オルツがデジタルクローン生成技術「CLONEdev」発表 成田悠輔氏らのデジタルヒューマン公開 大規模言語モデルと人工意識を活用

パーソナル人工知能(P.A.I.)やAIクローン技術で、パーソナルAIの開発や実用化を行う株式会社オルツは、デジタル上で人間の再現を可能にする人格生成プラットフォーム「CLONEdev(クローンデブ)」を発表した。現在はα版で、5月24日(水)に報道関係者向けに発表会を開催した。また、発表会では、ノーコードエージェント生成プラットフォーム「altBRAIN」もα版を発表し、デモ展示をおこなった。

経済学者・データ科学者の成田悠輔氏と、アーティスト・シンガーソングライターの静電場 朔氏のデジタルクローンを対話ができる状態で稼働展示。「CLONEdev」α版で生成したものだ


「CLONEdev」で生成した3人のデジタルクローンを展示

オルツの注目点はまず、GPT-3と同水準のパラメータで構成された、独自開発の大規模言語モデル(LLM)「LHTM-2」(ラートム)を持っていて、高精度に対話するチャットボットが作れること。その大規模言語モデルに、個人のTwitterやLINE、ブログや作文、論文など膨大なデータを加えることで、個々人の考えを反映したいわば、デジタル上の人格「人工意識」を生成することができる。

成田悠輔氏のデジタルクローンには、「プロフィールを教えて」「最近はどのような活動をしているか」「大規模言語モデルとはどういうものか?」「それはどのように活用できるか?」など、本人にするのと同様の質問をすることができる


発表会の会場では、「CLONEdev」α版で生成した、同社CEOの米倉千貴氏、経済学者・データ科学者の成田悠輔氏、アーティスト・シンガーソングライターの静電場 朔氏の3名のクローンが公開され、会話ができる状態で稼働展示された。この3人のデジタルクローンはそれぞれ異なる人格と考えをもって、会話に自身なりの回答を返すことができる。

静電場 朔(せいでんば さく)氏は北京出身で、東京に拠点を移して活動するアーティスト。日本語は流ちょうだが、日本語のアクセントでほんの少しネイティブと異なるところがあるが、それもデジタルクローンでは再現されている

■成田悠輔さんのデジタルクローンと話してきた

静電場 朔さんのデジタルクローンとも話したかったのだが、他のメディアもいたため、話すチャンスがなかったのが残念。


「CLONEdev」と「altBRAIN」α版を公開


「CLONEdev」

「CLONEdev」(クローンデブ)は、人工意識を生成する「CLONE MODERING ENGINE」(クローンモデリングエンジン)を通して、利用者の人格をデジタル上に再現する世界初のデジタルクローン(デジタルヒューマン)生成システム。実在する本人の「ライフログ」を取り込み、WEB UIのシンプルな操作で、誰でも自身のデジタルクローンを生成することができる(オルツIDの登録とログインが必要)。

音声のクローン生成はわずか数分の音声データから生成できるという

このプラットフォームは、オルツのデータ保管システム「alt ID(オルツID)」で保管されるライフログのデータと、言語処理や画像生成などの技術を組み合わせ、一人ひとりの人間の個性を導き出すことで、その人の意思を汲んだ対話が可能なアウトプットを生成する。
α版では対話ができるクローン対話は無料、生成は有償とし、2023年8月にリリース予定の正式版は対話は従量課金、生成は有償としていく方針だ。

「CLONEdev」α版 https://clone.dev/

「CLONEdev」によって、いかにデジタルクローンが手軽に生成できるか、制作プロセスが紹介された。また、生成した3名のデジタルクローンとの会話も紹介された(会場の通信設備か音響設備の影響か、デジタルクローンの音声再生が途切れ途切れになってしまっている)。

■デジタルクローンの生成方法を紹介


「altBRAIN」

会場では、ノーコードエージェント生成プラットフォーム「altBRAIN」も展示された。「エージェント」とは、人間の代行として処理を実行するソフトウェアの通称で、チャットのキャラクターとしてノーコードで生成できる。

「altBRAIN」α版では約20種類のエージェントが用意され、そのすべてを無料で利用できる。この画面ではシェフ、戦国武将(織田信長)、セラピスト、医療、ゲーム攻略エージェントなどの専門的なエージェント(キャラクター)が準備されていることがわかる。また、α版ではユーザー自身のキャラクター(デジタルクローン)も生成できる。
なお、サービスの正式ローンチは2023年7月を予定。その時点では100体以上のエージェントの提供を目指している。

