「フードテックWeek」が2024年11月20日~22日の日程で、幕張メッセにて開催された。初日の20日には、「未来型食品工場コンソーシアムが目指す、持続可能な食インフラの構築」というパネルディスカッションが開催された。
キユーピー、カゴメ、永谷園、ニチレイ、日清製粉といった日本を代表する食品産業各社と、「ロボスタ」でもたびたび取り上げられている調理ロボット・スタートアップのTechMagicを事務局として「未来型食品工場コンソーシアム」が設立されたのは2024年7月である。パネルディスカッションでは短時間ながら、食品業界を代表する5社の生産技術関係者による生産性向上に向けた取組や、コンソーシアムの目指す目標が紹介された。レポートする。
■協調・連携による共創、AIやロボティクスを活用して個別最適化生産を行う「第4次産業革命」の時代
■惣菜盛り付け、蓋かけなどキユーピーの自動化
■自動選別機を導入したカゴメ
■IoTを活用して改善ターゲットを速やかに発見 永谷園
■冷凍チャーハンの焦げもロボットで除去 ニチレイ
■全ての生産工場の稼働状況を同じプラットフォームで 日清製粉
■調理業務の工程をモジュール単位で自動化 TechMagic
■未来型食品工場は「クリエイティブ×オートメーション」
■まずは秤量作業の自動化から
■TechMagicは2025年1月にアメリカ法人を設立、未来から逆算して事業開発
■協調・連携による共創、AIやロボティクスを活用して個別最適化生産を行う「第4次産業革命」の時代
はじめに司会のTechMagic白木氏は「今は第4次産業革命の時代だ」と述べた。技術革新の速度が速まっただけではなく、レイヤーを超えた協調や連携の流れが生まれており、生産の自律化、最適化、そしてサービスの個別最適化により、食産業も生産の柔軟な最適化が求められている。
さらにAIの進化も進んでいる。技術受け入れに消極的な企業もまだ多いが、白木氏は「2008年頃にスマホに消極的な人がいたように、AIに消極的に人もいる。いかに事業にAIを組み込んで、より付加価値の高いサービスの事業にしていくかが求められている」と述べた。そして「未来型食品工場コンソーシアムでの未来への共創の思いがAI、ロボットとの共存社会を作ると信じている」と続け、登壇各社の取り組みの紹介に移った。
■惣菜盛り付け、蓋かけなどキユーピーの自動化
まずはじめに、キユーピー(株)取締役 常務執行役員 SCM担当の渡邊龍太氏が同社の取り組みを紹介した。キユーピーは家庭用マヨネーズドレッシングで誰もが知っている会社だが、同じ規模で業務油の調味料事業や卵の商材加工も手がけている。デジタル技術によって商品立ち上げから生産現場の品質保証までを最適化し、より複雑化する事業環境や労働力不足の中でも品質と生産性を高め、持続的に成長できる生産体制を構築し、持続可能な未来型食品工場を志向している。
渡邊氏は同社の取り組みについて「スマートファクトリー構想を掲げており、デジタルの力を使って自動化できるものは自動化することで業務をシンプルにしていく。データをフル活用して仕事や情報の流れをスムーズにしていく。働いている方がより働きやすくなり、満足度を高めていきたい。サプライチェーン全体を持続可能なものにしていきたい」と述べ、フロントローディング、生産の最適化・自動化、品質保証などのステージそれぞれに取り組んでいると紹介した。
食品工場では原料工程から始まり、中身を作ったり重点したり、最終製品として搬送したするといった過程がある。渡邊氏は「技術が進化しており、自社技術だけでではできることが限られている。思っているところに届かない。そこで外部のサプライヤーの力をお借りして一つ一つ自動化を実現している」と述べ、惣菜盛り付けや、容器への蓋かけ、パレタイズなどいくつかの自動化ソリューションを紹介した。パレタイズに関しては従来はセッティングに二日くらいかかっていたのが1時間弱程度でできるようになったという。
■自動選別機を導入したカゴメ
続いて、カゴメ(株)取締役執行役員 生産調達本部長 葉色義久氏が同社の取り組みを紹介した。カゴメは国内売り上げが7割、海外が3割で、家庭用から業務用まで幅広くトマトあるいは加工品を提供している。トマトジュースは2024年で発売91年目を迎えているが、まだまだ売り上げは増えているという。
もともとは創業者がトマトの売れ残りを潰してトマトピューレにして販売することから始まったカゴメは、トマトペーストそのほかの一次加工品のほか、ピザソースのような二次加工品も販売している。海外でも事業展開を行なっており、2024年は円安もあって海外事業が売り上げ・利益ともに半分を占めている。また日本の野菜不足解消を掲げて業界を超えた取り組みや健康増進を進める活動も行なっているという。
食品工場においては共通課題である安全、品質、環境、働きやすさや人材育成などにおいてコンソーシアムで取り組みたいと考えており、ダイストマトから茎など余分なものを自動選別して除外するシステムなどを開発していると紹介した。またタブレットを使って次に何をするか示してくれる「作業ナビ」などを従業員のITスキルを高めるための取り組みとして実施していると語った。コンソーシアムについては、自社だけでは解決できない課題を業界で解決していきたいと考えて参画しているという。
