ロボット関連81社が進出「福島イノベーション・コースト構想」の現在 空飛ぶ車や人機一体など関連企業5社が紹介
公益財団法人 福島イノベーション・コースト構想推進機構は、2025年1月 21日(火)に東京都内で「福島ロボットテストフィールド(RTF、ロボテス)」をテーマにメディア発表会を開催した。RTFは福島の新たな産業基盤構築を目指す「福島イノベーション・コースト構想」に基づき「陸・海・空のフィールドロボット」の日本最大級の開発実証拠点として整備され、2020年3月に全面開所した。以来、5年の間に敷地内実証件数は1,100 件を超えたという。なおRTFのこれまでの機能や成果は2025年4月以降、福島国際研究教育機構(F-REI、エフレイ)に統合・継承される予定だ。
メディア発表会当日は、RTF を活用して技術開発を行い事業化に至った 5社(イームズロボティクス、テトラ・アビエーション、人機一体、リビングロボット、クフウシヤ)が、これまでの成果を発表した。トークセッションでは「RTFによる新たな産業集積形成への挑戦」と題し、今後の展望を意見交換した。レポートする。
■福島イノベーション・コースト構想
■浜通り地域へのロボット関連の新規進出社数は81社
■AIドローンで物流インフラ構築を目指すイームズロボティクス
■「空飛ぶクルマ」開発を行うテトラ・アビエーション
■物理的な苦役から人を解放する人機一体
■在宅サービスプラットフォームを目指すリビングロボット
■柔軟性、拡張性、ニーズ特化でニッチなニーズを開拓するクフウシヤ
■トークセッション 福島から日本・世界の課題の解決へ
■高機能ドローンや自律移動型ロボットの開発を推進するF-REI
■福島イノベーション・コースト構想
発表会ではまず復興庁 統括官付審議官の牛尾則文氏が上記のような概要を紹介して挨拶。続いて福島イノベーション・コースト構想推進機構 事務局長の蘆田和也氏がより詳細に「福島イノベーション・コースト構想」を紹介した。
東日本大震災からの復興はいまだ道半ばだ。福島イノベーション・コースト構想は廃炉、航空宇宙、ロボットなどを重点分野として開発を行っており、産業集積や交流人口の拡大などに取り組んでいる。
蘆田氏は「イノベ地域には充実した実証・研究開発環境がある。地域ならではの人材育成や確保にも取り組んでおり、年々移住者も増えている。全国的に見ても手厚い支援を行っている。今後もロボテスが世界に誇れる実証研究の場となれるよう取り組んでいく」と紹介した。
■浜通り地域へのロボット関連の新規進出社数は81社
具体的なRTFの歩みについては、東大名誉教授で福島ロボットテストフィールド所長の鈴木真二氏が紹介した。福島ロボットテストフィールドは「陸・海・空のフィールドロボット」の一大開発拠点として整備された。
ドローンや次世代モビリティ、災害対応ロボットなどの開発に必要な、様々な実験ができるようになっており、自衛隊や消防の訓練にも使われている。
内訳としてはドローンが多く、65%を占める。技術開発だけではなく、社会実装のための標準化やリスク評価、ガイドライン整備、人材育成のための小中学生向け教育活動なども行っている。
今後も技術開発、実運用環境整備、標準化、特区制度も活用して自治体や地域支援などを進めていく。具体的にはドローンによる先進的な配送サービスなどを実施・推進していく。なお、東日本大震災以降の福島県浜通り地域へのロボット関連の新規進出数は81社。
■AIドローンで物流インフラ構築を目指すイームズロボティクス
続いて、各社からの発表が行われた。まずイームズロボティクス株式会社 代表取締役の曽谷英司氏が「ドローンで支える 命と暮らしを守る物流インフラの構築」と題して発表した。同社は2018年にエンルートから分社化するかたちで創業。陸海空に対応するドローンを国産で開発している。レベル4飛行が可能な機種も現在開発中。
主に佐川急便と実証を進めている。平常時・災害時の物資輸送をドローンに担わせる。スーパーからの配送実験のほか、「すき家」の牛丼配送などでたびたびメディアにも登場している。ドローンハブに物流事業者が荷物を持ってきたら、あとは地上を走るUGVや、空を飛ぶUAVが各所に配送を行うといったビジネスモデル構想を描いている。
能登半島でも災害支援を行っており、そのときはRTFが策定したガイドラインに基づいて活動した。実際にいくと通信や降雪、風速など様々な課題にぶつかり、それらにも対応しなければならないと考えたと述べた。またドローンが撮影した画像の国との連携やもろもろの事前準備が重要だと語った。そのほか各種プロジェクトに参画して新型ドローンを開発している。
■「空飛ぶクルマ」開発を行うテトラ・アビエーション
