NECの地上型衛星航法補強システム「GBAS」羽田空港で正式運用を開始 「GBAS」とは? しくみとメリット

NECは、同社が開発した地上型衛星航法補強システム「GBAS」の正式運用を、2025年1月23日から羽田空港で開始したと発表した。アジア地域でGBASが正式運用されるのは、羽田空港が初めて。

地上型衛星航法補強システム「GBAS」はGround-Based Augmentation Systemの略称。GPSを利用して航空機の進入着陸を支援する着陸誘導システム。

羽田空港に設置されているGBAS機材

「GBAS」は、地上から電波により着陸まで誘導する既存の計器着陸装置「ILS」(Instrument Landing System)と同様の精度を有し、GPSによる測位の精度や安全性を保障するための補強情報を地上で生成・放送することで、航空機の安全な進入着陸を支援する。

また、複数の滑走路や双方向での着陸に対応するため「ILS」では地上に複数の設備が必要であることに対し、「GBAS」は一式で対応できる。このシステムの導入により整備・運用コストの低減につながることも期待されている。


年々増大する航空需要に対応するための「空港のDX」の加速が急務

航空業界では、年々増大する航空需要に対応するため、安全な運航を確保しつつ、経路の短縮など航空機の運航効率の向上に向けた取り組みが求められている。この観点から、デジタルデータによる進入経路の情報を航空機へ提供する「GBAS」が国際民間航空機関「International Civil Aviation Organization (ICAO)」で国際標準として規格化され、その導入が国際的にも求められているという。

こうしたなか、国土交通省航空局でも「GBAS」を活用した航空機運航に取り組んでおり、NECが当局より「GBAS-16型GBAS装置1式の製造」を受注・納入し、羽田空港での正式運用の実現に至った。


「電離圏」の影響を受けにくい「GBAS」を開発

NECは独自技術、及び電子航法研究所が有する特許を活用することにより「電離圏」の影響を受けにくい「GBAS」を開発している。「電離圏」は、地球の一部大気が太陽からの紫外線などにより電離された、高度約60kmから1,000km以上にわたる領域で、GPSの電波が電離圏を通過する際には遅延が生じるため、GPSによる測位誤差の一要因となっている。電離圏変動の影響を受けやすい磁気低緯度の地域においても測位の誤差を抑制することが可能になる。
この技術は、世界でNECのみ実現しているという。今後、NECは国が進めるインフラシステム海外展開戦略と軌を一にして、東南アジアや中東地域などを含む世界各国の空港へGBASを展開していく考え。


GBASとは

NECは「GBAS」を日本で初めて実運用システムとして開発し、羽田空港向けに納入した。以下、NECの公式サイトより引用。


精度や安全性でGPSを補強する技術

「GBAS」は、GPSを利用した民間航空機の進入着陸を支援する着陸誘導システム。カーナビや携帯電話などでは、位置情報を把握するためにGPSが広く利用されているが、GPSから得た位置情報では航空機の進入着陸で要求される精度や安全性を保障することができない。

そのため、「GBAS」は、GPSを使用した測位の精度や安全性を保障するための補強情報(GPSの測距誤差を補正する「誤差補正データ」、安全性を保障するため、GPSによる測位誤差の信頼性に関する「インテグリティ情報」、航空機が着陸する際に使用する滑走路への進入経路を示す「進入経路情報」)を地上で生成・放送する。

航空機はGPS信号に対して、地上から放送された補強情報を適用することで、安全な進入着陸を実現する。

図1 及び写真で、GBASの構成と外観を示す。図に示すとおり、GBASは、GBAS基準局、GBAS処理部プロセッサ及びVDB(VHF Data Broadcast)アンテナから構成されている。

図1 GBASの構成 出典:NEC

写真 羽田空港に設置されたGBAS機材の外観 出典:NEC


GBASのしくみ

GBAS基準局は、GPSからの信号を受信、GPS受信データをGBAS処理部プロセッサに伝送する。GBAS処理部プロセッサでは、GBAS基準局から伝送されたGPS受信データを使用し、補強情報を生成。生成された補強情報は、VDBアンテナから航空機に向けてGBASメッセージとして放送される。

また、GBAS処理部プロセッサでは、GPSの衛星故障や電離圏の急激な変化により衛星が使用できない状況(電離圏異常)の監視も行っている。衛星故障や電離圏異常により測位に悪影響を与えると判定された衛星は、GBASメッセージに含めないという機能により、それらの衛星を使用させないようにすることで、進入着陸に問題が生じることを回避する。


GBASのメリット

従来の「ILS」は、1つの滑走路の1つの進入経路に対して一式整備する必要がある。それに対して「GBAS」は、一式のシステムから放送する「GBASメッセージ」で複数の進入経路の情報が提供できる。そのため、整備コストを低減することができる。
図2では、2本の滑走路に対して両側からの進入経路が設定されている例を示している。一式のILSでは1つの進入経路にしか対応できないのに対し、一式のGBASは4つの進入経路に対応することができる。

図2 一式のシステムで対応可能な進入経路の比較 出典:NEC

GBASはデジタルデータにより進入経路を航空機へ提供するため、空港の設置環境などによっては、柔軟な進入と着陸が可能になるなどの効果も期待されている。

更に詳細な情報はNECの「GPSを利用した航空機進入着陸システム(GBAS)の開発」ページが詳しい。
https://jpn.nec.com/techrep/journal/g21/n01/210110.html

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