東亜DKKが狭山拠点にAutoStoreを導入。掘り下げで段数を稼ぎ、出荷荷待ち時間も短縮。多品種の部品管理を効率的に
高密度保管を実現するロボット自動倉庫で知られるAutoStore(日本法人:AutoStore System株式会社)は、2024年12月17日、AutoStoreを導入している総合計測機器メーカー・東亜ディーケーケー株式会社 埼玉事業所で、事業所見学会を開催した。
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東亜ディーケーケーは、水・大気・医療・ガスの総合計測機器メーカー。多分野にわたる市場に対して求められる製品を提供するため、幅広いラインナップで約700種の製品を取り扱っている。取扱い製品の多さから、様々なニーズにフレキシブルに対応するメーカーとして評価されているという。
東亜ディーケーケーに導入されたAutoStoreは6740ビン(専用コンテナ)、ロボット数は8台。ロボットの種類は「R5」。入出庫兼用のポートは「カルーセルポート」タイプで、4箇所に設置されている。作業用のスペースが左右に欲しいと言った理由からカルーセルポートを選んだという。入出庫能力は2ポート使用時で1時間あたり154ビン。
特徴はビン数に対してロボット数が少ないことと、ロボットが走り回る上端は平面だが下は一部分が5段分(1.6m)掘り下げられており、最大13段(4.6m)となっている点。新築であるからできたという。主に扱っているのは分析器や校正器などの製品やメンテナンス用パーツ。4000くらいの多品種が収まっている。
■スケーラブルで柔軟性が高く、投資対効果を出しやすいAutoStore
AutoStore System マネージングディレクター 安高真之氏は「AutoStoreの特徴は高密度であることだけではなく、柔軟性が高いことだ」と語った。AutoStoreはEコマース中心に導入されているが、国内の40%は製造業、グローバルでも3割は製造業企業に導入されている。製造業はいま流動化するニーズに応えるために多品種少量化が進んでおり、どんどん増え続ける在庫に苦労している。そのなかでオートストア活用が注目されているという。
AutoStoreのシステム数は現在1600。ロボット数は7万2500台以上となっている。いっぽう売り上げはフラットになりつつある。コロナ後の長期投資が一巡しており、経済環境面では厳しくなっているという。だが引き続きマーケット自体は拡大していくと考えている。
日本市場ではシステム総数73、導入ロボット数は 2,342台となっている。製造業の設備投資は回復基調にあり、AutoStoreに代表されるようなバケット用自動倉庫の売り上げは前年度同期比で5.3%増と伸びている。この背景には3大都市圏の時給が伸びていることと人手不足傾向が自動化を促しているという側面がある。
自動倉庫を手がけるプレイヤーも増え、顧客にとっても選択肢が増えている。ではその中でAutoStoreはどのように差別化を図るのか。 重要な点は自動倉庫を入れた結果の費用対効果であり、その実現だ。安高氏は「コンサルティング能力の高いインテグレーターの需要が高まっている」と語った。
また今後、冷凍ソリューション向けのAutoStoreも発表予定があり、新市場も開拓する。そしてAutoStoreの売りは高密度と柔軟性、特に柔軟性が重要だと再び強調した。製造業向けには8000ビン程度の小型サイズのAutoStoreが導入されることが多いという。大規模なシステムから小さなものまで同じシステムで動いている点がAutoStoreの特徴だ。
■環境連続計測で日常インフラを支える東亜ディーケーケー
2024年6月に完成した狭山インテグレーションセンターにAutoStoreを導入した東亜ディーケーケーは東亜電波工業と電気化学計器が2000年に合併し、誕生した会社。常務取締役 生産本部長の中島信寿氏は、同社の概要を「水・大気・医療・ガス分野の計測機器メーカーだ」と解説した。
同社の計測機器は一般人が目にすることは少ないが、各種工場の排水常時監視のほか、発電所、医療関連施設や下水処理場など、公共インフラの場で幅広く使われているという。連続監視のなかで異常が起きた場合は手計測を再び行うことがあるが、それらのハンディ機器も提供している。
