建設業界は「社会と接続する」技術でウェルビーイングを目指す 「ジャパンビルド」で見たロボット活用
建築・建設・不動産業界の課題を解決する最新の製品が一堂に出展する「第8回 JAPAN BUILD TOKYO-建築の先端技術展-」が2023年12月13日から15日に東京ビッグサイトにて開催された。どの業界も同じだが、建築業界も生産年齢人口と高齢化を背景に、熟練工の減少への対応、つまり省人化は「まったなし」となっており、AIや各種デジタル技術、そしてロボット技術が活用されようとしている。
建設業界ではデジタル技術を活用した「ICT施工」が進められている。調査・測量、設計、施工、維持管理の一貫したデータ管理や効率化を可能にするための「BIM/CIM」連携のほか、IoTセンサーを使ったデータ収集、そのデータをまとめて管理・解析・活用するクラウド型のデータプラットフォームを用いるスマートビル構想なども推進されている。必然的に、デジタル技術と相性が良いロボット活用も期待されているというわけだ。
■大成のアバター警備ロボット活用「ugo TSシリーズ」
■日立の自動墨出しロボット「SumiROBO」
■CSC Robotic Engineeringの天井・壁・床施工ロボット
■久保田塗装 自律走行型ブラストロボットシステム
■アスク Unitree Go1を使った点検
■ニコン・トリンブル「Spot」を使った点群計測
■ARAV 遠隔操作重機
■建ロボテック 鉄筋自動結束ロボット「トモロボ」、運搬ロボ「DOG」
■スマートロボティクス 建設現場向け清掃ロボット「HRX スイーパーS HIPPO」
■ロボットやデジタル技術を活用した建設業界のウェルビーイング実現に向けて
■大成のアバター警備ロボット活用「ugo TSシリーズ」
ugo社と共同開発を行なっている大成株式会社は、アバター警備ロボットを使った「ugo TSシリーズ」を全面に押し出してブースを出展していた。コンセプトは「ロボットにできる仕事はロボットに」。アバターロボットを使って、ビルのメンテナンスや警備を行い、省人化する。
ugoのロボットについては本誌でも何度もレポートしているとおりだが、大成と共同開発した「ugo TSシリーズ」は、2020年11月の商用化以降、品川シーズンテラスでは立哨・巡回、アーバンネット名古屋ビル、大阪や東京のオフィスビル、帝京大学八王子キャンパス、大阪梅田ツインタワーズ・ノースなどで活用されている。
■日立の自動墨出しロボット「SumiROBO」
建築現場で重要な作業に「墨出し」がある。設計図面の情報を実際に施工する床などに書きこんで位置出しする作業で、いま、各メーカーが複数のロボットを開発している。近年、レーザー測量計が安価・高性能化したことから、ロボットの位置出しが容易になったことが、ここにきてロボット開発が進められている理由だという。
トプコンのブースでは、日立チャネルソリューションズシステム株式会社が開発した自動墨出しロボット「SumiROBO」のデモが行われていた。トプコンの墨出し用の測量器「杭ナビ」と連携してCADデータで指示された位置に移動して印字を行うロボットで、千代田測器から販売されている。1回の充電で約5時間の長時間稼働が可能。墨出しロボットにもいくつかの方式があるが、「SumiROBO」はインクジェットプリンターを使っている。
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■CSC Robotic Engineeringの天井・壁・床施工ロボット
香港に拠点を置くCSC Robotic Engineering(智建機械)は、図面にしたがって天井を施工したり、床や壁に穴を開けられるロボットを日本初出展。自動穿孔・フラッシュアンカー取り付けロボット「Drillcorpio」と、そのセルフナビゲーションタイプだ。マーキングを画像認識して、自動で穴あけする。
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天井施工するロボットは無改造で高所作業リフトにも載せられる。集塵機能もあり、穿孔と塵埃の除去を同時に行う。曲がっている天井や壁にも穴を開けられる。エンドエフェクターはハンドチェンジャーで自動交換しながら作業を行うことができる。
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日本でも同類のロボットは開発されているが、こちらのロボットは既に製品として現場でも使われているとのこと。
セルフナビゲーションタイプは障害物を自動回避し、マークにしたがって穴あけすることができる。ロボットはいわゆるモバイルマニピュレーター型。
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本誌でも紹介した中国の協働ロボットメーカー・AUBOのアームを使っている。現状ではAUBOのアームのみを使って、1パッケージとして提供している。ここでもAUBOが存在感を発揮してきた。
■久保田塗装 自律走行型ブラストロボットシステム
巨大コウゾブツの塗装を手がける久保田塗装株式会社は、関連会社のフルセイルソリューションズと共同開発した橋梁塗装工事用の「自律走行型ブラストロボットシステム」を出展していた。
独自開発のエンドエフェクタと協働ロボットを使って、橋梁や横断歩道などインフラ構造物の塗替塗装のためのブラスト作業を自動化するためのシステムだ。協働ロボットを使っている理由は主に重量やサイズの問題。他にもDoosan Roboticsのアームを使ったモデルも出展されており、協働ロボットメーカーには特にこだわりはないとのことだった。
