AIやIoT 最新ICTで挑む 医療現場の働き方改革とDX最前線 ゲティンゲがハイブリッド手術室や滅菌再生、病室・手術室運用システム導入事例を公開

医療現場のDXソリューションを提供するゲティンゲグループ・ジャパン株式会社は、2024年5月8日(水)に報道関係者を対象としたラウンドテーブルと施設見学ツアーを開催した。ゲティンゲは北欧スウェーデンの企業で、医療機器・システム開発・先進技術を含めたコンサルティングなど医療分野のDXをグローバル展開している。


会場は医療従事者がトレーニングで訪問する「ゲティンゲ エクスペリエンスセンター東京」。会場では同社における医療現場の働き方改革に対するDXの取り組みや、今後の展望、最先端のテクノロジーを搭載したハイブリッド手術室などの医療設備を公開した。

報道関係者に公開されたハイブリッド手術室


ゲティンゲは、ハイブリッド手術室でも豊富な導入実績を持つ。ハイブリッド手術室とは手術台とX線の撮影装置を組み合わせた手術室。従来は2回に分けて行っていた外科的手術と血管外治療を同時に1回で行うことができる特徴がある。


「ハイブリッド手術室」はグローバルで1,500件が導入されている。また、日本でも既に大学病院や地域の基幹病院を中心に 250件を超える施設で「ハイブリッド手術室」が導入されていて、その約90%でゲティンゲが選択されているという。

外科的手術と血管内治療との融合「ハイブリッド手術室」手術台+X線透視装置、は1,500件、世界68か国で導入されている


医師の働き方改革にDXソリューションで挑む

ラウンドテーブルではまず、同社の長澤社長が登壇し、2024年4月より医師の働き方改革が始まったことに伴い、特に外科領域では緊急対応も多く、長時間労働の傾向が強くなるという懸念や、医療従事者の人手不足など、医療現場についての課題をあげた。

ゲティンゲグループ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 長澤 悠子氏


ゲティンゲが特に注力する5つの領域

同社はそのような環境下で、医療従事者が治療やケアなど本質的な業務に専念できる環境づくりを目指し、手術周りのオペレーションをより安全で効率的にするためのDXソリューションを長期間にわたって提供してきた。特に、5つの領域「集中治療」「心臓血管手術」「手術室」「滅菌再生処理」「ライフサイエンス」に注力している。


「集中治療」や「心臓血管手術」関連としては、人工呼吸器や大動脈内バルーンポンプ関連などの機器で高いシェアを持っている。「手術室」では手術台や照明機器、手術室の遠隔監視システムなどを提供している。

ゲティンゲの提供する手術台と照明器具。手術台には長時間の低侵襲手術などにも最適な低反発マットを採用し、衝突防止のセンサー類を装備している。照明器具にはLEDを採用し、発熱と消費電力を抑える効果が期待できる

ここで言う手術台の遠隔監視は、カメラを使用するものではなく、使用状況の各種ログデータをポータル上で病院のスタッフや技術者とゲティンゲサービス担当者が共有するもの。エラー検知された場合に、遠隔でログ確認し、復旧作業に当たる。遠隔でのサービス提供でダウンタイムを可能な限り少なくすることで手術の実施件数の伸長に貢献するほか、手術室数の多い大規模な病院でも手術台の所在や使用状況の管理の煩雑さの軽減にもつながるという。

足の牽引機能を備えた手術台

補助循環用バルーンポンプ駆動装置「Cardiosave IABP Hybrid」

集中治療室(ICU)の展示

「滅菌再生処理」では手術等で使用した医療器具を滅菌再生処理する機器も高いシェアで展開している。

滅菌再生処理システム



そして「ライフサイエンス」は製薬企業の研究分野にソリューションを提供している。

見学ツアーでは、ヘルスケアセールス事業部長の大島克士氏による、ハイブリッド手術室や手術台、照明、周辺機器類、滅菌再生機器など、各製品の機能と特徴の説明がていねいに行われた。


医療現場が抱える3つの深刻な課題をDXで改善

長澤社長は、病院はより少ない資源で医療の質を維持するという厳しい課題に直面していて、医療現場におけるワークフローを改善し、手術室あたりの手術件数を増やすことを目指すDXソリューションを提供していく、とした。また、医療現場の慢性的な人手不足はグローバルで共通の課題となっていると続けた。



3つの課題に3つのソリューションを提案

「2024年4月より医師の働き方改革が始まり、年間1860時間の勤務時間上限が定められました。10年の猶予があるものの、医療機関は利益がなかなか確保できない中で、深刻な人手不足にあえぎ、一方で時間外労働も削っていかなきゃいけないということで、当社は3つのソリューションでその対策を提案していきたい」と説明した。

