株式会社グリッドは、鉄道業界の「車両運用計画」と「構内作業計画」をAIとシミュレータ。デジタルツインを活用して自動化・効率化する「ReNom Railway」の開発を2023年10月23日に発表した。
大手鉄道会社向けの業務効率化ソリューションで、今後、鉄道会社と協力して精度を高めていき、3年を目途に開発と熟成を行い事業を軌道に乗せたいとしている。当面は大手鉄道会社、約20社を想定して開発とサービスローンチを進め、それ意向に中規模の鉄道会社、中小規模の鉄道・バス会社などのソリューション展開を検討していく考えだ。
「ReNom Railway」の技術的な特徴としては、AIで車両機体の配置やスケジュールをAIで最適化提案し、それをデジタルツイン上でシミュレーションして検証する流れとなる。
同社は「ReNom Railway」の発表に併せて、報道関係者向けの発表会を開催した。なお、同社は2023年7月7日に東京証券取引所グロース市場に新規上場している。
電力・海運・サプライチェーンに続く鉄道分野向けのソリューション
グリッドはこれまで、電力・海運・サプライチェーンなど、社会インフラ特化型SaaS「ReNom Apps for Industry SaaS」の開発と提供で知られている。また、量子技術や量子アニーリング技術の研究にも注力している。
「ReNom Railway」は、社会インフラ特化型SaaSに新たに追加される4本目の柱となる事業で、社会インフラ特化したオペレーション最適化ソリューションとなる。
無数の組み合わせ業務の最適化をAIが短時間で行う
社会インフラ分野で策定される計画業務は、日々刻々と変化する状況に応じて、熟練担当者が、無数の組合せの中から膨大な時間と労⼒をかけて最良と思われる計画を⽴案する業務が多く、それは熟練者でないと作業が任せられないという属⼈化を招いている。
高齢化・スタッフ付属の時代を迎え、属⼈化の解消は大きな課題であり、グリッドは、独自のAIとデジタルツイン技術を活⽤して、社会インフラ特化型の計画業務の自動化・最適化システムによるDX化を推進してきた。
鉄道業界もコロナ禍の影響を受けて「乗客数が減少」し、コスト削減が迫られる現状だ。そして更には「多くの制約条件」「膨⼤な組み合わせ」「輸送障害による計画の⾒直し」など、人が瞬時に対応するには複雑な業務が多く存在している。それらに対応するため、鉄道輸送に関する多様な計画が熟練技術者によって⽇々⽴案され、鉄道の安全かつ安定的な運⾏が守られているが、その裏側では、それら複雑な業務に対する効率化が重要な課題となっている。
こうした課題を解決するために、豊富な社会インフラ分野でのノウハウをもとに、鉄道分野での最適化を実現するソリューションに参入した。
その機能は主に「車両運用計画」と「構内作業計画」となる。
■車両運用計画
「車両運用計画」は、列⾞ダイヤに基づいて、どの⾞両をどの列⾞に割り当てて運⾏するかを決定する業務。限られた数の⾞両を効率的に使い、1⽇数百本にのぼる列⾞をダイヤ通りに運⾏するためには、膨⼤な組み合わせの中から列⾞を割り当てる必要がある上に、輸送障害発⽣時には計画の修正が余儀なくされる。
それに加え、路線の特徴や⾞両の配置、点検、分割・併合といった多種多様な制約を考慮する必要があるため、担当者には⾼度な技術が必要とされている。
「ReNom Railway」では、列⾞ダイヤや駅構内情報等を考慮し、⾞両運⽤計画作成の⾃動化・最適化をAIを⽤いて実現する。さらに、⾞両運⽤の最適化により、⾼額な⾞両の保有数を⾒直すことが可能となり、⼤幅なコスト削減も期待できる。
その機能は主に「車両運用計画」と「構内作業計画」となる。これにより、他のインフラ分野と同様に、「複数の最適と思われる組み合わせの提案」「計画作成時間の短縮」「シミュレータでの確認・検証」が可能となる。
■構内作業計画
「構内作業計画」は、鉄道の安全・安定輸送を確保するために必要な⾞両の点検作業等に関する計画で、⾞両基地構内での「⾞両の⼊換作業」や「検査」「清掃」などの実施場所や実施時刻を決定する。
決められた列⾞運⾏を厳守するために、限られた時間で効率的に各種作業を実施する必要があるが、⾞両基地内の設備条件や各作業⼈員のリソースなどの制約を考慮して⽴案する上、輸送障害発⽣時には計画の大幅な修正が余儀なくされる。
「ReNom Railway」では、各社の鉄道設備に合わせて、AIによる構内作業計画の⾃動化・最適化をする。また、従来よりも計画立案にかかる作業量を⼤幅に削減することができることに加え、基地内設備のダウンサイジングによるコスト削減も実現可能としている。
AIとデジタルツイン(シミュレーション)
最近では、シフト管理や車両の配置管理など、人手で算出するには複雑な「組み合わせ最適化問題」をAIや量子アニーリングを活用する事例も出はじめた。今回の「ReNom Railway」のテクノロジーの特徴は、「物理式」と「制約条件」を入力すると、最適と思われる組み合わせ(配置やスケジュール)をAIが算出し、更にはシミュレータによってその解を実行、検証した上で、AIの提案の採用を決定できる点にあるという。
今後の展望
同社は「ReNom Railwayの追加により、鉄道分野へとAI 開発の対象領域を拡⼤することで、グリッドの企業理念である「INFRASTRUCTURE+LIFE+INNOVATION」をより広範囲で実践してまいります。
既に、サンプルデータを⽤いて計画の最適化が可能であることを実証しており、今後は鉄道事業者との協業を通して実⽤化を⽬指します。さらに将来的には、乗務員運⽤計画やダイヤ乱れの際の運転計画変更を⾏う運転整理、整備作業計画等にも対象を拡⼤し、鉄道業界のDX 化推進に貢献していきたいと考えております」とコメントしている。
グリッドが社会インフラ特化型SaaSを3月より本格リリース 生成系AIを採用して電力・海運・サプライチェーン業務を自動化/最適化
AI最大の課題「フレーム問題」解決の糸口をグリッドが開発!強化学習とアンサンブル学習を連携 米国物理学協会発刊学術誌が掲載
四国電力とグリッドが連携を発表 電力会社向け「デジタルツイン」と「電力需給計画の最適化/自動化AI」の特徴としくみ
量子技術と既存の機械学習アルゴリズムを融合した「量子インスパイア型分類アルゴリズム」発表 グリッドが電通⼤と共同で開発
グリッド関連記事
株式会社グリッド
ABOUT THE AUTHOR /
神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。