【世界初】JR西日本の鉄道設備のメンテナンスに巨大な人型重機ロボット導入 人間による直感的な遠隔操作を実現
人機一体のロボット工学技術が搭載された初めての製品となる『多機能鉄道重機』が2024年7月よりJR西日本営業線での鉄道設備メンテナンスに導入される。
導入されるのは、JR西日本、日本信号および人機一体が共同研究開発した高所重作業ロボットのPoC試作機『零式人機 ver.2.0』をベースとしており、同試作機に使用している人機一体の特許技術等のライセンスをメーカーである日本信号に提供し、製品化されている。
本製品は、鉄道設備メンテナンスにおける高所重作業を解消し、生産性、安全性の向上を図ることを目的として西日本電気システムが運用。人機一体は、これを鉄道インフラメンテナンスにおける高所重作業の解消に向けた第一歩とし、さらに電力や土木等の他分野での応用に向けた研究開発を進めるとしている。
多機能鉄道重機 概要
1:構成
人型重機(ロボット) | 人に代わって重作業を行なう |
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ブーム | 人型重機の広範囲移動を担う |
操縦室 | 人型重機、ブームの操縦装置を装備 |
鉄道工事用車両 | 道路と線路の両方を走行可能 |
2:特徴
・人機一体独自のロボット工学技術により、直感的な操作が可能
・塗装や伐採など多様な作業に特化したツールの装備が可能
・遠隔操作で重量物(最大40kg)の把持、高所作業(12m)が可能
・VR ゴーグルを通してロボット目線での作業が可能
3:対象作業
当面は架線支持物の塗装、支障樹木伐採に使用。
(今後も JR 西日本にてツールの開発を継続し、対象作業を拡充される予定)
導入効果
1:生産性の向上: 高所作業の省人化を実現
2:安全性の向上: 高所作業の労働災害(墜落・感電)リスクを低減
3:多様な人材の就業環境の創出 : 性別や年齢によらず現場の高所作業に従事可能
開発の背景にある社会的課題
国土交通省が2021年10月に纏めた「最近の建設業を巡る状況について」の報告資料によると、インフラメンテナンスを含む建設業の就業者数は1997年の685万人をピークとして減少傾向にある。また、60歳以上の技能者が全体の25.7%であり、2031年までにはその大半が引退することが見込まれている一方で29歳以下の技能者は12%程度に留まっており、技術継承問題などが懸念されている。
このような状況下で若手技能者の確保・育成と同時に生産性の向上が喫緊の課題とされている。
多機能鉄道重機と零式人機 ver.2.0
1:開発の経緯
かねてよりJR西日本は、技能者の確保や生産性の向上に課題意識を持ち、JR西日本グループ中期経営計画2022の中で「システムのメンテナンスチェンジ」を掲げ、新しい技術の導入等に積極的に取り組んできた。そのなかで、人機一体のロボット工学技術に興味関心を持ち、高所重作業に汎用的に対応可能なロボットの実装について議論を重ねた結果、多機能鉄道重機としての開発を始めるに至った。
2:零式人機 ver.2.0をベースとして開発
多機能鉄道重機は、人機一体、JR 西日本、日本信号により共同研究開発された、社会実装コンセプトとしての PoC 試作機『零式人機 ver.2.0』をベースとして開発・製造されており、「力制御・トルク制御技術」「パワー増幅バイラテラル制御技術」などの人機一体独自の先端ロボット工学技術が搭載されている。
零式人機 ver.2.0同様に、ブーム先端に人型重機が搭載されており、人は安全な場所に設置された操縦席から人型重機を遠隔操作することで、人が危険な高所に登ることなく高所重作業を行なうことが可能となる。
3:JR西日本 草津訓練線での実証試験・実用試験を実施
零式人機 ver.2.0 は、滋賀県草津市内にあるJR西日本の草津訓練線などでの実証試験を複数回に亘って実施しており、多様な作業を汎用的に行なえることを実証してきた。そして、製品版としての多機能鉄道重機も同様に、草津訓練線等での実用試験を実施し、人機一体の本拠地である滋賀県草津市からスタートを切ることとなる。
4:福島県・南相馬市との共同成果としての零式人機 ver.2.0
零式人機 ver.2.0は、福島イノベーション・コースト構想に基づく福島県の地域復興実用化開発等促進事業費補助金(2019-2021年度)、および南相馬市の基盤技術産業高度化支援事業補助金(2021年度)により開発を行ない、福島ロボットテストフィールドで実証試験を実施してきた。人機一体は南相馬市と連携協定を締結しており、「南相馬ロボット振興ビジョン」の下、零式人機 ver.2.0の前モデルである「零式人機 ver.1.3」を福島ロボットテストフィールドへ常設展示をするなど、連携を強化している。
今後の展望
1:多機能鉄道重機の鉄道分野以外のメンテナンス作業への展開
多機能鉄道重機は、2024年7月以降にJR西日本営業線の鉄道設備メンテナンスにおいて導入され、架線支持物の塗装、支障樹木の伐採などの多様な作業にて活用される。その後は、鉄道分野に限らず他分野の高所重作業の機械化に向けての展開を目指す。
2:他分野における高所重作業の機械化への取組
人機一体は高所重作業の機械化に対する取組として、土木分野では株式会社竹中土木、電力分野では東北電力ネットワーク株式会社との共同研究開発を進めており、順次実証試験を予定している。