デジタル庁、経済産業省、国土交通省、環境省が後援する建設・土木・測量の最新技術の展示会「建設・測量生産性向上展2023(CSPI-EXPO)」が5月24日~5月26日の日程で、千葉の幕張メッセにて開催された。土木・建設・点検領域では作業効率向上による後期短縮、省人化、品質の担保等のために情報通信技術(ICT)を様々な方法で活用する施工法「情報化施工」が徐々に普及しつつある。最先端建機や器具、ICT活用サービスのほか、生産性向上に貢献するロボットや遠隔操作技術も数多く出展されていたので、その一部をここでご紹介する。
■「Ready to Be Robot」の建機をアピールする日立建機
■ICT施工、次世代安全運転支援システムをアピールする住友建機
■諸岡の無人型キャリアダンプは林道でも走行可能
■ヘビ型ロボットや搬送台車 アクティオ
■インフラ点検を行うハイボットのヘビ型ロボット
■イクシス ARを使った締固め管理システム
■ニッケン、墨出しロボットや鉄筋走行台車
■建ロボテック 全自動結束システム「トモロボ」
■ラポーザの有線給電ドローンと掃除・除菌ロボット
■Haloworld ロボットマッピングシステム
■ROS対応カメラを提案 萩原エレクトロニクス
■光硬化を使った管を補修 J-TEX工法
■ユアサ商事、コンクリート散水養生無人管理用ロボットを出展
■水中ドローンも
■「Ready to Be Robot」の建機をアピールする日立建機
日立建機は将来の「自律施工」を視野に入れた遠隔・自動化対応の建機のプロトタイプを出展。施行現場の労働災害防止、労働環境改善、技能伝承などを想定する。搭乗操作に近いリモコンで操作できるほか、マシンコントロールやエリアコントロールを使った運転支援も搭載する。
日立建機では、人間が現場で行っている「認識・判断・実行」を機械システムが行えるようにした、自律型建機向けシステムのプラットフォームのコンセプトを「ZCORE(ズィーコア)」と呼んで、油圧ショベル、ホイールローダ、ダンプトラックなどに搭載。自動化ソリューションの開発・検討を進めている(2020年のリリース https://www.hitachicm.com/global/ja/news/press-releases/2020/20-08-19/)。
そのほか、後付けで建機を遠隔操作可能にする「RemoDrive」、複数の建機間を遠隔で乗り換え可能にする「Switching Cab」を体験可能なかたちでデモ。来場者がラジコンを外部から操れるようにしていた。「RemoDrive」を使うことで現場カメラを選択して搭乗操作だけでは見えない視野も獲得できる。
■ICT施工、次世代安全運転支援システムをアピールする住友建機
住友建機は開発中の次世代の安全運転支援システム等を出展。3Dマシンコントロールを搭載した小規模土工向けICT建機に、周囲監視装置「FVM2(フィールドビューモニター2)」、そして新たに「衝突軽減システム」を組み合わせたシステムを紹介していた。
■諸岡の無人型キャリアダンプは林道でも走行可能
諸岡は主力製品の全旋回型キャリアダンプのほか、コンセプトモデルの無人型キャリアダンプ「MAVE」を出展。パナソニックアドバンスドテクノロジーと共同開発中のもので、不整地を自律走行できる無人ダンプだ。両社の技術を使うことで、狭い林道でも自律走行できているという。
コンセプトモデルの「MAVE」は、色あいも含めてそのままハリウッド映画に出てきそうなシルエットで、多くの人が興味深そうに見入っていた。
パナソニックアドバンスドテクノロジーの不整地での自律移動向けパッケージ「@mobi」も出展されていた。建機やAGVを自律化させて、各種自走ロボットを開発できる。
■ヘビ型ロボットや搬送台車 アクティオ
アクティオは酒井電機の低床型搬送台車「LOW LIFT(ローリフト)」をデモしていた。マーカーを使うことで、対象が移動しても追従して持ち上げることができる。可搬重量は500kg。
*動画
また、大末建設と電通大・田中基康研究室が共同開発した点検用ヘビ型ロボットも参考出展。2022年9月に発表されたロボットで、電気配管や給排水の設備などが配置される建設現場の地下ピットで用いることを想定している。地下ピットは湿度・二酸化炭素濃度が高く酸欠の危険性がある上に、天井が1.5m程度と低く、区画間の移動には「人通口」という穴を点検員が通過しなければならない。そこでロボットが地下ピットを自律走行・撮影することで点検できないかというわけだ。
ロボットは最大600mmの高さの段差乗り越えも可能で、動作時間は最大3時間。所定の位置で画像を撮影できる。現在、アクティオ、大末建設、電通大の3者で商品化を目指している。点検後のドキュメント作成などのサービス化も含め、2024年度にはアクティオからのレンタル品としたいとのことだった。
*動画
このほか、脚式ロボットや車輪、クローラなどのロボットを使った遠隔監視も参考出展されていた。ロボットの種類は使用用途に合わせて提案し、一人で複数の監視業務ができるようにする。
■インフラ点検を行うハイボットのヘビ型ロボット
リックス(RIX CORPORATION)ブースでは東工大発スタートアップのであるhibot(ハイボット)のロングリーチヘビ型マニピュレータ「Float Arm」、ヘビ型点検ロボットが出展されていた。リックスはハイボットに2022年に出資を行っている。