テトラ・アビエーション株式会社 代表取締役 中井佑氏は「シームレスな移動を実現する空飛ぶクルマのある未来」と題して発表した。テトラ・アビエーションの創業は2018年。2023年に南相馬市に本部を移転している。
テトラ・アビエーションは「人の移動」に特化したモビリティ開発を行っている。たとえば東京からRTFまで車で移動すると、およそ4時間半かかる。そのような、新幹線は通っていないが行きたい遠隔地向けのモビリティとして「空飛ぶクルマ」の開発を行っているという。
現在は二人乗りのプラットフォームを開発中。2028年にテトラ自身が運用業者となり、空飛ぶタクシー事業を開始し、2030年には全国規模のビジネスにすることを目指している。2025年の万博にも出展する。東京から福島駅までは1時間半くらいで着く。中井氏は「空中移動で日本の地域格差をなくしたい」と語った。なお米国向けには個人向けとしてビジネスを展開していきたいと考えているという。
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■物理的な苦役から人を解放する人機一体
株式会社人機一体 代表取締役社長の金岡博士は「あまねく世界からフィジカルな苦役を無用とする」と題して発表した。福島には2019年に進出。同社は東日本大震災においてロボットが期待ほど役に立たなかったこと、その悔しい経験をもとに事業を行っている。災害対応ロボットをゴールとしつつ、平時にも当たり前に重作業、物理作業に使えるロボットの開発を目指している。目標は2039年。
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人機一体が開発しているのは独自の双方向力制御技術を搭載した遠隔操作型のロボット。人はロボット側の力を感じながら制御できるので、直感的にロボットを操作することができる。未知の物体も現場で扱える。現在は主に鉄道分野の高所作業をターゲットとしている。日本信号にて「多機能鉄道重機」として製品化されており、JR西日本の現場に導入されて、塗装や樹木の伐採などに使われている。
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まずは鉄道分野で展開し、建設や電力、道路など高所作業車が使われている分野に横展開していく。さらに他にも様々な分野に同社の技術は使えると考えており、各社と共同開発を進めている。複数のプラットフォームを連携させることで、ロボットをより広く世の中に活用する世界を実現したいとしている。目指すはRobotics as a Service(RaaS)だと語った。
RTFは開発だけではなく運用拠点としても活用していく。将来はさらなる「福島基地」を作り、ロボットを運転する「ロボットオペレーター」を養成するための「ロボット教習所」を作りたいと構想を述べた。操作法の標準化やリスク評価を経て「免許制度」も必要だと考えているという。なお同社のロボットはアニメの「シンカリオン」にも登場している。下半身がついた人型も開発中だ。
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■在宅サービスプラットフォームを目指すリビングロボット
株式会社リビングロボット 代表取締役社長の川内康裕氏は同社のビジョンである「ロボットと人が共に生きる社会の実現」を掲げて講演した。創業は2018年。同社が開発している小型のパートナーロボット「あるくメカトロウィーゴ」は福島の実用化補助金で開発されたもので、教育や見守り介護用に活用されている。福島ラボのほか台湾オフィスも構えており、現在はコンテンツ開発に注力している。
「あるくメカトロウィーゴ」だけではなく、築水キャニコムのラジコン式草刈り機「アラフォー傾子」をベース車両とした自動走行草刈りロボットの開発も行っているという。そのほか、テレプレゼンスロボットの「Temi」の導入なども進めている。
「あるくメカトロウィーゴ」はロボットプログラミング学習に使われている。ベースはスマホであり、頭の部分はクラウドにある。既に3年間で2100名くらいが学習システムを使っているという。
また、アプリケーションを変えることで見守りもできる。「見守りウィーゴ」は高齢者に寄り添った活動ができる。現在、自治体のほか、病院、幼児教育などとも連携して様々な用途を開発しようとしている。
在宅サービスプラットフォームと、それと連携する試作ロボットも開発中だ。高齢者と遠隔地の家族をつなぐようなロボットだという。機器連携や生成AIを使った会話、健康アドバイスなどもできるものになる予定だ。
■柔軟性、拡張性、ニーズ特化でニッチなニーズを開拓するクフウシヤ
