2023年7月28日、生成AIに関する一日限りのオンライン・セミナーイベント「NVIDIA 生成AI Day 2023 Summer」がはじまった。基調講演は「始まった大変革、日本企業がとるべき一手」と題して、東京大学 松尾豊氏とエヌビディア合同会社 井﨑武士氏の対談が行われた。
参加希望者が多数だったため、予約時点で打ち切られ、リアルタイムで拝聴できない人も多かった。しかし、本日夜(7月28日 19時以降)よりアーカイブとして配信が行われるので、全編を確認したい人はそちらへの参加をオススメしたい。
松尾氏と井﨑氏の対談では「生成AIとこれまでのAIの違い」「海外の生成AI事例」「松尾先生や学生のChatGPT使用方法は」「ChatGPTは何が凄いのか」「日本が生成AIで儲けるためには」「日本政府の現在、今後の取り組みは?」「生成AIのリスクへの対応について」「生成AIは今後どのような存在になるか」「生成AIの技術はどう進化していくか」「日本企業は何から始めるべきか?」「NVIDIAに期待することは」「聴講者へのメッセージ」といった、今、最も興味深い議題について対談が交わされた。
生成AIとこれまでのAIの違い
最初の議題として井﨑氏は「生成AIとこれまでのAIの違い」を問いかけると、松尾教授は「生成モデル自体は以前からその研究は行われていて、ディープラーニングによる生成モデルは深層生成モデルと呼ばれてきました。技術としてはありましたが、昨年から画像生成AIの精度が目を見はるような進化を遂げ、ChatGPTが登場して言語の生成が、非常にうまくできることが誰の目にも明らかになって、一気に注目を浴びたという状況です。
もう少し技術的な流れを捕捉しますと、ChatGPT のような大規模言語モデルは、2017年にGoogle の研究者らから提案された「トランスフォーマー」という技術がベースになっていますし、画像生成も「ディフュージョンモデル」が使われている場合が多いのですが、この技術も2015年ぐらいに登場しています。ですので、研究者やコミュニティから見れば、今になってなぜ生成AIがこれほどブームのように騒がれるのか、以前から可能性は知られていた、というのが多くの意見だと思います」と答えた。
画像生成にしてもテキスト生成(自然対話)にしても、その進化が誰の目にも明らかになったという点で生成AIへの注目が加速したとみられる。
大規模言語モデルが飛躍的に進化した理由
大規模言語モデルはあたかも言葉の内容や意味を理解しているように感じるが、実はそのしくみは「次の単語を予測する」という技術がベースとなっている。それについて松尾教授は「大規模言語モデルの場合、自己教師あり学習が行われて、次の単語を予測します。ネクストワードプリティクションやネクストトークンプリティクションと呼ばれます。次の単語を予測することがそれほど重要なのか、と感じる人が多いと思いますが、これはトノウにとっては本質的なことで、人間も時々刻々と目や耳、感覚などが情報を入力していますが、常に次に名何が起こるかを予測をしながら学習しています。本質的という意味はそういうことです。もうひとつは、従来のAIは効果的な学習をして高精度なモデルを作るのに最適なパラメータ数が必要とされていましたが、大規模言語モデルではとにかくパラメータ数を大きくすれば効果が伴うので、これは相当に面白いことが起こっている、それでパラダイムが怒っているとも感じています」と語った。
生成AIの海外アプリケーション事例
その後、井﨑氏から海外の事例が紹介された。まずはChatGPTの利用に関する統計を紹介した後、井﨑氏が画像生成AI「Stable Diffusion」生成した風景画を紹介した。井﨑氏自身は絵がとても下手だと語り、それでも簡単なプロンプトでこれだけのリアリスティックな絵を入手することができる、とした。
次に生成AIを使ったアプリケーションも紹介し、いわゆる生成AIがどのように活用されるかがわかるもので、中には今までにはない衝撃的な機能を持ったものもあった。ちなみに紹介したアプリケーションは「Insight Face」「Briefly」「chooch」「BeatifulAI」「Ghostwrite」「Super Meme」「Adobe Firefly」「DragGAN」。
犬の顔の向きを変えると画像を生成しながら自然な画像を生成していく「DragGAN」のデモも面白かった。
「生成AIについては日本はまだ遅れを取っていない」
井﨑氏は「従来のAIは海外の先進国に比べて周回遅れと言われているが」と投げかけると松尾教授は「生成AIについては日本でも一気に注目されて気運が高まっている。スタートダッシュで後れを取っていない。日本で大規模言語モデルを開発する必要もあるし、様々なアプリシーションの開発が活発に行われていく必要があります」としつつ、「日本は計算資源が桁で足りない」と現状の課題も掲げた。
井﨑氏は「生成AIの普及によって効率化され、業務に必要な人の数は減ります。生産人口が減っていく日本にとっては救世主」とした。また、「業務の効率化によって、既存事業だけでなく、社会的な変化も起こると予想されるので、そこからどんな付加価値を創造していくかもこれから楽しみなことのひとつ」と語った。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。