アイロボット新CEOコーエン氏が初来日、ラインナップも一新、機械式ゴミ圧縮機能を持つ機種も

2025年4月16日、掃除ロボット「ルンバ」で知られるアイロボット・コーポレーションの新CEOであるゲイリー・コーエン(Gary Cohen)氏が2024年5月の就任後初来日し、意気込みを語った。同時に一新されたルンバのラインナップも公開され、アイロボットジャパン代表執行役員社長の挽野元氏は2030年までの中期目標として「掃除機市場で5台に1台の普及を目指す」と発表した。

2024年には累計販売台数が世界 5,000 万台を超え、掃除ロボットの代名詞となっている「ルンバ」。しかしながら競争環境は激化し、アイロボットは経営難が報じられるなど、ビジネス面では大きな曲がり角を迎えている。コーエン氏は同社の経営は「盤石」だと述べたが、質疑応答では「M&Aを含めあらゆる可能性を検討中である」とも語った。とりあえず会見内容と製品ラインナップをレポートしておきたい。

アイロボットジャパン代表執行役員社長 挽野元氏(左)とアイロボット・コーポレーション CEO ゲイリー・コーエン(Gary Cohen)氏(右)


■新iRobot社のキーワードは「向上(elevate)」

アイロボットジャパン代表執行役員社長 挽野元氏

会見ではまずアイロボットジャパン代表執行役員社長の挽野元氏が国内出荷台数600万台、世帯普及率10%の達成。新しい販売戦略としての指定価格制度の導入、そして普及価格帯のルンバの定着をアピールした。普及率10%は挽野氏が就任2年目の2018年に掲げた中期目標。当時の普及率は4.5%だった。それから7年かけて達成した。2024年度はエントリーモデルが特に好調だったと述べた。

アイロボット・コーポレーション CEO ゲイリー・コーエン氏

ゲイリー・コーエン氏は自己紹介のあと、ミッション、ビジネスの現場、そして新製品紹介を行った。キーワードは「向上(elevate)」。就任後、業績向上と会社再建のために「あらゆることを向上させることに努めてきた」と述べ、「アイロボットは大きな成長可能性を秘めた市場において、多くのユーザーを抱えるグローバルブランド。マーケットでの流通、知財、ポートフォリオ、優秀な人材を抱えている」と語った。就任後、経営陣、ビジネスモデル、ロボット製造方法などを変えたという。

コーエン氏は「elevate」を強調した


■”iRobot is not going anywhere”

決算発表に関して説明した

そして3月に行われた同社の決算発表と、それに伴う一連の報道についても触れた。債務の借り換えなど、負債を返済する手段が見つからない限り、今後1年以内に事業を閉鎖せざるをえなくなる可能性があるとするものだ。

コーエン氏は以下のように述べた。

「我々は財務基盤の強化策を講じており、取締役会は事業戦略の見直しを行っています。この戦略見直しの一環として、取締役会は、債務の借り換え、売却、その他戦略的取引の可能性の検討など、さまざまな選択肢を検討しています。すべてポジティブなアクションです。また、この戦略見直し期間中、主要融資先と協力的かつ建設的な協議を引き続き積極的に行っています。これらの協議が継続中であること、およびその他要因を考慮し、当社の監査人はForm 10-K(年次報告書。日本の有価証券報告書に相当)において当社の『going concern(継続企業)』としての継続能力についての説明を監査意見に含めました。」

そして以下のように続けた。

「継続企業の前提(going concern)とは、今後の債務返済義務に関連する会計用語です。going concernとして事業を継続する企業は多くあります。今後、アイロボットの戦略的見直しプロセスの一環で、この指摘が修正されることを期待しております。先月の決算報告のプレスリリースにもありますように、本日ローンチする新製品および今後の強力な新製品のパイプライン—これには日本市場を意識したものも含まれておりますが—これらは従来品に比べ利益率も向上しており、2025年の前年比の収益成長に貢献すると見込んでおります。重要なことは、3月のプレスリリースが、当社の事業運営、製品の開発及び製造能力、そして世界中のお客様へのサービス提供に、直接的な影響を及ぼすことはないということです」

「財務状況を説明するために使用する言葉の中には、少々難解な表現もあります。しかし、どうぞご安心ください。アイロボットは世界中で変わりなく通常通り業務を行っています。その証として、2025年モデルの新型ロボットは、すでに北米、ヨーロッパのオンラインストアおよび量販店で販売開始されています。アイロボットは盤石です」。

続いて、日本はアイロボットにとっても重要な市場だと述べた。米国に次いで2番目の市場であり、ルンバユーザーのブランドロイヤルティも高い。また経営陣はサブスクプランやルンバを「ふるさと納税」の返礼品にするなど独創的な施策もうっており、大変好評だと述べた。そして最後に再び「一部のメディアの皆様、消費者の皆様にご心配をおかけしていることも承知しております。しかし、私たちはしっかりとここにおります。どこにも行きません。どうかご安心ください」と語った。


■新ルンバは3カテゴリー、全6機種をラインナップ

ルンバの新ラインナップ

そして、コーエン氏が新ラインナップのルンバをアンベールした。新ルンバのラインナップは、ターゲットやライフスタイルに合わせた 3カテゴリー、全6機種。カラーバリエーションを含めると9モデルとなる。

