AIがステージ4の肺がん症例データから予後の予測するモデルを構築 予測結果は患者の医療・ケアの方針決定の指標に

近畿大学医学部と和歌山県立医科大学を中心とする研究グループは、ステージ4の肺がん患者の症例データを収集し、日本人における肺がんの予後を高精度で予測するAIモデルを構築したことを発表した。
従来は難しかった正確な予後予測が、AIによって高精度に予測可能になれば、患者の医療・ケアの方針を決定する際の重要な指標となる。

研究グループは、近畿大学医学部 内科学教室(腫瘍内科部門)主任教授 林秀敏氏と、和歌山県立医科大学附属病院呼吸器内科・腫瘍内科講師 藤本大智氏らを中心とするもので、特定非営利活動法人西日本がん研究機構(WJOG、大阪府大阪市)のとりまとめにより、新医療リアルワールドデータ研究機構株式会社、株式会社NTTデータの支援を受けて実施した。


研究のポイント

1.電子カルテを活用して、ステージ4の肺がん患者の予後を精度高く予測可能なAIモデルを構築
2.全国16の医療機関において、ステージ4の肺がんと診断された6,751名の患者データを調査
3.電子カルテと連動したシステムであるCyber Oncologyを用いることで、医療者の労力を削減しつつ、質の高い医療情報を収集



ステージ4の肺がん患者の生存期間中央値は16.6カ月、3年生存率は約30%

研究グループは、全国16の医療機関において、電子カルテと連動したシステム「Cyber Oncology」導入し、6,751例のステージ4の肺がん患者の症例データを連続的に収集し、予後を検証するとともに予後予測AIモデルの開発について検討した。
その結果、日本の実地臨床におけるステージ4の肺がん患者の生存期間中央値は16.6カ月であり、3年生存率は約30%であることが示された。


AIが高精度に予測できることを確認

さらに、患者データをAIに学習させ、それをもとにテスト患者において予測精度を検証したところ、診断日から180日、360日、540日、720日、900日、1,080日の生存が可能かという予測において、どの期間においても約80%という高い精度で予測可能であることが示された。

また、AIにて患者の期間内における生存確率を予測させ、その予測された生存確率によって患者を4グループに分類したところ、AIの予測通り、予後が良好群、中間良好群、中間不良群、不良群の4つに大きく分かれることが示された(下図)。

この研究は、2024年2月22日(木)から24日(土)に開催された日本臨床腫瘍学会学術集会で発表し、研究の事務局である和歌山県立医科大学附属病院呼吸器内科・腫瘍内科の藤本大智講師が、優れた研究成果を発表した者に与えられる奨励賞に選出された。


研究の詳細

研究グループは、全国16の医療機関において、電子カルテデータ等のリアルワールドデータ(医療現場から得られる電子カルテデータ、検査データ、治療データ等の臨床情報)を標準化・構造化して管理・統合する入力支援システム「Cyber Oncology」を用いて抽出した情報からデータベースを構築した。
採血データ等の既に電子カルテ内で構造化されているデータについてはCyber Oncologyに自動連携し、転記等のプロセスで誤りが生じない収集状況を作った。さらに高品質な患者情報を収集するため、アブストラクタ(高品質なデータを収集するために施設に派遣され、目的とする臨床情報の項目を電子カルテからCyber Oncologyに転記して情報収集を行うプロセスを管理する者)が、定期的に医療機関を訪問し、必要なデータの入力を補助した。

入力されたデータは各医療機関のCyber Oncologyにおいて匿名化された上で、高セキュアなネットワークを通じてデータセンターへ送信され、特定非営利活動法人西日本がん研究機構へ提供された。
上記のプロセスにて、免疫チェックポイント阻害薬承認後の2016年から2020年までに各医療機関において診断された、6,751例のステージ4肺がん症例の国内最大規模データを連続的に収集し、予後の検証と予後予測AIモデル開発の検討を行なった。

その結果、日本の実地臨床におけるステージ4の肺がん患者の生存期間中央値は16.6カ月であり、3年生存率が約30%であることが示された。また、患者データをAIに学習させ、それをテスト患者において予測精度を検討したところ、診断日から180日、360日、540日、720日、900日、1,080日の生存が可能かという予測において、どの期間においても約80%という高い精度で予測可能であることが示された。