■IoTを活用して改善ターゲットを速やかに発見 永谷園
(株)永谷園 取締役 生産本部長の相澤直史氏は、「永谷園グループは他社に真似できない様々な製品を出し続けている」と述べた。同社の「お茶漬け海苔」は発売から70年を超えており、SDGsへの取り組みや食物アレルギー配慮商品、災害備蓄用フリーズドライ商品、環境に配慮したバイオマス活用包装資材の採用を紹介したあと、IoTに関する取り組みについて語った。
従来は拠点単独で情報管理しており、手作業で実績を記録してデータ分析をしていたが、今はIoTを使って情報集約を行い、生産進捗のリアルタイム監視、稼働データの集約と可視化を行って、データを比較・活用している。具体的にはトレーサビリティの向上、トラブル対応や分析改善サイクルの迅速化などを進めている。
お茶漬けのりの小袋はピロー包装後、 化粧箱に入れて、さらにダンボールに入れて出荷される。この工程のどこでいつどのくらい停止したか、不良品の記録、ロス発生などを可視化する。そして改善ターゲットの発見に役立てていく。
たとえば同じ商品を複数の工場・複数ラインで作っているものを並べて比較することで改善ポイントを見出す。データ入力の手間がないので、意思決定から実際の改善サイクルを迅速化することができ、ターゲットを絞った改善により生産ロス削減ができる。また、複数拠点の設備から直接取得したデータを比較するので、新たな視点で改善ターゲットが発見できるという。
■冷凍チャーハンの焦げもロボットで除去 ニチレイ
ニチレイグループのなかで加工食品事業を担っている(株)ニチレイフーズ 生産統括部 執行役員 生産統括部生産戦略部長の本多政彦氏は、冷凍チャーハンそのほかお馴染みの商品を紹介し、2023年度に稼働を始めた同社の新工場を紹介した。現場では、もともと紙の帳票が多かったため、まずそれをデジタル化してペーパーレス化。各生産設備に独自のセンサーをつけることで情報を取得し、一元管理できるようにした。今までは機械の正常と停止、つまり青信号と 赤しかわからなかったが、その間に黄色信号、すなわち、閾値を超えてトラブルになりそうだといった情報を発見できるようにした。それらをさらにAIやロボットにフィードバックする取り組みを進めているという。カメラを使って巡回頻度をや精度をあげる試みも続けている。
それらのデータはコックピットに集約し、人ならびにデジタル機器のコミュニケーション頻度をあげることで、生産性をあげたり、トラブル防止、フードロスを最小限にするといった試みを続けているという。
本多氏は具体的な取り組みの一つとして、チャーハンの生産ラインにおいて、発生する焦げを発見して取り除くために、AIとロボットを使っている例を紹介した。従来は人手で行われていたものだ。開発初期においては焦げと判断されていたものが全てチャーシューだったといったトラブルも発生していたが「一年がかりで実用へと仕上げた」という。同時に別のAIを使って、卵とチャーシューの割合もチェックすることができる。
■全ての生産工場の稼働状況を同じプラットフォームで 日清製粉
(株)日清製粉グループ本社 取締役常務執行役員 技術本部長の髙誠一郎氏は「健康で豊かな生活づくりに貢献する」という創業104年を迎える同社の社是を紹介。食のインフラを担うグローバル展開企業を目指して海外展開も行なっている。同社の半分以上は製粉事業。その小麦粉を使ってパスタその他食品製造も手がけている。
髙氏は食品産業の工程を装置産業型と労働集約型の軸で大きく分類した。小麦の製粉は装置産業で、自動化が進んでいる。もっとも機械化が進んでいる分野といってもいい。いっぽう一番大変なのが中食・惣菜製造で、こちらではパスタやサンドイッチ、おにぎりなどを今でも多くの人手で作業が行われている。ここに力点を置いて、今後自動化を進めていきたいと考えていると述べた。
続いて、岡山県・倉敷市に建設中の水島工場を紹介した。日産能力550tの工場で、2025年5月稼働予定となっている。最新デジタル技術を導入した環境配慮型スマート工場で、ローコストオペレーションやBCP対策強化も含めて、原料受け入れ、製粉、包装、そして自動倉庫に搬入するまでの一連の作業を全て自動で24時間稼働で行う計画だ。
各設備にはIoTを導入。主要設備にはセンサーを導入し、温度や振動などを監視することで、トラブルがあった場合は遠隔でもタブレットを使って稼働状況をチェックできるようにする。ま同社の工場は国内に9工場あるが、これができたら2工場を閉鎖して8工場になる予定だ。全ての工場の稼働・西安状況が、同じプラットフォームのなかで見えるようになるという。またこの工場は2ラインあるが、最終的には1名でラインを操作することを目指すという。
■調理業務の工程をモジュール単位で自動化 TechMagic
