アクセンチュア株式会社は「生成AIを活用した経営術・仕事術 最新動向」をテーマに報道関係者向け勉強会を2023年11月2日に開催した。
前回「アクセンチュア「生成AIを活用した経営術・仕事術/最新動向」 Microsoft 365の生成AI機能「Copilot」の社内での活用法を公開」の続編をお届けする。
アクセンチュアは以前から「社員の仕事を生成AIにサポートしてもらう」という機能に取り組んできた。その動きはChatGPTが登場してからより加速し、最近では、その日の予定を確認したり、いろんな人に意見聞いたり、ある議題に対してネットを調べてレポートを作る、企業リサーチのドキュメントを作ると行った業務をサポートするAIを研究・開発してきたという。そして、さらにそこから発展させて、会議の中にAIを参加させて議事録を作り、アクセンチュアの知見を学習したAIが意見を述べるというところまで研究が進んでいる(前回記事の「ブレインバディ」を参照)。
世界国別の「生成AI」の注目度、期待度、投資傾向
勉強会では保科氏は続けて、大企業の経営幹部に対して行った生成AIに関するアンケート調査を紹介した。
まず「AIが投資の最優先事項であると考えている経営幹部はどれくらいの割合か」を紹介した。
グローバルでは、AIが投資の最優先事項であると考えている経営幹部は75%に達し、日本ではさらに高く77%という結果が出た。保科氏が講演などを通して感じる肌感も同様で、この数値は実際とのズレは大きくはないだろう、とした。日本が生成AIに対して意識が高いという点では良い傾向だと言えるだろう。
「AIに焦点をあててIT支出を増額する予定」という傾向を国別に見ると、下記のような割合となっている。
「生成AI」が自社や業界に変革をもたらすと感じているのはほぼすべての国で、一方で実際に「多額」の投資を始めているところはまだ3割に留まっている。
ただ「適度」に投資しているとの回答は60~70%の回答が多く、フランス、オーストラリア、インド、中国、ドイツなどが先行している傾向が見られる。また、今後2年間で投資を拡大するという意欲は各国すべてで高く、総じて生成AIの注目度はディープラーニングの登場時よりも素早く反応している様子が見て取れる。少なくとも自社の業務にどう活かすことができるのかは、早急に検討を進めるのが賢明だろう。
生成AIが自社の業務にどう役立つのか?
生成AIといえば「ChatGPT」などの対話チャットボットや「Stable Diffusion」などの画像生成AIは大きなインパクトを持って報道されているが、実際それ以外では自社の業務のどんなところに組み込まれていくのだろうと感じている人も少なくないだろう。その一端が前回紹介した「Microsoft 365 Copilot」や、今回も前述したアクセンチュアの「ブレインバディ」のように、会議にAIが参加し、議事録を作り、サマリーにまとめ、意見を提言するというものだろう。
アクセンチュアの保科氏によれば、この延長線上にデジタルツイン上でシミュレーションしたり、生成AIが様々な仕事をサポートするパートナーとして業務する「ピアワーカープラットフォーム」の姿を提示した。
AIを交えてブレストし、新しいアイディアを模索し、運用に対して議論したり予想しうる課題出しをしたり等、専門知識を学んだAIを人間のパートナーのように活用方法を示した。また、営業やコールセンターなどで行われている仮想対話のロールプレイング業務も、新人対先輩だったものが新人対AIに変わっていく可能性がある、と語った。
デジタルツインでの活用
保科氏は、「そこから発展して、デジタルツイン・エンタープライズ構築が実現できる。あらゆる企業活動をデジタル上で再現して、その中でシミュレーションして業務を最適化したり、AIの推論を活用してなにかの判断の最適解を模索するという世界を、私もAIに携わる人間として以前から持っていた。
しかし、ご想像の通り今までは簡単なことではなかった。なぜなら企業活動は、人間が関わるところが非常に大きく、人間の動きも含めて再現してシミュレーションするのは困難だった。
ただ、生成AIが登場してきたことによってステージが一段上がったと、私は確信している。経営者向けダッシュボードの画面を見ながら表示されたデータから現況を見て、経営者自身がいろいろと判断するという形式だったが、業務システムに生成AIを導入することで、経営者が生成AIを通じて直接、業務を確認し、指示することができるようになる。これによって、株主や顧客、従業員の声をもとに各種業務の全体最適を実現する世界が視野に入ってきた」と語った。
また、業務システムでは、属人的に連携してきた各業務を生成AIが人に代わってつなぐ事で最適化できるようになること、株主や顧客、従業員の声を経営者が直接把握できる環境を築くとともに、経営判断を各業務システムに直接反映できる可能性が見えてきた、と3つのポイントを紹介した。
経営者が直接対話できる企業システム
こうした特徴を持ったアクセンチュアが開発した「経営者が直接対話できる企業システム AI Powered マネジメント コックピット」によるデモを紹介した。
画面上の数字やグラフから、生産性効率化の推進や人員ピラミッドの適正化などを判断するのが従来のマネジメントツールの常だったが、このシステムでは「DX適用事業の労務費が増えている、その根拠となる数字を確認する」ために詳細の数値を表示する、などの作業手順だった。生成AI導入後は、経営者がこれをAIに聞いていいのかなという意見の有無は別として例えば、「売上と利益率を挽回するためのアドバイスを教えてください」とか「DX適用案件の採算が悪いけれど、この粗利率で大丈夫でしょうか」といった質問にも、数値を提示しながら真面目に回答してくれることなどを紹介した。
そして「すなわち、デジタルツイン上のシミュレーションと推測が実現できれば、経営者が直接AIシステムと話しながら、経営判断ができるようになる。すなわちコンサルタントが入って分析していたような業務が生成AIではあればコンサルタントより正確に即座にデータを提示して予測や提案をしてくれる環境に変わっていく可能性がある。コンサルティング業務の一部分はAIによって置き換わる可能性が極めて高い」と語った。
アクセンチュアはもちろんコンサルティング業務も事業の柱であり、それがAIによって置き換わる可能性を示唆した格好だが、それについては、月並みのコンサルティング会社であれば、AIに取って代わられる可能性は高いが、私達は生成AIをきちんと理解し、AIと協働する働き方がわかっているコンサルタントが企業の利益を生み出すために活用提案していくことが重要だ。生成AIを企業がより効率的に活用していくしくみを考えて、もう一段上のサービス提供をしていくことが今後のコンサルティング業務に求められていくことを示唆した。
また、アクセンチュアではその時代を見据えて、既に最新のAIシステムでは、専門知識を持った大規模言語モデル(LLM)を複数搭載し、段階をおって複数のLLMが情報を解析しながら、従来の最適化AIなどと組み合わせて、より高精度だったり、高度な予測が可能なシステムを構築していると語った。
複数のLLMを活用するシステムについてはとても興味深い取り組みだと感じた。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。