株式会社グリッドは、社会インフラ特化型のSaaSサービス「ReNom Apps for Industry SaaS」(ReNom Apps)を開発した。「ReNom(リノーム) Apps」は電力・海運・サプライチェーン向けに3分野のオペレーションを最適化/自動化するソリューション。従来の機械学習AIだけでなく、生成系AIをシミュレーションに活かしているところも特徴的。SaaS提供を選択したのはテレワークが増えているため、どこからでも作業ができるという利点を考慮したため。
3月より販売を開始し、3年間で100社の販売を目標としている。
同社は発表にあたり、報道関係者向け発表会を開催し、代表取締役の曽我部氏(冒頭の写真)が登壇、ソリューションの詳細を説明した。また、記者からの質問に対して、量子コンピュータと疑似量子コンピュータ技術の将来展望にも触れた。
AI・デジタルツインを活用し、計画業務を自動化・最適化
社会インフラ分野で策定される計画業務は、日々刻々と変化する状況に応じて、熟練の担当者が、無数の組合せの中から膨大な時間と労力をかけて、最適な計画を立案する業務となっているため、属人化や効率化が課題だ。
こうした課題を解決するため、グリッドはAI・デジタルツインを活用し、計画業務の自動化・最適化システムの開発・導入によるDX化を推進してきた。また、最適化システムにより、人手では困難であった極限まで無駄を省いた業務運用を可能とすることで、エネルギー削減及びCO2 排出量の削減にも貢献する。
「ReNom Apps for Industry SaaS」は3分野向けに展開
AIが複雑な計画を自動化・最適化
従来より、電力会社向けの「ReNom POWER」、海運向け「ReNom VESSL」はそれぞれの分野で機器や人材、エネルギー配置の最適化ソリューションとして提供してきた。今回開発完了を発表した「ReNom VALUATION」はサプライチェーンを対象に、企業価値を最大化させる前提シナリオをAIによって複数生成、各シナリオの財務KPI結果を瞬時に確認して経営計画業務の自動化・最適化を迅速に行うソリューションだ。現場業務だけでなく経営全体も最適化することで企業価値向上の実現を目的に開発した。
曽我部氏によれば、「従来は、電力も海運も開発期間に約3年を要していたが、特殊なことがなければ電力で半年程度、海運で半年から1年くらい、サプライチェーンでは2ヶ月強で導入できるケースがある」として、迅速に導入できることを具体的に示した。導入対象となる企業規模は大規模な運営を行っている企業で、サプライチェーンでは上場企業で、ポートフォリオのマネジメントや事業部ごとの戦略を検討している企業等が対象となると語った。
生成AIも活用
株式会社グリッドの代表取締役、曽我部完氏は「未来に起こり得る可能性をいくつも学習して、その中から最適な計画を選んでいくことが非常に重要と思う」と語った。
従来の物理方程式を活用したシミュレーションのソリューションが多かったが、「ReNom Apps」のサービスはそこにAIアルゴリズムを導入し、人とアルゴリズムを対話することでシミュレーションの精度を上げていくしくみが取り入れられている。
「ReNom Apps」のAIは、従来の学習と推論のAIに加えて、いま注目されている生成AIも活用する。将来予測できる数あるシナリオに生成AIが創造した擬似的なものを含め、その中から最適なシナリオを提示、その中から決定者がどのような計画を選択するかという流れを採用しているところが新しい。予測の中に生成AIが今までにない新しい予測が追加されていく。これを高速化し、立案を迅速を行う点も特徴的だとしている。
また、従来から利益の最大化が大きなポイントとなっているが、このソリューションではそれに加えて、前述のようにCO2の削減を重要視し、各選択肢によってCO2排出量にどう影響するかも、予測や立案に反映できる仕様となっている。
「ReNom Apps」が適用する3分野
電力(ReNom POWER):電力需給計画
電力会社の需給計画を立案するソリューション。
どの発電タービン郡を起動、停止すれば電力需要に応じた発電を実現することができるのかを、AIによって最適化。対応する計画は、当日計画、週間計画、年間計画と様々な期間の計画業務に活用することが可能。
既に四国電力が導入していて、事前検証では数億円規模の改善効果が期待できるとしている。関連記事「四国電力とグリッドが連携を発表 電力会社向け「デジタルツイン」と「電力需給計画の最適化/自動化AI」の特徴としくみ」
海運(ReNom VESSL):多様な製品の輸送に対応した配船計画
配船計画を自動化、立案するソリューション。
石油などの化学製品から日用品など国内における貨物輸送の配船計画をAIによって最適化。船舶の運航効率や製品の積み付けバランス、航海時間や荷役時間を含めた船舶稼働時間など様々な制約条件を考慮した最適な計画をAIが立案する。
サプライチェーン(ReNom VALUAITON):中期経営計画や予算策定
経営計画や予算策定を立案、シミュレーションを提示するソリューション。
企業価値を最適化させる前提シナリオをAIによって複数生成。各シナリオの財務KPI結果を瞬時に確認し、様々な指標から分析することができ、最適なシナリオを直感的に絞り込むことができるため、最良のシナリオ選択が可能となる。
量子アルゴリズムへの展望
グリッドといえば量子コンピュータの研究でも知られるが、このソリューションの量子分野への展開を聞かれると、曽我部氏は「現在、ゲート方式と呼ばれる汎用的な量子コンピュータと、レガシーコンピュータで量子技術を使う「疑似量子」コンピュータが注目されているが、どちらのコンピュータの研究も当社では行っている。将来的には2026~2030年の間に一部の計算をバックで量子コンピュータが行っているという時代が来ると考えている。それはもしかしたらユーザーは意識せずとも、一部の量子が得意な計算は裏側で量子コンピュータが行っているというふうになるかもしれない。疑似量子コンピュータはもう2~3年先にもそのような状況が実現するかもしれないと考え、今回のソリューションでも研究を進めている」と展望を語った。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。