「Float Arm」は自重補償機能を備えた多関節ロボットアームで、高所の点検が可能。5mのリーチがある。先端には各種カメラのほか超音波探傷プローブも取り付けることができる。入り組んだ配管の多いプラントなどの点検に使われている。
前後にカメラを持つヘビ型ロボット「Soryu-C」は瓦礫上も走破できるヘビ型探査ロボット。直径100mmの細い開口部から進入して、最大300mmの高さの段差を越えて移動できる。防塵防水構造で、泥、水、砂の中、瓦礫にも対応する。
■イクシス ARを使った締固め管理システム
イクシスはBIM/CIMの属性情報(IFC)に双方向でデータ連携できるシステム「i-Con Walker」などを展開している。ロボットで収集した点群とBIM/CIMの座標を連携させることで、現場の遠隔管理を行うソリューションだ。
今回はワイヤ吊下型の写真撮影式点検ロボット「Rope Stroller」のほか、ARを使った締固め管理システムを初出展。これは生コンを打設するときのバイブレータ挿入箇所と時間を視覚化するもの。現場三箇所にマーカーを設置すれば、作業の施工状況をスマホでAR表示できる。これにより他の作業者の施工状況もお互いにリアルタイム共有ができ、管理者は管理画面からエリア全体の作業進捗を直感的に理解できるようになる。記録も自動で行われる。
ロボットや機器を使うことで、その作業の省力化だけではなく、記録作成などの後処理も容易にするところがイクシスの強みだ。このほか、物流倉庫の点検システムや床面のクラック点検システムもアピールされていた。
■ニッケン、墨出しロボットや鉄筋走行台車
ニッケンはスラブ配筋上で資材を簡単に走行させるための台車や、墨出しロボット「SUMIDAS」を出展。「墨出し(すみだし)」とは、建築現場で柱や壁など基準となる線を書き出す作業のことである。設計図どおり正しく引くことが要求される。現在では一般にレーザーが使われている。
CAD図面を使って自動走行する墨出しロボットは業務終了後の夜間に作業を行うことを想定。業務終了時にセットしておけば、翌朝の業務開始時には墨出し作業が既に完了しており、すぐに取り掛かることができるというわけだ。なお段差や壁際には対応していない。
墨出しロボットは他に日立チャネルソリューションズの「SumiROBO」もあり、こちらも千代田測器のブースでデモを行っていた。
■建ロボテック 全自動結束システム「トモロボ」
建ロボテックは鉄筋の全自動結束システム「トモロボ」をデモ。「トモロボ」自体については、2022年3月のこちらの記事(職人を助けるための実用ロボット 建ロボテック、全自動結束システムを開発)をご覧いただきたい。2023年5月現在の派遣実績は106現場、稼働実績は1,386日、利用起業者数は61社とのこと。
■ラポーザの有線給電ドローンと掃除・除菌ロボット
長野の株式会社ラポーザは有線給電ドローン、掃除・除菌ロボットを出展。有線給電ドローンは災害時の定点観測利用を想定。掃除・除菌ロボットはGPSの使えない屋内で自律走行でき工場のほか、農業ハウス、養鶏場・養豚場などでの活用を提案している。
■Haloworld ロボットマッピングシステム
Haloworldは建設現場を3D点群化するロボットのプロトタイプを出展。計測データからロボット用のマップを作り、クラウド管理ができるという。
■ROS対応カメラを提案 萩原エレクトロニクス
萩原エレクトロニクスは「人・物体検知システム」、「サラウンドビュー人検知システム」、「建設機械向けコントローラPC」などを出展。Doogの「メカロン」をベースに使って、研究開発用の提案も行っていた。また、建機にも使えるROS対応のステレオカメラを出展。これからはROSが建設機械にも使われるようになるのではないかと見ているという。
■光硬化を使った管を補修 J-TEX工法
JーTEX工法協会は、水道管などを補修するための「JーTEX工法」を紹介。耐酸性ガラスクロスとガラス繊維に光硬化樹脂を含浸したライナー材、そして管渠を走行する「UV チェーン」を使って、管内を確認。ブロワでライナー材を広げたあと、UVによる光硬化を使って管渠を更生(補修)できる。従来工法の1/3程度の時間で硬化させられることからスピーディ、高品質、低コストだという。
■ユアサ商事、コンクリート散水養生無人管理用ロボットを出展
ユアサ商事はコンクリート散水養生無人管理ロボを出展。センサーでコンクリート表面の湿潤状態を自動認識し、計測。カラーマッピング記録する。奥村組、桐生電子開発と共同開発中とのこと。これらロボットのほか、コンクリート締め固め管理システムなどを組み合わせることで、省人化と品質向上を目指す。
■水中ドローンも
水中ドローンのスタートアップ・FullDepth(フルデプス)は、産業用水中ドローンを展示。潜航可能深度は300m。最大4時間稼働し、フルHD撮影ができる。ダム堤体の水中点検や取水管、上下水道などインフラ維持管理への提案を行っていた。高圧洗浄機を使ったケレン作業なども可能で、スーパー工業ブースでは作業の様子のビデオが紹介されていた。
ドローンテクニカルファクトリー川越はQYSEAの「FIFISH V-Evo」をデモ。アームセットで水中のペットボトルをつかませたりしていた。小型で安定性が強く、手先が器用。把持力は70Nで、ロックもできる。
ロボットの見方 森山和道コラム
ABOUT THE AUTHOR /
森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!