営業拠点は10箇所。pH計やOM2.5測定装置では国内トップシェアを持つ。透析治療向けの透析用粉末溶剤溶解装置、分析計も半分以上は同社製品が用いられているという。
強みは創立以来培われてきたコア技術と、幅広い環境への対応。公的機関や官公庁でも幅広く使われている。開発から生産、出荷、サービスまで同社で行っている。海外市場への展開も視野に入れており、中国、インドや台湾にも進出している。
脱炭素・グリーン市場にも進出している。一つのセンサーを一つのプラントに入れるのではなく、たとえば水質監視システムであれば複数のセンサー情報をまとめて分析する必要があるので、それらをまとめるインテグレーションまで行って、システムとして同社から提供している。
また、デジタル化にも対応している。IoT遠隔監視やリモートメンテナンスが可能な装置を提供することで今後の市場に対応する。
狭山インテグレーションセンターは東大和にあった拠点を移転した物流の拠点で、生産も行っている。よりシステムインテグレーションを進めた製品を開発・生産する。なお同センターは、太陽光発電による「創エネ」と、地中熱利用空調などによる「省エネ」を組み合わせることで、基準一次エネルギーの消費量に対してエネルギー削減率100%を実現し、ZEB認証の最上位となる「ZEB」認証およびBELSの最高評価である5スターを取得している。
■AutoStoreの国内ナンバー1パートナー、オカムラ
今回、インテグレーション、設計・施工を行ったのはオカムラ。オカムラはオフィス環境事業、商環境事業、そして物流システム事業を手掛けている企業だ。働き方の変化により事務所の改装が盛んでオフィス環境事業も好調であり、商環境事業においてはドラッグストア事業が増えているという。物流システム事業については、オカムラ 物流システム営業部長の近藤慎一氏は「トータルソリューションを提供している」と紹介した。
AutoStoreは直販をしていないので、どこかの代理店を経由することになる。オカムラは2014年からAutoStoreのパートナーとなっており、2016年にはニトリに導入。オカムラの近藤氏は「現在60以上の注文をもらい、50以上のシステムが動いている。国内9割のAutoStoreがオカムラから導入されている」と現状を紹介した。
■費用対効果は高いAutoStore
AutoStore導入のメリットについて東亜ディーケーケーの中島氏は、「狭山には以前から生産物流拠点があった。ものすごく古い建物で多種の部品を扱っていたので、ピッキングの為に、ものすごい距離を歩く必要があった。労働環境も悪かった。また、拠点間輸送はトラックを使わざるを得ない。対策を打たないといけない。多品種少量生産の会社に適した物流の姿はどこにあるのか。オートメーションを加えた環境改善がほしい。トラック輸送は仕方ないが、出荷にかかる時間を短くすることはできるはずだと考えた。ピッキングに良い装置がないかと考えて、AutoStoreを選んだ」と紹介した。
東亜ディーケーケー 執行役員 生産本部 生産管理部長の齋藤利男氏は「労働人口が減るなか、どこまで省人化ができるか。6年前から物流展でいくつかの自動倉庫を見ていた。AutoStoreは最初は『ちょっと高すぎて買えない』と思っていた。だが集約してくれるメリットは大きい。労働人口が減ったときにも同じ仕事をし続けるためにも複数の選定候補からAutoStoreを選んだ。この建物のなかにうまく集約できる自動倉庫なのかという点も大きかった」と語った。
5社くらいの競合製品と比較検討したが、実際に検討を進めると「価格はちょっと高いくらい」で遜色なく、AutoStoreの柔軟性と、算出された費用対効果で納得したという。また多国籍人材への対応が可能であると考えられたことも、AutoStore導入の理由の一つだった。