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■アスク Unitree Go1を使った点検
技術商社の株式会社アスクは4脚ロボット(Unitree Go1)上に360度カメラ(Insta360)を搭載した製品を紹介。建築現場や山林の巡回などに使えるとして、清水建設と事業を進めているという。
■ニコン・トリンブル「Spot」を使った点群計測
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株式会社ニコン・トリンブルは、販売中のBoston Dynamicsの四足歩行ロボット「Spot」とレーザスキャナーを使った点群計測センサーを組み合わせたソリューションをデモ。かなりタフな状況でも踏破することができる。だいぶおなじみになってきた「Spot」だが、ロボットが動き始めると多くの人が立ち止まって動画を撮影するなど、注目度は極めて高い。「初めて見た」という声も多く聞こえた。
■ARAV 遠隔操作重機
ARAV株式会社は、開発中の重機遠隔操作をブースでデモ。千葉県柏市の「柏の葉キャンパス」のフィールドにおいてある重機と実際につないで、定期的に遠隔操作デモを行なっていた。そのほか、建機に後付けできる遠隔操作装置「Model V」を展示していた。
■建ロボテック 鉄筋自動結束ロボット「トモロボ」、運搬ロボ「DOG」
建ロボテック株式会社は鉄筋自動結束ロボット「トモロボ」の最新モデルを出展。簡単なデモを行なっていた。市販の手持ち電動工具をセットすることで自動結束していくロボットで、反復作業から職人を開放する。横移動には専用のスライダーを用いる。
主に建築工事に用いられる細径(φ10~16㎜)と土木工事やインフラ工事に使用される太径(φ19~29㎜)に対応する2タイプを用意している。速度は結束機2台使用時に1カ所当り2秒以下。トモロボと一緒に働くことで、作業員一人あたりの生産性は約1.4倍以上になるという。
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建ロボテックは現在、Doog社とも協力して、ペイロード150kgの運搬トモロボ「DOG」を販売しているが、そのほか、建設向けの移動ロボットのベースユニットも販売している。不整地でも走行できる台車をベースとして、アルミフレームに必要な部品を付け加えることで新たなロボットを開発できる。
■スマートロボティクス 建設現場向け清掃ロボット「HRX スイーパーS HIPPO」
株式会社スマートロボティクスは、株式会社長谷工コーポレーションと共同開発した建設現場向け清掃ロボット「HRX スイーパーS HIPPO」を出展。型枠脱型のちの荒清掃、床仕上げ工事前の清掃、内装工事着手前の清掃などを行うための掃除ロボットだ。約70平米の住戸であれば1時間で90%自動清掃でき、省人化に寄与する。
清掃方式はブラシ掃き取り方式でフィルターレス。手入れが容易な仕様とした。サイズは63×39×103cm。重量はバッテリーなしで28kg。ハンドルもついていて、一人でも運べる。バッテリーはリチウムイオンで、四個まで搭載して、最大4時間連続清掃が可能。
目立つのは正面、側面、後面にびっしりと配置された超音波センサー。特に正面の数はすごい。これは「お客様」のものである住戸自体に絶対にぶつからないようにするため。LiDARではなく超音波センサーを使っている理由は粉塵対策だ。
2022年から実際のマンション建設現場で複数台のロボットを使った運用を検証しており、2024年中の実運用開始を目指す。さらにBIMデータとの連携なども視野に入れて開発を進めているとのこと。スマートロボティクスは他にも様々な移動ロボットの開発を手がけている。
■ロボットやデジタル技術を活用した建設業界のウェルビーイング実現に向けて
12月13日には「建設業のミライ展望 ~Well Being実現に向けた建設RXコンソーシアムの取組み~」というセミナーも行われた。テーマは「ロボットやデジタル技術の活用による建設業界のWell Beingを如何にして実現するか」。
「建設RXコンソーシアム」はロボットやIoT技術を使った建設業界の変革を目指す団体で、今では213社が加盟しているとのこと。施工の効率化を目標として、各分科会形式で技術開発が行われている。各社がバラバラに技術開発をするのではなく、共通する部分は協調領域として一緒に開発を進め、その使いこなしを競争領域としよう、というコンセプトで進められている。
セミナーの登壇者は、ファシリテーターが建設 RX コンソーシアム 顧問 清水建設 リサーチフェローの印藤正裕氏。パネラーは、建設 RX コンソーシアム 会長の竹中工務店 常務執行役員 村上 陸太氏、同 副会長 清水建設専務執行役員 山﨑 明氏、同 副会長 鹿島建設 常務執行役員 池上 隆三氏、そして、燈 代表取締役 CEO 野呂侑希氏、建ロボテック 代表取締役社長兼 CEO 眞部 達也氏、ホロラボ 代表取締役 CEO 中村 薫氏という面々だった。
議論の詳細な内容については省略するが、高度技能者の減少による施工品質の低下や片務性といった業界課題に始まり、逆に情熱を持った人たちによる業界そのものの魅力発信、意思決定・合意形成の高速化の重要性、アルゴリズムを使った施工計画最適化、建設ロボット開発のための新しい安全規則の必要性の話、自動化と達成感のトレードオフなどのほか、BIM/CIM連携にしろ他の技術の活用にしろ「もっと社会と接続すること」が重要であり、それによってメリットも、今後の社会への貢献可能性も広がるという話が印象的だった。
ロボットの見方 森山和道コラム
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!