最後に司会でコンソーシアム事務局を務める、TechMagic(株)代表取締役社長の白木裕士氏が同社事業を紹介した。同社は「テクノロジーによる持続可能な食インフラ社会を実現する」ことをビジョンとして2018年に創業したスタートアップ。飲食店向けの調理ロボット事業と、食品工場向けの業務ロボット事業を手がけている。累計調達額は2024年3月時点で44億円。
調理業務の工程をモジュール単位で自動化して、そのハードウェアやAIを組み合わせて、全体の自動化を目指している。たとえば「炒め」や「茹で」、あるいは計量といった作業をモジュール化してうまく組み合わせることで、それぞれの工程に対応できるロボット開発を行なっている。
白木氏は炒めロボット「I-Robo2」を紹介した。登録レシピがタッチパネルに表示されるので、その操作どおりに作業すれば誰でも調理ができる。調理温度や時間、IHフライパンの回転速度などは全て最適化されており、熟練の技を再現できるという。洗浄も自動化されている。炒めロボットは12%の利益率改善が見られるという。
なお、「I-Robo2」が実際に使われている様子は、「大阪王将、炒め調理ロボット「I-Robo2」導入の新モデル店をオープン 自動床洗浄も活用して厨房労働環境改善へ」などを参照してほしい。
このようなロボットのレシピのプログラミングは通常ならばエンジニアが行う必要があり、そのままレシピを増やすとエンジニアの工数が増えてしまう。そこでTechMagicでは、アナログなレシピを作るかのように必要な分量そのほかを入力するだけで、そのレシピのとおりに機械を動作させるためのプログラムを自動的に生成できるインターフェースを開発している。これにより、誰でもレシピが作れる機械だという。
■未来型食品工場は「クリエイティブ×オートメーション」
以上の食品産業5社とTechMagicで2024年7月に結成されたのが「未来型食品工場コンソーシアム」だ。食産業の使命は安心、健康、おいしい食品を持続的に届けることだが、人手不足が深刻化しており、人件費と原価は高騰している。
いっぽう従来の技術開発は各社内でクローズドに行われていた。だが非競走領域であれば、一緒に手を取りながら未来の食産業のあり方を目指すことも可能ではないかというところで、このコンソーシアムも立ち上げたとTechMagic白木氏は語った。
白木氏はコンソーシアムの方向性については、経営における「3C分析(Customer(市場・顧客、Competitor(競合)、Company(自社))」で紹介した。最初の「カスタマー」については各社の強みを生かした顧客への持続的かつ最適商品を実現する提供価値は変わらないし、「コンペティター」については競争相手は食品産業の中ではなく他産業であり、そことの労働力の奪い合いになることから、他の産業よりも魅力的にしたいと語った。そして「カンパニー」については引き続き労働生産性を上げていきたいと考えているという。
そして「未来型食品工場はクリエイティブ×オートメーション」だと述べた。技術を活用して攻めの工場経営を推進し、かつ、製造工程の自動化やサプライチェーンの生産性向上を目指しながら、今までにない自動化ソリューションを一緒につくっていこうとしているという。
■まずは秤量作業の自動化から
具体的に「非競争領域」とは何かというと、重量物を扱う作業や心理的負担の重い作業、また材料を秤量する計量作業の自動化などとのこと。各社からは非競争領域で共同開発ができれば、開発速度の向上とコスト抑制が可能になるので、実現性が高いのではないかという期待の声が上がった。
コンソーシアムでは趣旨に賛同する人たちの新たな参加も求めているとのことだ。
■TechMagicは2025年1月にアメリカ法人を設立、未来から逆算して事業開発
シンポジウム終了後、TechMagics白木氏に今後の事業開発について簡単に話を伺った。今後については「引き続き各調理工程の自動モジュール化をどんどん進める。モジュール化を進めることでより汎用的な装置ができ、より幅広い顧客に導入してもらえるようになる」とのことだった。
海外展開については、2025年1月にアメリカ法人を立ち上げ、製品を発売する予定だ。「海外のほうが人件費が高い。導入インパクトはより大きい。すでにテスト導入も始めている。2025年1月からはしっかりと導入を進めていく」。
食品工場向けロボットについても、まずはキユーピーと進めている盛り付けから、どんどん進めていきたいと考えているという。
さらに先の話としては「TechMagicとしては引き続き食産業をリードする代表的な企業の経営層とコミュニケーションを取っていきたい。今後、5年、10年経つと、ロボットやAIは大きく進化する。自動化コストが下がるなかで、将来どういうオペレーションを構築していくべきかというところから逆算して技術開発を進めていきたい。そして各業界での成功事例を作っていきたい」と白木氏は語った。
人手不足が進むなか、生産性が低いことから技術開発が進みにくいのが食産業の特徴でもある。だからこそ逆に「できることはたくさんある」という。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!