アクセンチュアとMujinが合弁会社を設立 製造・物流の自動化と「デジタルツイン・エンタープライズ」連携とその先進事例を発表

アクセンチュアと株式会社Mujinは合弁会社、Accenture Alpha Automation株式会社(アクセンチュア・アルファ・オートメーション、AAA)を設立したことを2024年1月25日に発表した。両社はデジタルツインとAIを製造・物流現場でフル活用していく考えだ。Mujinの知能化ロボットプラットフォームとアクセンチュアのデジタルツイン・エンタープライズの概要を報道発表会で、2社のシステム連携によってどんなメリットが生まれるのか、先進的な具体例をロボスタ単独インタビューで聞いた。

株式会社Mujin CEO 兼 共同創業者 滝野 一征氏(左)とアクセンチュア株式会社 代表取締役社長 江川 昌史氏


次世代型工場・倉庫の自働化ソリューションを国内外に向けて展開するMujin

Mujinは、産業用ロボットの知能化ソリューションを手がける企業。


従業員は約350名、売上げはここ数年1.5倍のペースで伸びている。


最も特筆すべきは、知能化ロボットコントローラとそのプラットフォームを中心に、ロボットアームや自動搬送ロボット(AGV)をはじめとした次世代型工場・倉庫の自働化ソリューションを国内外に向けて展開していること。今ではロボットアームや自動搬送ロボットだけでなくスマート工場や物流倉庫の全般を対象にしてソリューションを提供している。


大手企業とのパートナー実績も着実に積み上げてきた。アスクル、日本郵便、イオン、ファーストリテイリング、日産、トヨタ、スターバックス、東邦ホールディングス、JD.com、カインズ、PALTAC、ファンケルなど(海外を含む)著名な企業との連携が紹介された


Mujinの滝野氏は「製造現場では多品種小ロットの生産に対応する必要が強まっている。多品種に対応するにはパレタイズなど自分で考えて動ける知能化ロボットが重要視されている。しかも、従来は異なるロボットはそれぞれ異なるソフトウェアが必要だったが、それを中央のMujinの制御ソフトウェアで統合的に管理していこう、というのが私達のコンセプトの一部です。完全なデジタルツインが実はもう実現され、サポートもリモートで全部できるようになっています。多品種の選別が必要な業界、物流業界では当社が90%のシェアを持っていると自負しています」と語った。

株式会社Mujinの滝野氏

合弁会社は、これまでMujinとアクセンチュアが蓄積してきた製造・物流現場のデータ、AGVやロボットアームに関する知見と、豊富な企業変革のノウハウや先進デジタル技術を駆使した全社基盤の実装に向けた高い専門性を組み合わせ、製造・物流領域における徹底した自動化・省人化ソリューションを創出する、としている。


知能化ロボットプラットフォームとエンタープライズ・デジタルツインの連携

アクセンチュアとMujinはこれまでも事業の連携を公表してきた。アクセンチュアの江川社長は冒頭で「私がMujinの滝野社長と初めてお会いしたのはおそらく7~8年前。滝野社長のビジネスコンセプトに感銘し、当社のデジタルツイン・エンタープライズを紹介し、アライアンスの関係で5年ほど協業してきました」と語った。

アクセンチュアの江川社長「Mujinのコンセプトは当社のエンタープライズ・デジタルツインの実現に通じる」

「デジタルツイン」はリアルな現場をデジタル空間でできるだけ忠実に再現した世界。代表的な活用例としては、実践前のAIによるシミュレーションで大きな意味を持ち、ライン変換時の効率化の試行錯誤やテスト、ロボットのトレーニング、効果的な人員配置など、工場や物流分野で重要なキーワードとなっている。また、コネクテッドファクトリーや、コネクテッドサプライチェーンにも繋がる重要な核となりうる技術でもある。

様々な企業が「デジタルツイン」に注目、導入を始めている

江川社長は「業務のほぼすべてがデジタル化しても、製造や物流などの現実世界は残ります。OT(Operational Technology)の世界は、我々が通常、業務でおこなっているITの世界とは若干違うため、OTに強みのあるプレイヤーと組んでいきたい、こうした流れがMujinさんとの合弁会社設立の背景にあります」と続けた。

こうしてインテリジェントオートメーション企業の製造・物流現場のオペレーションデータと経営データをつなぎ、製造・物流企業のデータ主導型経営と自動化・省人化を加速する合弁会社の設立に至った。


アクセンチュアは急成長を続けている

アクセンチュアは総合コンサルティング会社。大きな特長としてはコンサルティングだけではなく、自社で開発部門や研究部門を持ち、AIやIoTなど最新技術にも積極的に取り組んでいる。
江川社長は「売上はグローバルで約9兆円。社員数はグローバルで74万人。日本では社員数が約2.3万人、8年間で社員数は約4倍となり、10期連続で2桁成長を続け、売上は5~5.5倍程度の成長を遂げています」と語った。



ものづくり企業の方向性が変化

次にアクセンチュアの「R&D / エンジニアリング」のインダストリーX部門を担当する中藪氏が登壇した。
中藪氏は「デジタルツイン、リアルな世界とデータをつなぐというコンセプトにおいて、最大の障壁であり、チャレンジなのは “現実世界のデータを以下にリアルの物理的なものや人の動きのデータとして捉えていくかに大きな課題を感じています。私達の部門は、R&Dや設計開発の支援だけでなく、ものづくりの現場に実際に入って、工場のラインや建物そのものをデジタル化し、スマートファクトリーと呼ばれる次世代の工場の構想から実際の導入までをお手伝いしています」と説明した。