株式会社クフウシヤ 代表取締役社長 大西威一郎氏は「イノベ地域での新しいチャレンジ」と題して講演した。クフウシヤは2014年創業。自律移動ロボットの開発と協働ロボットSIerとして事業を進めている。大手が参入しそうな市場向けのロボットは作らないよう、「ニッチなニーズ」にチャレンジしているという。
具体的には4脚ロボットのほか、階段昇降ロボット、ドライ清掃ロボットなどを開発している。またAIを活用したソフトウェア開発や協働ロボットを使ったTIG溶接システムなどを手掛けている。
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4月から行われる大阪・関西万博で日本科学未来館が実施する「AIスーツケース」は同社が受注して手がけた。現在「山場を迎えている」という。
福島ロボットテストフィールドでは、主に4脚ロボットの実証実験を行っている。拠点を置く神奈川では実施が非常に困難な実験ができることから、たいへん使い勝手がよいと述べた。2024年度はオリジナルの4脚ロボット開発に注力している。シミュレーションも活用して様々な試験を実施中だ。
地域企業との連携も進めている。10月に南相馬で開催予定の「ワールドロボットサミット」にも地元企業と組んで出場する予定だ。なお昨年のプレ大会では二位だった。
今後は、独自の4脚ロボット「Aquro」のほか、ヒューマノイドの開発も進める。AIの活用によって従来は無理だと思われていた能力をロボットが発揮できるようになりつつある。柔軟性、拡張性、ニーズ特化などを組み合わせれば、国産でもニッチなニーズはあるはずだと考えているという。
■トークセッション 福島から日本・世界の課題の解決へ
続いて、登壇企業 5 社を交えたトークセッションが行われた。テーマは「RTFによる新たな産業集積形成への挑戦」。モデレーターはRTF 副所長 若井洋氏。若井氏は「新規市場を開拓しながら技術開発を行うことは大変。皆さんは大変な苦労をしていると思う。ロボテスの魅力をお話しいただきたい」と話を振った。
まずクフウシヤ大西氏は「RTFに開発拠点を置く企業はファブレス企業が多いと思う。力を借りなければいけないときに福島の製造企業は非常に協力的でありがたい。数個の部品でもやってくれる」とコメントした。
リビングロボット川内氏も「一緒にチャレンジしようとするエコシステムができてている」と評価した。開発においては福島に満足しているので、これからは事業のスケーリングフェーズにおいても地元で取り組めると良いのではないかと述べた。
人機一体・金岡氏は「福島で作ることに意味がある。震災があったからロボット産業が生まれ、チャレンジングなロボットが生まれたと言われるような状況を作りたい」と語った。「ダイナミックな人の動きを作りたい」という。
テトラ・アビエーション中井氏は「地域の課題を解決したい。体験してみないとモビリティがいかに仕事や生活に影響を与えているかはわからないので、ぜひ福島に来てもらって体験してもらいたい。日本が抱えてる課題を解決できるかもしれない」と述べた。
イームズロボティクス曽谷氏は「南相馬の農薬散布ドローンの普及率は非常に高い」と紹介。他地域だとドローンを飛ばしていると様々なクレームがくるが、南相馬の人はドローンに慣れているためクレームがまったく入らない点が開発側からすると非常にありがたいと述べ、「社会受容性を高めることが重要」と語った。
トークセッションはこのあと、「F-REI」への期待の話題そのほかに移ったが、そちらは割愛する。
■高機能ドローンや自律移動型ロボットの開発を推進するF-REI
最後に、福島国際研究教育機構(F-REI)研究開発推進部長の大今宏史氏がF-REIを紹介した。F-REIは「創造的復興の中核拠点」を目指して令和5年に設立された。5つの研究開発を行う予定で、そのうちの一つがロボットとなっている。本部は浪江駅近くにあるが、現在はまだ施設はできていない。
ロボットは過酷な環境でも稼働できる高機能ドローンや自律移動型ロボットの開発を推進する予定。そのための耐環境・高機動化技術、高度知能化、機能拡張、燃料電池、性能の標準化などの研究を行う。廃炉のほか、広大な森林環境などで活用できるロボットの開発を目指す。
RTFには実証準備棟を整備して、実証実験を行うときに準備をしたり、機材の保管、一時滞在スペースなどとして活用できるようにする予定。10月にはワールドロボットサミットを開催する。
ロボットの見方 森山和道コラム
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森山 和道フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!