アスタミューゼは、次世代移動通信(5G/6G)の技術領域において、同社が所有する論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報などのイノベーションデータベースを網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめ公開した。
5G/6Gの通信技術とは
現在、利用されている最新の移動通信システム(5G)は、1980年代に導入された「第1世代移動通信システム」(1G:1st Generation Mobile Communication System)から数えて第5世代目となる。
2020年3月に開始された5Gのサービスは、「高速・低遅延」が特徴だが、内閣府が公開している「広範囲調査分析」によると、2030年ごろに実用化が予想される第6世代(6G)通信では、さらなる高速・低遅延が期待されているばかりでなく、自然、遠隔地域、宇宙にまで電波が届く範囲が広がる「超カバレッジ拡張」や1平方キロメートルあたり約1,000万台を同時に接続できる「超多数同時接続」が可能になるとされている。
高速・低遅延のサービスは非常に便利で、大容量データをすばやく送信できるのは有益だが、一方でその「高速・低遅延」な通信技術が具体的にどのように活用されるのか、イメージしにくい面もある。
今回公開されたレポートでは5G/6Gモバイル通信の用途として、自動運転、ドローン、XR(クロスリアリティ:現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できる技術の総称)、医療の分野に着目。その特許の出願状況から、どのような用途の技術が注目・成長しているかを調査した。
5G/6Gモバイル通信全般に関する特許出願の動向
図1では、5G/6Gモバイル通信に関連する特許出願の国別動向を示している。
この分野では、2001年以降に約50,000件の特許が出願されている。特許出願件数を見ると1位が韓国、2位が中国、3位がアメリカと続いており、韓国・中国は2014年から2016年にかけて急激な成長を遂げたのが見て取れる。
図2では、2013年以前の動向をわかりやすくするため、出願件数を縦軸100件までに限定して表示している。これを見ると日本は2012年までは世界でもっとも多くの5G/6Gモバイル通信特許を出願していたが、2013年には中国に、2015年には韓国に、2016年にはアメリカに追い抜かれていったことがわかる。
アスタミューゼ独自の特許価値評価ロジックをもちいて各特許の価値を示す「パテントインパクトスコア」を計算し、帰属国や出願者(企業・研究機関)ごとに「トータルパテントアセット」を算出。トータルパテントアセットは出願件数に特許の「価値」を加えることで、各国や出願者の特許の総合的な力を俯瞰する指標となる。
図3は、前述した帰属国別のトータルパテントアセットのランキングとなる。
対象とした特許は、2001年から2022年にかけて全世界で出願されたもの。出願件数では中国と韓国が競っているが、「トータルパテントアセット」のスコアを考慮すると、5G/6Gモバイル通信全般の技術では中国の出願特許がより高く評価されている。
なお、日本企業から出願され、もっとも高く評価された5G/6Gモバイル通信に関連する特許は、2017年にソニー株式会社が出願したもの。「US11357059B2 Distributed control in wireless systems(ワイヤレス環境における分散制御技術)」(公開番号:US11357059B2)は、5Gを活用したワイヤレス環境における分散制御の技術を提供。複数の送受信ポイントによる多重接続のアクセス制御機能を複製することで、分散制御を実現している。
5G/6Gモバイル通信の使用用途
つぎに、具体的な用途に関連する特許について見ていく。
図4は5G/6Gモバイル通信技術を活用した自動運転、ドローン、XR、医療の特許出願動向を示している。
それによると、自動運転に関連する特許の出願件数がもっとも多く、約2100件の出願があった。次に、ドローンの出願件数が約500件、XRの出願件数が約400件となっており、ドローンとXRの出願件数は、ともに2018年に出願が増加した。
医療に関する特許は251件で、病院間のデータ共有や患者の状態のデータ収集などの技術に関連するものが多く出願されていた。
図5は、2018年を”1″とした特許出願件数の推移を示していおり、たとえば、縦軸の値が10の場合、2018年の10倍の出願が行われていることを意味する。
このグラフからは、各領域に関連する特許の成長を見ることができ、5G/6Gモバイル通信技術をドローンや医療に応用した特許が近年で大きく増加していることがわかる。
続いて、5G/6Gモバイル通信技術の主要応用先である自動運転(図6)、ドローン(図7)、XR(図8)の3つの技術要素について、出願者(企業・研究機関など)ごとのトータルパテントアセットを算出。
この3分野において、トータルパテントアセットと出願件数の両方で、韓国のLG Electronics, Inc.とSamsung Electronics Co., Ltd.が首位と第2位を占めている。自動運転とドローンというモビリティに関しては、Samsungは出願数が少ないものの、スコアでLGを上回っており、高く評価される技術に絞って出願する戦略が推察される。
まとめ
5G/6G技術全体を俯瞰すると、中国が大きな存在感を示している一方で、「高速・低遅延」な通信技術を具体的に活用した特許出願では、韓国のLGとサムスン電子が出願件数と特許の価値(スコア)の両面で1位と2位を占めている。この2社は、2019年に自社の6G研究開発センターを立ち上げ、2020年8月には韓国科学技術情報通信部が6G R&D戦略をまとめるなど、5G/6Gの応用可能性に関する技術開発において民間主導の動きを見せている。これらの企業の出願特許からは、5G/6G技術への戦略的なコミットメントが読み取れる。
今後、医療関連の技術も萌芽的に伸びてきており、これらの企業がトップを維持するか、他のプレイヤーが巻き返すかが注目さる。
特に、サムスン電子は主力の半導体メモリーの市況低迷による業績の悪化がどのように影響するかも重要であり、このような状況下で、5G/6G技術の進展はさまざまな産業や分野に大きな影響を与えることが期待される。
特許出願や技術開発の動向を注視することで、今後のモバイル通信技術の発展に関する見通しをより明確に把握できるとしている。
アスタミューゼ株式会社