アクセンチュア株式会社の常務執行役員 インダストリーX本部 統括本部長 中藪 竜也氏

その上で「日本のものづくりは非常に評価が高かったが、年々その地位が低下していることは否めません。しかもご存じのように日本は大きな課題を抱えています。燃料費の高騰、トラックドライバー不足、エネルギーコストやオイル代の高騰。更にECの発展によって配送に対する要求が多様化しています。「インダストリーX」は、R&Dから製造・物流まで、大規模で幅広いDXサービスをエンド・ツー・エンドで提供しています。日本の製造業の生命線である、製造・物流領域のDXを、ロボット技術に限らず、データ基盤やノウハウを持っているMujinさんとの合弁会社を設立し、新会社を通して加速させたい」と続けた。





AAAが実現するデジタルツイン・エンタープライズが経営陣にもたらすアドバンテージ

発表会の最後にAAAの岩佐社長が登壇し「アクセンチュアが掲げてきたデジタルツイン・エンタープライズが製造と物流分野を中心に実現します。アクセンチュアの”AI HUB”プラットフォームと、MujinのOTやロボット制御プラットフォームの橋渡しをするのがAAAの役割」と語った。

アクセンチュア株式会社インダストリーX本部 マネジング・ディレクター 兼Accenture Alpha Automation 株式会社代表取締役社長 岩佐 知厚氏


ビジネススコープのレイヤーで言うと、経営レイヤーのレベル5(AI HUBプラットフォーム)、レベル4(基幹システム・ERP)、レベル3(運用管理システム MES、WMS)がアクセンチュアが担当し、Mujinは従来からの知見を持つ事業領域のレベル0(製造プロセス)、レベル1(センシング・制御)といったマテハン機器やセンサーの設計・実装など現場レイヤーを担当する。その中間レイヤーとなるレベル2の「プロセスの監視や制御指示」はAAAが経営と現場の接合領域を連携する業務を担うことになる。

Accenture Alpha Automationのオペレーティングモデルの全体像

具体的な業務例としてはこうだ。従来は「暗黙知」や「すり合わせ方式」によってカン・コツ頼みで業務が進行していて、それらのデータはブラックボックス化されやすい。一方、Mujinの知能化ロボットやプラットフォームは「超」自律・知能型のデジタル方式のためデータをアクセンチュアのAI HUBプラットフォーム等に共有し、分析、デジタル化による全社的な生産性向上が期待できるように変革していく構想を述べた。


これはリアルタイムのフィードバックも含んでいて、システムのアップデートや業務効率化が迅速に反映できるようになることも期待できる。また、AIと連携し、分析、推測を可能とするデジタルツイン・エンタープライズが実現し、グローバル企業では各国の経営者がシームレスに見える化、分析が可能となる。



工場・物流倉庫の自動化・デジタルツインの窓口はAAA

現場の自動化、知能化ロボットソリューションはMujin、そのデータを経営レベルに引き上げてAI等を活用して分析・解析して、経営の次の一手に活かしたり、製造計画に反映、サプライチェーンに活かすなどのデータ活用はアクセンチュアの「AI HUB」を含む「デジタルツイン・エンタープライズ」がおこなう(「AI HUB」は「デジタルツイン・エンタープライズ」に含むプラットフォームのひとつ)。Mujinのデータをアクセンチュアのプラットフォームと連携するのがAAAの役割で、ソフトウェア開発もおこなっていく。


Mujinとアクセンチュアのプラットフォームを繋いで実現する変革

ロボスタの単独インタビューにおいて、岩佐社長にMujinとアクセンチュアのプラットフォームを繋ぐ具体的なメリットを質問すると「例えば、従来であれば工場や倉庫のソリューションはMujinの「自動化プラットフォーム」で統合管理されていたが、そのデータをアクセンチュアの「デジタルツイン・エンタープライズ」と連携することで、「これから雨天が続く場合の販売や出荷への影響などをAIが推測し、それを工場の生産計画にフィードバックするなど、自動化や、高精度な予測、運用計画の幅が拡がることにも繋がる」と答えている。


店舗と工場をデータコネクトする先進事例も

また、同インタビュー内でユースケースとして具体的な例を聞くと「製造現場を例にすると、業務を製造や組み立てと、製品や部品を運ぶ搬送に、大きく2つに分けたとします。その場合、組み立てている物や部品がいつどこにあって、ラインのどこに流れていて、何が工場内のどこで搬送されているなどをリアルタイムに把握することができます。到着のタイミングに合わせて物を受け渡ししたり、ラインを稼働させたりすることも可能になります。また、何百台ものロボットが行き交う現場では群制御などを含めたオペレーション上のモニタリングがおこなわれ、今の状態に合わせてリアルタイムで物の流れや人やロボットの配置を最適化することも可能です。
店舗においては販売や在庫情報と連動させ、前述のように雨が降るだけで売上に影響するものも多いので、天気予測やSNSから降雨の情報や既に雨が止んでいる、だからこういう商品をどれだけ欲しいなどの情報を、アクセンチュアのプラットフォームがモニタリングしていて、それらの情報を製造や物流にフィードバックすることを企業によっては既におこなっています」と語った。

なお、AAAは事業の窓口にもなる。このソリューションに興味のある新規の企業や担当者はAAAに問合わせることで、相談、コンサルティング、Mujinやアクセンチュア本体との適宜連携などをAAAがハンドリングし、スムーズに提案を受けることができる。

会社名:Accenture Alpha Automation株式会社
所在地:東京都港区三田1-4-1住友不動産麻布十番ビル
事業開始日:2024年1月15日
主な業務:
 1. 製造・物流領域における自動化構想立案/コンサルティング
 2. 同領域におけるシステムインテグレーション
 3. 前各号に付帯関連する一切の事業
出資構成:アクセンチュア 70%、Mujin30%

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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