脳卒中や脊髄損傷による手指の麻痺を改善するリハビリテーション支援ロボット「Narem」が特許を取得 SACRAと北九州市立大学が共同開発

桜十字グループは、同グループが運営している先端リハビリテーションセンターSACRAにおいて、脳卒中や脊髄損傷などによる手指の麻痺を改善することを目的として、北九州市立大学と共同開発した「手指リハビリテーション支援システムNarem」が、共同特許を取得したことを明らかにした。

要介護に直結する脳卒中・手指の麻痺

脳血管疾患(脳卒中)は三大疾病のひとつで、生活習慣病などが要因といわれ、2020年には患者数が約174万人になった。がんや心疾患に比べて死亡者数が少なく生存率が高いのが特徴で、そのなかでも脳卒中は、麻痺が残りやすいといわれ、認知症に次いで要介護要因の第2位になるなど、入院や介護などの問題に直結している。

特に、手指は脚や腕に比べて繊細な動きを要するため、そこに麻痺が残ると皿洗いや洗濯など、日常生活を送るために最低限必要な動作=ADLが低下し、日々の生活にも支障が出てしまう。

従来のリハビリとは違うアプローチ


脳卒中や脊髄損傷などによる手指麻痺を改善する目的で開発されたリハビリテーション支援ロボットNaremは、従来の手指リハビリ療法とはまったく別のアプローチで開発された。

1:動く方の手指の動作を「LEAP MOTION」で取得
2:システムにて関節ごとの細微な動作を解析して、左右対称に動きをコピー
3:空圧制御グローブが瞬時に動きを再現

細かな動きも瞬時に再現


細かな動きを要する手指麻痺は、これまで効果的な治療法が確立されていなかったが、Naremでは手指特有の関節ごとの細微な動きの再現が可能であり、動く方の手指と同じ動作をほぼ同時に麻痺した手指に行わせることができるため従来の治療法を上回る効果が得られると期待されている。

また、麻痺した方の手指の動きをモニターで視認することで、運動の意図と結果を視覚的に照合することが可能となり、主体的に動かしていると脳が錯覚、それらの連続的な刺激が脳を活発化させ、より回復へと近づけることができるとしている。

短時間、1人でも使用可能


従来の手指リハビリ療法では1回のリハビリで6時間を要したり、セラピストの介助が必要だが、Naremは短時間で1人でも行うことが可能なため、時間や介助者の制限に捉われることなくリハビリを行うことができる。検証の結果、1回30分、週2回程度の使用でも効果が認められた。

発症からの時間は問わず

通常、リハビリはタイミングがとても重要とされているが、Naremでは回復期のみならず発症から時間が経過した維持期脳卒中患者さまにおいても一定のリハビリ効果が得られることが証明された。

発症からの時間の長短に関わらずNaremを使ってリハビリを行えば機能回復の可能性がある。もちろん従来療法との併用も可能なため、これまでのリハビリであまり効果が得られなかったという方でもNarem療法は希望の光となる可能性がある。

検証結果(実際の症例)

・脳卒中で約8年ほど思うように手指が動かせなかったが、1回30分、週2回程度のNaremリハビリ療法を3ヶ月続けた結果、手指が動かせるようになった。(76歳/女性)

・日常の家事が難しく介護をお願いしていたが、Naremリハビリ療法を行った結果、お茶碗を洗ったり、洗濯物をたたむ等の日常的な家事ができるようになり、家族の介護の負担が減ったと喜んでもらえた。(53歳/女性)

・発症から約1年、入院や外来・デイケアでのリハビリでは全く動かなかった手指が、Naremリハビリ療法を約4か月続けた結果、生活場面で補助的に麻痺した手指を使えるようになり、その後新しい仕事に就労することができた。(56歳/男性)

・手指麻痺の回復を諦めきれずに様々な情報を探していたところ、Naremをみつけリハビリを受けることになりました。約3か月のNaremリハビリ療法により、麻痺した手指を使って食事したり、料理ができるようになった。(70歳/女性)

プロジェクトについて

開発ストーリー

スタートは、北九州市立大学の松田鶴夫教授がNaremの基幹システムを開発した2016年まで遡る。当初は大脳皮質運動野や末梢筋・神経に対する研究を行なってきた松田教授が、とある論文をきっかけに、外部刺激による手法ではなく、患者自身の運動と連携する意識のフィードバックシステム(現在のNaremにつながるシステム)を発案し、プロトタイプを組み上げたところから始まる。

その後、桜十字グループや機器開発関連企業がチームに加わり、2020年よりSACRAが患者対してにNaremを使ったリハビリの提供を開始。運用試験を行いながら効果検証を繰り返し、改良を重ねてきた。機器の技術的なブラッシュアップやソフトウェア開発は、大学や医療機関だけでは難しく、まさに産学医が連携した結果だといえる。

2021年頃より独創的・先駆的な研究として国から認められ、科学研究費助成事業として研究費が助成されるまでになった。その後特許を出願し、2024年の夏に「リハビリテーション支援システム、プログラム及び制御装置」として特許を取得(特許第7531813号)した。

北九州市立大学教授 松田鶴夫 氏

Naremは脳波・筋電位・AI・電気磁器刺激を使わない初めての機材になります。これまでの療法とはまったく違うアプローチでの開発でしたが、当初は手指を動かすだけの機材と同列とされ、先行する同業他社との違いを理解してもらうために2年近くの時間を費やす等、苦しい時代を長く過ごしました。

それでも諦めずに、臨床運用の質向上のために機器やソフトウェアのブラッシュアップを行い、SACRAからの臨床結果を集め裏付けを厚くすることができたことが、今回の特許取得に繋がりました。まさに産学医が連携した結果だといえます。


SACRA主席研究員 遠藤正英 氏

現在Naremは、福岡市にある桜十字福岡病院と久留米市にある花畑病院(いずれも桜十字グループ)のリハビリで使うことができますが、今後はその場所をもっと増やしていきたいと考えています。そのためには製品化が必要ですが、今回の特許取得が製品化への推進力になると期待しています。また今は手指に特化した形となっていますが、これを大腿部や膝関節へ転用する構想もあり、現在既に着手しています。まずはSACRAを核として日本全国の臨床現場へNaremを普及させ、拡大させていきたいと考えています。SACRAでは、引き続きNaremの効果検証を行い、手指麻痺に対する新たなリハビリテーション法の確立を目指していきます。


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ロボスタ編集部

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