新レポートなどをお届けします。是非ご注目ください。

PR

連載・コラム