「脳バイオデジタルツイン」の実用化に向けてNTTと国立精神・神経医療研究センターが連携 そのしくみと期待される効果は?

NTTと国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、2023年8月1日にパートナーシップ協定を締結したことを明らかにした。

「脳バイオデジタルツイン」の実現と、実用化による認知症等の早期発見・予防の実現をめざす。

認知症患者数の増加に「脳バイオデジタルツイン」で課題解決目指す

高齢化の進展や過度なストレスなどにより、認知症やうつ病の増加が社会問題となっている。

65歳以上の認知症患者数は年々増加し、内閣府が発表した「平成29年版 高齢社会白書」では2025年には約675万人(有病率18.5%)と、65歳以上の約5人に1人が認知症になるといわれおり、OECDの発表ではうつ病やうつ状態の人の割合は、日本国内で新型コロナウイルスが流行する前に比べて2倍以上になったという報告がなされている。

また、これらの疾患は、体系的な治療薬・治療方法が確立されていないこと、高い侵襲性を伴う複雑な検査が必要となり患者の心理的・経済的負担が大きいことなどが課題となっている。

こうした中で、精神・神経系疾患への取り組みに注力する国立高度専門医療研究センターであるNCNPは、脳や神経の状態・機能等を予想する「脳バイオデジタルツイン」のコンセプトに基づき、個別化医療を含む質の高い医療を実現し、これらの課題解決をめざしている。


「脳バイオデジタルツイン」のコンセプト


病態の脳状態や機能を予測する「AI脳シミュレーター」

具体的には、これまで臨床や研究活動を通じて取得してきた精神・神経系疾患の膨大なデータ等を集約して体系的に整理するライブラリ・プラットフォームの構築や、臨床的知見に基づくデータ等の精査・選択、AI(人工知能)やML(機械学習)の駆使による病態のモデル化、さらに、病態の脳状態や機能を予測する「AI脳シミュレーター」が必要になると考えており、実現に向けて活動している。

NTTにおいても、脳に留まらず身体および心理を精緻にデジタルデータとして写像する「バイオデジタルツイン」のコンセプトを2020年11月に提唱し、研究開発からビジネスの提供までを実施をしている。

NTTは、これまで心臓をはじめとする心身のバイオデジタルツインの研究開発を実施してきた経験、ノウハウに加えて、高いレベルのAI、ML処理技術を持つことから「脳バイオデジタルツイン」の研究を加速させ、早期実現に大きく貢献することができる。

今回NCNPとNTTは、双方の考え方や取り組みに共感し、認知症等の早期発見・予防への活用が期待できる「脳バイオデジタルツイン」の迅速な実現と実用化をめざすべく、本パートナーシップ協定の締結に至ったと説明している。


「脳バイオデジタルツイン」の実用化による効果

「脳バイオデジタルツイン」とは、受診や検査、日常生活を通じて得られる各種の身体データを、デジタルデータとしてコンピュータ内に取り込み、デジタルツインコンピューティング技術によってサイバー空間上に緻密な写像や生体モデルとして実現するもの。中枢器官である脳や神経を対象とする「脳バイオデジタルツイン」の実用化により、患者本人の体ではなくその「ツイン」を検査等に用いることができるようになる。

「脳バイオデジタルツイン」の実用化により、以下のような効果が期待できる。

・侵襲性を伴う複雑な検査が不要となることによる患者の心身負担軽減
・検査の簡便化が可能となることによる患者の費用負担軽減
・大型検査機器のデータ共有による小規模病院での検査・治療の実施
・個人に依存する副作用の有無や程度の服薬前での予想
・承認前治療薬の臨床上の効果や副作用の検証を補完すること(治験の支援)による承認の早期化・患者の負担軽減
・臨床的所見の高度解析による発症リスクの予測と疾患の早期発見・予防
・多種多様な病態のデータ収集・再現・解析による体系的な治療薬・治療方法の確立



「脳バイオデジタルツイン」の実用化に向けた両者の役割

NCNP

・脳神経疾患の解析に特に有用となる、PET(Positron Emission Tomography)等の画像データやそれに紐づいたバイオサンプル(血液・脳脊髄液、組織サンプル、遺伝子情報など)データ等の提供
・AI、ML処理により得られた結果と病理の因果関係の医学的解釈付与や必要な臨床の実施

NTT

・NTTグループでこれまで実績のあるAI、ML処理技術の提供
・実用化に向けたビジネスパートナーとのエコシステム構築、商用化の推進


今後に向けて

NCNP・NTT両者がこれまでの蓄積データや知見を持ち寄ることで、2024年度には「脳バイオデジタルツイン」処理基盤の構築に着手し、3年後を目途に、いくつかの脳や神経系の機能・病態のモデル化を行い実用性の高い「脳バイオデジタルツイン」を実現するとしている。

その後速やかに、有効な治療薬の開発が求められている喫緊の課題などについて、薬事規制とも連携を図り、個人に依存する副作用の有無や程度の予想を服薬前に高精度で行うなど、疾患を早期発見・予防するシステムとしての実用化をめざす。

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ロボスタ編集部

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