AIによる期間内の生存可能性によって患者を分類

また、AIによる期間内の生存可能性によって患者を分類したところ、AIの予測によって予後が大きく分かれることが示された。

現状、実地臨床においては、医師個人の経験や過去の臨床研究データから予後予測を行い、妥当性の高い医療・ケア方針を決定している状況。しかし、このAIモデルを実装することにより、再現性と信頼性の高い予後予測の情報を全ての医師が得ることができ、それを患者と共有することで、妥当性の高い医療・ケア方針を決定することができる可能性が示された。研究グループは「今後も本研究で示されたAIモデルの検討を続け、本データを用いたさらなる研究を行う予定です」とコメントしている。

(左図1)実際の患者死亡率とAIが予測する平均死亡率の関係性、(右図2)AIが予測する死亡率における全生存期間の分類(再掲)


難しかった正確な予後予測がAIによって高精度に

日本において、肺がんによる死亡者数は男女ともに部位別で最も多く、なおかつ予後が改善されない現状が続いているという。肺がんは進行度からステージ1~4に分類され、ステージ4の患者が多くを占める。肺がん患者の医療・ケア方針の決定には、医療者が妥当性の高いアプローチと目標を確立することが不可欠であり、患者や家族に対して適切で重要な情報を提供し、方針を共有することが重要とされる。

特に予後の予測は、方針決定において非常に重要な情報となりますが、同じステージ4の肺がんであっても患者によって臨床的背景が大きく異なり、使用できる薬物療法も異なるため、正確な予後予測は困難だという。

近年、患者個々の複雑な臨床的背景と予後をAIに学習させることによって、個人の予後を正確に予測するAIモデルの実装が検討されてきた。AIの正確な学習のためには、多数の患者情報を質高く収集する必要があり、近年のICTの進歩により、電子カルテから実地臨床情報を質高く収集するシステムが開発され、これを活用することで大規模なデータ収集が可能となった。




研究チームの詳細

研究代表者の近畿大学医学部内科学教室(腫瘍内科部門)の林秀敏教授は次のようにコメントしている。

林秀敏教授

新規治療の開発は臨床試験や治験によって行われますが、それらが実際の現場でどのような結果をもたらすか、臨床現場から得られた情報(リアルワールドデータ)を検討する研究の重要性が増してきています。しかし、臨床現場から得られる情報には正確性という意味で欠点があり、その欠点を克服する一つの方法として、本研究で用いた電子カルテから実地臨床情報を質高く収集するシステムであるCyber Oncology®が挙げられます。本研究は本邦最大級の進行肺がんにおけるリアルワールドデータを用いた研究であり、この研究で構築された特定非営利活動法人西日本がん研究機構内のデータベースを用いてさらなる科学的、臨床的な疑問を解決し、がん患者さんの健康に貢献することが今後期待されます。


研究者:
藤本大智1、林秀敏2、室谷健太3、戸井之裕4、横山俊秀5、加藤晃史6、山口哲平7、田中薫2、三浦理8、田宮基裕9、立原素子10、宿谷威仁11、土屋裕子12、佐藤悠城13、池田慧14、坂田晋也15、益田武16、竹本真之輔17、岡本勇18、山本信之1
所属:
1 和歌山県立医科大学附属病院 呼吸器内科・腫瘍内科、2 近畿大学医学部内科学教室(腫瘍内科部門)、3 久留米大学バイオ統計センター、4 仙台厚生病院 呼吸器内科、5 倉敷中央病院 呼吸器内科、6 神奈川県立がんセンター 呼吸器内科、7 愛知県がんセンター 呼吸器内科、8 新潟県立がんセンター新潟病院 内科、9 大阪国際がんセンター 呼吸器内科、10 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座・呼吸器内科学分野、11 順天堂大学医学部附属順天堂医院 呼吸器内科、12 北九州市立医療センター 呼吸器内科、13 神戸市立医療センター中央市民病院 呼吸器内科、14 神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科、15 熊本大学病院 呼吸器内科、16 広島大学病院 呼吸器内科、17 長崎大学病院呼吸器内科、18 九州大学病院 呼吸器科

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