オカムラの近藤氏は「値段というよりも費用対効果が重視される。費用対効果がどれだけ見込めるか。見込めれば間違いなく導入されるというかたち」とコメントした。「最初に設計事務所が提案したのが天井高の有効活用。東亜ディーケーケーさんの場合、作業スペースはそんなに高い天井はいらない。AutoStore設置分だけ高くしてしまうと変な段差ができるし、動線的にも良くない。そこで特性をいかして床を1.6m堀った。梁の上は8段、それ以外は5段となっている。上面は一緒なので8段部分と13段部分がある。全体面積の75%は13段ある」と解説した。
中島氏は「我々の理想だと2Fの床を抜かないといけなかった。逆に床を掘るという提案をしてもらった」と評価した。地下を掘ることにより結露の可能性も出てくるが、そのためには結露防止マットを敷き、さらに空調機を使って空気を循環させて結露を防止している。
近藤氏は「梁を避けて自動倉庫を設置するのはオートストア以外はないのではないか。全部を掘る場合はあるが一部だけ掘り込む設置はできない」とAutoStoreの柔軟性を評価した。なかには使ってないトラックバースを有効活用するために、一部段を稼ぐために使っていたり、中二階に配置するなどしており、AutoStoreはフレキシブルなレイアウトが可能だという。
■AutoStoreを使うことで25%の時間短縮、業者の荷待ち時間も消滅
実際に動かし初めて、齋藤氏は最初にピッキングをやっている人に感想を聞いたという。すると「楽になりましたよ」と言われたそうだ。また入出庫作業も早くなった。同社は国交省のホワイト物流推進運動にも参加しているので、その面での貢献もできるかどうかが心配だったが、実際にドライバーへの荷物の引き渡しが格段に早くなった。「今までだと『あと30分待ってて』が多かった。いまは定刻に出せるようになって荷待ち時間がなくなった」とのこと。
なお物流関連の人数は20人程度いるが、減らしていない。「経験者を減らすのは嫌。ただし、今まではドライバーを待たせるぶん我々の作業者も時間外労働させていた。それはなくなった。数字としては簡単に出せないが、AutoStoreを使うことで25%くらい時間は削減できた」という。
基本的にAutoStoreに入れるものは入れているが、大きさなどの面で入らないものは固定棚に置かれている。従来は530平米くらいの場所に置いてあった分を300平米くらいのAutoStoreに入れているとのこと。最初は「本当に入るのか?」と不安もあったが、全部が収まった。しかもなおかつ6740ビンのうち5000ビン程度しか使っておらず、余裕があるという。
製造業からの需要に関しては、オカムラ近藤氏は「10年前に契約したときは、ニーズはおそらくECだと思っていた。製造業が4割なのは我々も驚き。家電・自動車・精密と多岐にわたっている」とコメントした。理由の一つは高密度にあるという。「大阪・門真にある、とある会社は外部倉庫6箇所持っていたが家賃、横持ち、人件費が嵩んでいた。そこでAutoStoreを導入して1箇所に集約して、しかも面積は半分以下になった」と事例を紹介した。製造業ではメンテナンス用、アフターサービス用の部品点数が増加している。また製造ラインの一時バッファとしてAutoStoreを活用するような使い方もあるという。
■海外では店舗内AutoStoreで在庫管理している例も
最後に東亜ディーケーケーの中島氏は「狭山でしっかりした開発から出荷までの一連の流れができるようになった。来年度から新たな中期計画が始まる。効率化だけではなく、多種多様のサンプリングを同時にやりたい、色々な検体を同時に計測したいという要望がある。そういったところにしっかり対応していきたい。単品だけではなくシステムを収めていくことでしっかり市場に対応する。物流の対応としてはAutoStoreの位置付けは大きい。出荷が滞ると販売損失が大きい。業績の拡大に向けた取り組みをしていきたい」と語った。
オカムラ近藤氏は「AutoStore発売から10年経った。ちょうど、以前導入してくれた顧客が、違うところにセンターを建てたりする時期なので、そのリピートと、冷凍冷蔵対応のタイプで新たな需要の掘り起こしも狙いたい。海外では店舗内に導入している例もある。そういった新たな需要を見つけて導入していきたい」と語った。
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!