Eコマース市場の拡大に伴い、物流市場も成長し続けている。
矢野経済研究所は「2022年版 物流ロボティクス市場の現状と将来展望」で日本国内の物流ロボットの市場はCAGR 25.6%で成長し、2025年に約600億円に達すると予想している(CAGR: 年平均成長率)。一方で減少し続ける生産年齢人口や上がり続ける人件費に対応するために、生産性向上による省人化対策は急務となっている。また物流倉庫内では、通路や棚上の空間ロスにより多くの倉庫で保管容積を十分に有効利用できていないという課題もあり、多くの物流倉庫では人手の活用にも限界もある。
そこで注目されているのが「自動倉庫」だ。
入庫、保管、出荷の業務を一元管理できるだけでなく、高さ方向や通路幅も活用できるようになることから、倉庫容積を最大限活用することが可能であり、グローバルインフォメーションは、自動倉庫システム(ASRS)の市場規模は、2023年に 87億米ドル、年平均成長率は7.9%で、2028年には127億米ドルに達すると予測している。
ラピュタロボティクスの自在型自動倉庫「ラピュタ ASRS」
ラピュタロボティクスは物流ロボット分野として注目されているスタートアップの一つ。独自のクラウドロボティクスプラットフォーム「rapyuta.io」の開発とロボットソリューションの開発、導入、運用支援を行っており、同社の強みは、多数のロボットの動きを効率良く制御する「群制御」テクノロジである。
ラピュタロボティクスは 2023年8月から自在型自動倉庫「ラピュタASRS」を発売。アンカーレスで施工可能、そして形を顧客の要望に合わせて設計可能な柔軟性を持つ自動倉庫である。
「ラピュタASRS」には三井化学と共同で開発した樹脂製フレームが使われており、アンカー工事は不要で、自由にレイアウトが行えるブロック構造となっているため、導入後の規模の拡大・縮小や、事業成長に応じた移設等を最小限のコストで行える。また、変わった倉庫形状への対応や、防火扉をまたぐような設置も容易となっている。
小型薄型のロボットが自動倉庫内を走行して荷物を運ぶ
「ラピュタASRS」は4つの部品から構成されている。
樹脂製フレームで構成された荷物を収納するためのマルチフロア、4つの足を持つ「ビン」と呼ばれる専用コンテナ、そして「ビン」の下に入り込んでリフトアップし荷物を運んで倉庫内を走行する小型薄型のロボット、ロボットのフロア間上下移動を可能にするエレベーターである。
厚さ80mmの小型ロボットも独自開発されたもので車輪は「メカナムホイール」と呼ばれる特殊な車輪となっている。この車輪は旋回せずに任意の方向に移動可能であり、旋回時間の必要がない。フロア上には白線が引かれており、ロボットはこれを目印として走行する。
NVIDIA Jetson Orin Nanoシステムオンモジュールは、AIによるカメラデータの処理を実現し、自律型ロボットのナビゲーションを可能に
このロボットには前後左右にカメラが搭載されており、フロアの床にはビンの足がぴったり噛み合うようにくぼみが設けられている。通常はこのくぼみに足がハマることで位置ずれなどが発生しないようになっているが、まれにズレてしまうこともある。そこでロボットは、カメラを使ってビンの向き、姿勢や周囲の障害物を認識して、ぶつからないように走行している。
NVIDIA TensorRTで推論を高速実行
認識AIはラピュタロボティクスが独自開発したもので、GPU上での推論処理を高速化するためのライブラリである NVIDIA TensorRTを使って実行している。ディープニューラルネットワークの学習済みモデルを実行する上で、実際に実行するGPUの種類に合わせてモデルを最適なかたちへと自動変換する。ユーザーは詳細を考えることなく、推論時間を大幅に短縮することができる。
なお、認識AIの学習のためにはNVIDIA RTX 5000 Ada世代GPUを使用している。
ピッキングステーションはAIで労働者の生産性を支援
「ラピュタ ASRS」の入庫、出庫作業は「ステーション」と呼ばれる定点で行われる。ロボットがビンを運ぶため作業者はほとんど歩く必要がない。作業者の周りで最大7つの保管/出荷用ビンを独立して制御できる。複数のロボットを待機させることで、作業者のピック待ち時間をゼロにできる。
ピッキングや投入には大画面モニタやプロジェクタを使った誘導が行われる。プロジェクタから光が投影されるので、その光に従って作業すればトレーニングを積んでいない作業者でもすぐに作業に取りかかることができる。
また、作業者の安全を確保するためにも NVIDIAのアクセラレーテッドコンピューティングが用いられており、ステレオカメラとNVIDIAのオープンソース「trt_pose」リポジトリに基づく姿勢推定AIモデルを搭載したNVIDIA Jetson Orin NXを使用して、自動倉庫内でのロボットによる搬送が安全かつ正しく行われているかどうかをチェックする。
演算性能には余裕が必要
ラピュタロボティクスが「ラピュタ ASRS」のロボットへNVIDIA Jetsonを搭載し、強力なNVIDIA IsaacロボットプラットフォームなどのNVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングの採用を決めた理由は、エッジにおけるより多くのAI処理の必要性があるからだ。
顧客は常に「より高性能」を求めている。自動倉庫は発展途上の技術でありさらなる高速化が可能。ただしロボット、そして自動倉庫システム全体の性能を今後も継続して向上させていくためには、演算性能にも余裕が必要である。追加開発するにしても、演算性能に余裕がなければ最初から作り直す必要があるからだ。今後のことも考えて、ラピュタロボティクスではNVIDIA Jetsonの活用を選択した。
デジタルツインで一気通貫の効率化を目指す
では今後はどうなるのか?
物流倉庫の自動化を進める上で、本当に重要なことは部分最適ではなく「全体最適」であり、そのためには様々なマテハン機器や作業者の動きを一気通貫で扱う必要がある。
ラピュタロボティクスでは自動倉庫の「ラピュタASRS」、人と協働する自律移動ロボット「PA-AMR」のほか、自動フォークリフト「ラピュタAFL」の開発を行っている。マーカーなどを壁や床に貼ることなく、柔軟な移動・搬送が可能な自動フォークリフトです。すでに国内の倉庫4件で使われている。
真に効率化を進めていくのであれば一部分の自動化だけではなく、これら全体を一つのシステムで扱って連携させることが重要だ。倉庫のトラックバースからの荷下ろし、荷下ろしから仮置き場への移送、そして倉庫への入庫、出庫といった一連の流れ全体を最適化し、効率化するのである。
開発者がUniversal Scene Description(OpenUSD)を容易に統合するためのアプリケーションプログラミングインタフェース、ソフトウェア開発キット、およびサービスを含むプラットフォームであるOmniverseとAI対応ロボットを構築、テストするためのリファレンスロボットシミュレーションプラットフォームであるNVIDIA Isaac Simは、実際にロボットシステムを構築する前にシミュレーションを行う効果的な方法を提供し、実機が稼働した後も改善サイクルを継続しやすくし、また、関係者間で共通認識を持って改善に挑んでいくこともできる。
また、NVIDIA Omniverseを利用することで、顧客訪問時のプレゼンテーションに利用でき、フォトリアルで物理的に正確な仮想環境を作成することもできる。Omniverseを使用することで、自動倉庫と作業プロセスの非常に詳細なバーチャル表現を作成することができ、顧客が自動倉庫がどのように見えるかについて、明確で一貫したイメージを形成するのに役立つ。
今後もラピュタロボティクスはNVIDIAのアクセラレーテッドコンピューティングをソリューションに活用し、さらなる物流効率化に挑んでいくとしている。
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