3つのソリューションとは、「利益確保の難しさ」に対して「収益の改善支援」、「慢性的な人手不足」に対しては「情報連携の支援」、「時間外労働の上限規制」に対しては「ワークフローの効率化」を提案した。

具体的には「収益の改善支援」に手術室の稼働率改善と、病床の稼働率改善をあげ、「情報連携の支援」には同社のデジタルソリューションを活用したリアルタイムな情報共有と、コミュニケーションコスト改善をあげ、「ワークフローの効率化」にはIoT機器の利用と、AIの活用をあげた。これらを踏まえて同社の多くの製品やサービスはコネクテッドになっていて、IoTやAIに対応したものになっているという。


入院から退院に至るワークフローの全体をDXでサポート

次に、磯部事業部長が登壇し、「ゲティンゲは入院から退院に至るワークフローの全体をサポートするための幅広い製品とソリューションを持っています。製品としては手術台や医療用照明器具などがありますが、それに加えて、病院の新棟建設や改築の際に、最も効率の良い導線を実現するための「ワークフローコンサルティング」、手術室内のレイアウト設計やプロジェクト管理のアドバイス、導入した医療機器をいつでも安全に使っていただくための保守保全サービス体制など、病院にとって信頼いただけるパートナーとなるべくソリューションを展開しています」と語った。

ゲティンゲグループ・ジャパン株式会社 ヘルスケアマーケティング事業部長 磯部 佐和子氏


前述したハイブリッド手術室などを例に、外科医、内科医、放射線科医、麻酔科医など、複数の診療科による高度な診療・医療を行うことで、手術時間の短縮や出血量の減少、入院期間の短縮など、患者への身体的負担が少ない治療を行うとともに、医療設備の効率的な運用も可能になるという。


医師の働き方改革に寄与するデジタルヘルスソリューション

同社のデジタルヘルスソリューションには4つの構成要素がある。それぞれ手術室を中心としたワークフローにより、医師とスタッフの負担軽減や業務効率化に貢献することで働き方改革に寄与する。


1つ目は患者フローマネジメントシステム「INSIGHT」(インサイト)。患者の入院から退院の流れを可視化し、新規患者の受け入れが可能かどうかリアルタイムに判断し、共有することができる。


2つ目が映像管理システム「Tegris」(テグリス)です。手術室の映像をリアルタイムでかつ高画質で記録し、安全管理や医療従事者の教育目的に活用することができる。
3 つ目は手術室マネジメントシステム「Torin」(トーリン)。AIが最適な手術スケジューリングを提案、手術室の稼働率とワークフローを高めることができる。


そして4つ目が滅菌管理システム「T-DOC」(ティードック)。手術室で使用する数百種類、数千点の医療器具の滅菌に関するデータを一元管理でき、いつどこでどの患者に使用されたかというトレーサビリティを提供する。


これらは単体で使用することもできるが、組み合わせて包括的なソリューションとして病院の業務改善に役立てることもできる。本年4月より始まった医師の働き方改革は医療DX を促進する大きなきっかけとなっている。また同時に病院が抱える課題はさらに難しさを増しているという。

「INSIGHT」と「Torin」をデモする磯部氏

磯部氏は「厚生労働省による令和4年度の病院報告によると、病院収益の最も重要な指標である病床の稼働率が、特に一般病棟において下がっているというデータがあります。2020年以降、病床の利用率は病院にとっての損益分岐点といわれる80%を下回ったままであることが示されています。「INSIGHT」は患者の入退院と行われる手術などの状況に応じて、ベッドの空き予定を一元的かつリアルタイムに管理し、ダッシュボードとして可視化することができます」と説明し、デモ画面を紹介しながらINSIGHTを解説した。





船橋整形外科病院の事例紹介

「INSIGHT」の導入により稼働率を上げることができたユースケースとして、船橋整形外科病院の事例を紹介した。船橋整形外科病院は千葉県船橋市にある106床の病院。導入前までは、病棟患者管理がホワイトボードでの運用、手書きで不正確、病棟同士での情報共有が困難、入院予約に時間がかかる(15分程度)電話連絡、平日夕診、土曜日の予約困難、Wブッキングのリスクがあった、個室が少なく病床稼働率が上がらない、いった課題を抱えていた。


「INSIGHT」導入後は、入院予約を可視化し管理が可能になった、リアルタイムに各病棟の入院予約状況を把握できるようになった、各クリニックと病院の電話連絡回数の削減、全病棟の空き状況が共有可能になった、ホワイトボード管理をシステム化、ベッドマップがリアルタイムに画面共有可能になった、病床稼働率が向上したなどの導入効果をあげた。


