NECプラットフォームズは、静岡県掛川市の掛川事業所内に新しくスマート工場を新設し、8月から本格稼働を開始した。そこでは最新のICT技術として自律走行搬送ロボット(AMR)、無人搬送車(AGV)を複数台導入し、それを統合制御するプラットフォームを導入した。通信にはローカル5Gを活用している。これにより製造工程を自働化と高度化を図り、掛川事業所全体で生産効率の30%向上を見込む。
同社はこのスマート工場を8月29日、報道関係者に公開した。
ネットワーク機器を年間約300万台生産する掛川工場をスマート化
新工場は延べ床面積15,632平方メートル。ここで製造・生産している製品は主に5Gモバイルルータ、5Gホームルータ、ホームゲートウェイ、企業向けLANスイッチ、無線LAN製品などのネットワーク機器が主で、年間約300万台の生産能力を達する。
NECグループは社内の開発や生産拠点が協調して1つのファクトリーのように振る舞う「ONE FACTRY」というコンセプトを推進している。この掛川工場もそのひとつだ。そしてここでは特に、最新技術を取り入れ、セキュア生産の「安心安全」、ロボットラインやクリーンルームを活用したスマート工場による「高効率・高品質」、太陽光発電による「エコ」を掲げている。
工場内のICT化だけでなく、他の工場やサプライヤーなどとネットワークでセキュアに繋がり、情報をリアルタイムにやりとりするコネクテッドファクトリーは「インダストリー4.0」構想にも通じるものがある。
新工場は地上4階建てで、NECグループのものづくりを担ってきた経験・ノウハウを活かして、基板の表面部品の実装から、後付け部品の実装、本体ヘの組込や組立、検査、梱包など、下層から上層へ製造工程の流れに沿った建物構造で作業効率を高めた。
その上で、製造部品の運搬や完成品の搬送などをAMRやAGVが自律走行で担当、エレベータでフロアを移動してモノの移動を自動化した。
大型の「AGV」と小型の「AMR」が稼働
現状で、大型の無人搬送車(AGV)8台と小型の自律走行搬送ロボット(AMR)17台が工場内を走行している。
大型のAGVはライントレースで自律移動
大型のラックや荷物を運べるAGV(AGV本体自体は下の写真でいえばラックの下部の搬送車でそれほど大きくはない)はライントレースを採用し、磁気テープに沿って決まった走路を自律走行する。一度に搭載できる荷物も多いため同社の説明では「電車型」と表現した。
基板生産をおこなう3階では生産ラインと連携して、大型のAGVが基板を積んだラックを搬送していた。
小型のAMRはVisual SLAMで自律走行
一方、小型のAMRは通路を自由に動き回り、目的地を指定すれば、最適な通路(ルート)を選定して自律走行、同社は「宅配便型」と表現した。自律走行はカメラ映像データから自己位置を推定するVisual SLAMを用い、自律的に安定して走行する(走路を外れないように通路の限界を示テープは貼られている)。通信にはセキュア・広範囲カバー・安定通信といった特徴を持つローカル5G親機を1基で運用している。
なお2021年より、NECプラットフォームズの甲府事業所ではNECと共に、製造現場におけるローカル5Gの活用に関する検証を進めており、今回NECグループの製造現場で初めてローカル5Gの実運用を決定、実採用した。
■NEC掛川スマート工場を公開!搬送ロボット/5G/量子アニーリング
NECマルチロボットコントローラ
動き回るAMRの運用にあたり、走行・運行を管理しているのがNECの自律移動ロボット管制制御ソフトウェア「NECマルチロボットコントローラ(MRC)」だ。
MRCによって、敷地内の複数のラインとAMRの現在位置の関係を把握するとともに、最適な走行経路をリアルタイムに計算し、渋滞回避やAGVとの位置情報を活用した交差点制御等を行う。安全かつ高効率な自働搬送の実現に有効に作用している。
■NECマルチロボットコントローラ ローカル5Gを使った搬送ロボットAGV,AMRの制御と管理
量子アニーリングの導入
最新のICT技術の導入は、このスマート工場には他にも満載されている。
量子アニーリングの導入もそのひとつだ。電子部品をプリント基板に実装する表面実装工程(SMT工程)において、量子コンピューティング技術をベースにした「生産計画立案システム」を導入し、作業計画や人員配置を最適化している。量子は最適化問題を高速に処理するのに適している。
今回新たに、作業進捗状況を踏まえた最適な作業順番を常に再計算して作業者に指示する機能を取り入れた。
効率的な順番で生産するための段取りにかかる時間を50%も削減、設備稼働率の向上が見込めるとしている。同社は「長年の現場革新活動で浸透した弛まぬ現場改善に加え、最先端技術の導入によるデジタル活用で、ものづくり現場の変革をDXで加速していきたい」と語っている。
エネルギー削減と電力
新工場の屋根には太陽光パネルが設置されている。自家消費型の太陽光発電システムを導入し、年間約281Mwhの発電量を見込む。これは新工場の消費電力の約10%にあたる。再生可能エネルギーで賄い、一般家庭約40世帯の年間排出量に相当するCO2約120tを削減できる予定で、持続可能な脱炭素社会の実現に貢献したい考えだ。
セキュリティと安全管理
この工場では、独自のセキュリティ基準でセキュアな調達、セキュアな製造、セキュアなロジスティクスを行う「セキュア生産」を適用。
業務に応じて入退出可能な区画を設定し、ICカードと顔認証を組み合わせた入退出システムで人の出入りを厳格に管理している。NECの顔認証技術は世界的なコンテストで数度にわたり、世界トップレベルが実証されている高精度名技術だ。多くの空港でも採用されている。
また、生産ネットワークの細分化(セグメンテーション)とUTM機能(総合脅威管理:Unified Threat Management)などを搭載したセキュリティ機器の導入により、サイバーセキュリティリスクの軽減を図っている。また、室内の浮遊微粒子である塵・ホコリや浮遊微生物の発生を抑え、製造フロアのクリーン度を向上するための除塵エアシャワーを受けて入室した。
なお、衛生面では各フロアの入り口にAGVからの搬送物も高速エアーにより除塵するための、エアシャワー付きバスボックスも設置されている。
担当者は「NEC プラットフォームズは、あらゆるデータやシステムを連携させたスマートファクトリーを目指しており、ものづくりを通じて安全・安心・効率・公平な社会価値を創造し、人びとが豊かさや生きがいを感じられるような社会の実現に貢献していきます」と語った。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。