脊髄損傷の回復に期待 CYBERDYNEの装着型ロボット「HAL」が唯一の治療装置と確認

CYBERDYNE株式会社が開発した装着型サイボーグHALが、神経可塑性を誘導し、脊髄損傷(SCI)に起因する複数の機能障害に対して全身的かつ包括的な治療効果を有する唯一のデバイスであることが、国際的な医学誌に掲載されたシステマティック・レビューにより明らかになった。
12年間、591名分の臨床研究を解析
2025年6月に「Global Spine Journal」に掲載された論文「Actively Controlled Exoskeletons Show Improved Function and Neuroplasticity Compared to Passive Control: A Systematic Review」は、英国最大級の総合教育病院であるセント・ジョージズ病院のDarren Lui氏を責任著者として主導された。
2011年から2023年までの12年間に発表された555本の文献から選定された27本の臨床研究(計591名のSCI患者)を用いて、外骨格型ロボットの臨床効果を解析している。
フィードバック機能で神経可塑性を誘導する点が他社製品との違い
CYBERDYNEの装着型サイボーグHALは、患者の脳神経系由来の生体電位信号をリアルタイムで検出し、装着者の意図と連動してHALが駆動することによって、身体の固有受容器からの感覚系情報が中枢神経系(脳)に戻っていくループを形成する。
この仕組みにより、人とHALの間で脳神経系の機能改善が促進されるiBF(インタラクティブ・バイオフィードバック)を成立させる独特な原理で機能している。
今回のシステマティック・レビュー論文で、装着型サイボーグHALと、9種類の類似形状の他社外骨格型の製品(ロボット制御で動作が繰り返される装置)と比較した結果、同社のHALのみが神経可塑性を誘導し全身的な治療効果を示す唯一のデバイスであることが明確になった。
包括的な治療効果を実現
本論文では、機能的MRI研究の知見を引用し、自発的な運動は、受動的運動に比べて中枢神経系に対する神経活動をより強く喚起することが報告されている。また、HALによって実現される中枢系と末梢系の間の反復的な神経伝達プロセスが、脳や脊髄における信号の学習と強化を促し、最終的には脊髄損傷部位以下の神経回路の再構築・再活性化、部分的な神経支配の回復へと繋がると考察されている。
神経可塑性の誘導機構により、HALは歩行機能にとどまらず、排尿・排便機能、疼痛、QOL(生活の質)といった二次的健康指標にも改善効果を示した。これは、神経系全体への治療的アプローチとして、HALが他に類を見ない治療装置であることを臨床的に裏付けるものである。
HALの医療的有用性が科学的に裏付けられたことで、神経リハビリ分野におけるロボット支援技術の標準化が加速していきそうだ。
CYBERDYNEは、HALが脳・神経・筋系の機能を全身的に再建しうる唯一の医療機器であること、ならびにSCIという複雑な疾患に対して包括的な治療アプローチを可能とする「サイバニクス治療」の中核であることを、今後より一層明確に伝えていく方針を示している。
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