作成したデジタルクローンは、「LINE」や「Slack」などの対話システムにクローンとして組み込むことができ、本人に代わって、質問に回答したり、対話に返答することができる。

「altBRAIN」α版 https://altbrain.ai/

同社はファストドクターが共同開発した生成系AIが医師国家試験で合格点を獲得したというニュースリリースを出しているが、そのAIモデルを活用し、「altBRAIN」で生成した医療エージェントと対話するデモも実演した。また「altBRAIN」の他の事例として、野村證券と共同開発した証券関連のAIエージェントの実演もおこなった。更に、その生成の操作手順にも触れ、生成したAIエージェントをLINEに組み込んだ例も紹介した。

■「altBRAIN」大規模言語モデルを活用したAIエージェントとの対話デモ




セレブを中心に100体のクローンを年内に生成

報道関係者向けの発表会では、同社CEOの米倉千貴氏が登壇し、オルツのコンセプトと技術の概要を語った。

前述のとおり、「CLONEdev」は人工意識を生成する「CLONE MODERING ENGINE」を通して、利用者の人格をデジタル上に再現する世界初のデジタルクローン生成システムだ。


オルツのミッションは、多くの人がデジタルクローンを通じて「記憶の永遠化」「意思の再現」「個人の価値の最大化・永遠化」を目指す、としていて、故人もまたデジタルクローンとして永遠に存在し続ける世界を描いているという。

今回はサンブルとして「CLONEdev」を使用して前述の3人のデジタルクローンを生成したが、今後はまずはセレブを中心に100体のクローンを年内に制作する、と語った。


オルツ独自の大規模言語モデル「LHTM-2」を活用

「CLONEdev」のクローン生成プラットフォームには、オルツが独自開発した大規模言語モデル(LLM)「LHTM-2」(ラートム)が使用されている。「ChatGPT」が話題になっている今、日本発の企業が独自開発している「LHTM-2」にも興味が集まっている。「LHTM-2」の技術解説は同社CTOの西川仁氏が登壇しておこなった。

株式会社オルツCTOの西川仁氏

西川氏は話題の「ChatGPT」や「GPT-3」との比較をあげ、「LHTM-2」を解説した。パラメータ数は「GPT-3」が約1750億に対して、「LHTM-2」が約1600億とやや劣るが、数10億パラメタの小型モデルも用意していることで、「GPT-3」とほぼ同水準の性能を持ち、国内の大規模言語モデルとしては最大規模だろう、とした。


また、オルツとしては「ChatGPT」が、正しくない情報を回答したり、運営側にとって想定外の回答をおこなう、いわゆる「ハルシネーション」を防止するカスタマイズ技術を盛り込み、ビジネスに活用しやすいように工夫し、専門性に特化した対話型AIの生成を実現している。


「GTP-3」やチャットに特化した「ChatGPT」は評価しつつも、「LHTM-2」は根本的な方針やアプローチが異なる点を強調した。


その上で、「LHTM-2」のユースケースを紹介し、そのひとつとして、前述のオルツとファストドクターが共同開発した生成系AIが医師国家試験で合格点を獲得したことにも触れた。これには禁忌問題も含まれているという。



このモデルは膨大な計算リソースを必要とするため、今後は同社の分散演算基盤「alt Emeth(オルツ・エメス)」プロジェクトとの連携を進める予定だ。


人類の労役をなくす=すべての仕事をAIが代行する

「CLONEdev(クローンデブ)」は、日本語と英語の対話をサポートすることで、海外でも広く活用されることを目指しており、同社は、2023年7月までに一般のユーザーにもクローンの生成機能を提供する予定。同社は「開発・提供するP.A.I.(パーソナル人工知能)によって、人類の労役をなくすとともに、人類全体をデジタル化し、未来に向けて人類を保管していく仕組みの実現に向けて、邁進します」とコメントしている。

【動画】3人のデジタルクローンによる自由討論「未来はどうなるか」をオルツが実演公開 CEO米倉氏/成田悠輔氏/静電場朔氏」につづく
■Future of Work: Digital Clones of Yourself?

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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