また、導入したクライアントの声として、船橋整形外科病院 看護部長 小形松子氏と、医療法人社団紺整会理事長 山浦一郎先生のコメントを紹介した。

看護部長 小形松子氏

運用をデジタル化することで、病床管理や入院管理が非常に効率よくできるようになりました。

山浦一郎先生

INSIGHT を導入したことで、医師や看護師、医療事務スタッフが入院手続きにかける時間や労力を削減することができました。入院率や稼働率が上がるので、病院全体にもメリットがあります。入院の予定を早く伝えることができるので、患者さんの満足度も上がっています。



また、「Torin」のユースケースとして導入中(2024年夏)の名古屋市立大学病院(800床)の事例も紹介した。

ゲティンゲのテクニカルスペシャリスト 豊島彰氏は「最近、経産省が提唱する“医療DX”は、20年前から北欧諸国で既に取り組まれています」と語り、「デンマークでは国営病院の8割が「INSIGHT」を導入し、経営健全化の効果が示されています」と続けた。

「DX」というワードは、スウェーデンのウメオにある公立のウメオ大学に端を発している


ロボスタからの質問と回答

編集部

今回、マスコミ向けのラウンドテーブルと見学ツアーが開催されましたが、このタイミングで開催した理由を教えてください。

ゲティンゲ(広報)

2024年4月より法規制が施行された「医師の働き方改革」により病院業務を効率化するソリューションへの期待が高まっています。そういったニーズの高まりを受けて、弊社も機器販売だけでなく、INSIGHTやTorinといった病院の課題解決に寄与するDXソリューションを提供可能であることを、皆様に積極的にご案内して行こうと考えたことが理由です。

編集部

手術室のIoTはどのようなセンサーを使ってどんな情報を収集・処理していますか

ゲティンゲ(広報)

当社の機器のオンライン接続は、機器のダウンタイムの最小化、院内での機器の資産管理、利用効率をあげるためのデータ分析等を主な目的として関連するデータを収集可能としています。例えば、滅菌供給部門で使用される洗浄器・滅菌器でしたら、仮に部門から病棟に移動して業務を行う場合でも、モバイルデバイス上で洗浄工程がどこまで進んでいるかなどを確認でき、スタッフが逐次部屋に戻って完了したかどうかをチェックする煩雑さを解消できます。手術で用いられる麻酔器では、データ分析を用いて、利用の仕方に応じた省エネレベルを確認するといった使い方も可能です。また、貸し出し中の麻酔器がその瞬間に使用中なのかどうか、または現在使える状態なのかなどを一括管理できるようになります。
手術台に関しては、IoT普及はまだこれからですが、初めてオンライン接続できるようになった手術台(海外発売中で国内では薬事未承認)をご覧いただきました。こちらについても同じ目的でアップタイムの向上、資産管理、使用ログ分析などを目的にコネクティビティをお役立ていただけます。

編集部

AIは手術室の運用管理のほかにも導入されていますか?あれば具体的に教えてください。

ゲティンゲ(広報)

AI技術を活用しているソリューションは手術室管理システムのTorin以外に、前の質問にあるような機器のオンライン接続を利用したメンテナンスサービスの提供があげられます。機器の稼働状況に関する様々な関連データを集め、これまで蓄積されているデータから故障が起こりやすい使用状況を学習し、故障を未然に防ぐため、実際にエラーが起きる前に予防的に警告(該当箇所の点検を促すメッセージなど)が発せられます。これにより、ダウンタイムが最小化されるというメリットが病院に提供できます。医療機器が故障で使えなくなると、手術がリスケジュールになったり、その結果手術室の稼働が下がり、収益を圧迫することになるため、アップタイムが増えるのは重視される価値です。

編集部

御社が提供するソリューションは具体的にいうとどのようなものがあるでしょうか。ハードウェア、ソフトウェア、基盤、コンサルティングなど。

ゲティンゲ(広報)

「命を救う医療技術をより多くの人に届ける」ミッションのために必要な様々なテクノロジーを提供しています。対価を頂戴するという意味においては、ハードウェアとソフトウェア販売、またその保守保全サービスが主たる領域です。
ただ、病院の心臓部にかかわる幅広い領域のハードウェア・ソフトウェアラインアップとなっていることから、病院の業務フローに関する知見を活かし、案件によってコンサルティング、建築設計からサポートさせていただくことがあります。

ABOUT THE AUTHOR / 

神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

PR

連載・コラム