カテゴリーは、コスパを重視した「Roomba」、ミドルレンジの「Roomba Plus」、フラッグシップの「Roomba Max」の3つ。それぞれに3機種、2機種、1機種がある(リリース)。全機種にLiDARをつけてマッピング能力を高めた。4月18日からすでに認定販売店および公式オンラインストアで発売されている。


■コスパを重視した「Roomba」カテゴリー

「Roomba 105 Combo ロボット+ AutoEmpty 充電ステーション」(59,200円)

ただし、同じカテゴリーに入れられていても、同じハードウェアというわけではない。もう少し詳しく見てみよう。

普及価格帯カテゴリー「Roomba」に分類されているのは3機種。「Roomba 105 Combo ロボット」(39,400円)、「Roomba 105 Combo ロボット+ AutoEmpty 充電ステーション」(59,200円)、「Roomba 205 DustCompactor Combo ロボット」(59,200円)だ(価格はいずれも税込)。

黒バージョンもある

「Roomba 105 Combo ロボット」とそれに「AutoEmpty 充電ステーション」をつけた2機種は、吸引に加えて、スマートスクラブ機能で水拭き機能を持つ。以前の水拭きロボット「ブラーバ」と一体になったような機種だ。清掃モードは、掃除機がけのみ・水拭きのみ・掃除機がけと水拭きの3パターンから選択できる。

今回発表された新機種には全てLiDAR付き

今回発表されたラインナップ全体の特徴でもあるが、全機種にLiDARがついた。アイロボットでは「ClearView LiDAR」と呼んでいる。間取りを素早くマッピングし、指定エリアのみの清掃などを可能にする。また、「AutoEmpty 充電ステーション」を使えば、最大75日間、ゴミを捨てなくてすむ。


■機械式ゴミ圧縮機能を持つ機種も

「Roomba 205 DustCompactor Combo ロボット」

面白い機構を備えているのは「Roomba 205 DustCompactor Combo ロボット」である。最近のロボット掃除機は上述した「AutoEmpty 充電ステーション」のように、ベースステーションにゴミ圧縮機能を持たせているものが多い。本体のダスト容器からゴミを吸い出して圧縮することで、ゴミ捨て回数を減らすのである。

掃除機本体のダスト容器に機械式ゴミ圧縮機能「DustCompactor」を搭載。ホコリを機械的に圧縮する

いっぽう「Roomba 205 DustCompactor Combo ロボット」は、掃除機本体のダスト容器に機械式ゴミ圧縮機能「DustCompactor」を搭載。ダスト容器のなかで機械的にホコリを圧縮することでゴミ捨ての回数を減らす。場所を取るベースステーションもない。ゴミは最大 60日間分収納できるとされている。

*動画

なお「Roomba 205 DustCompactor Combo ロボット」の天面には他機種に比べてLiDARがないが、正面部分に内蔵されている。LiDARの場所をずらすことで「DustCompactor」の場所を稼いだ。いっぽう、高さは変わらないように設計されている。

本体の高さは変わらない


■ミドルレンジ「Roomba Plus」 水拭き用回転式円形モップパッドを搭載

Roomba Plus 505 Combo ロボット

ミドルレンジ「Roomba Plus」は、「Roomba Plus 405 Combo ロボット + AutoWash 充電ステーション」(98,800 円)、「Roomba Plus 505 Combo ロボット + AutoWash 充電ステーション」(128,400 円)の2機種。

2つの回転式大判円形マイクロファイバー製モップパッド「DualCleanモップパッド」を採用

ルンバ初の 2 つの回転式大判円形マイクロファイバー製モップパッド「DualCleanモップパッド」を採用。水拭き機能をアップデートした。505は右側のモップパッドが壁際まで伸びて清掃する「PerfectEdge」機能も持つ。

*動画

充電ステーションにもパッド洗浄、乾燥などの機能を持たせた。セルフクリーニングサイクルや自動給水、自動ゴミ収集までこなす。上位機種と下位機種の違いは温風乾燥かそうではないかである。温風乾燥はルンバでは初めて。生乾きがイヤな人は上位機種の505を選んだほうがいい。

「Roomba Plus」では充電ステーションにもパッド洗浄、乾燥などの機能を持たせた


■フラッグシップ 「Roomba Max」 水拭き不要の人はこれ一択

「Roomba Max 705 Vac ロボット + AutoEmpty 充電ステーション」(98,800 円)

フラッグシップモデルカテゴリーは日本先行販売となった 「Roomba Max 705 Vac ロボット + AutoEmpty 充電ステーション」(98,800 円)である。ルンバ史上最高の清掃力を実現した製品だとしている。「水拭きは必要ない」という人は、これを選ぶしかない。今回発表された機種のなかで唯一、2本のゴム製デュアルアクションブラシを持つ。カーペットブースト機能もある。

今回発表された機種のなかでは唯一、2本の「ゴム製デュアルアクションブラシ」を搭載


■もっとトップランナーとしての力強さが欲しい

LiDARとカメラを使って物体を認識。カメラでゴミの量を判断することもできる

このほか、連携するスマホアプリも新しくなり「Roomba Home」アプリとなった。従来のアプリとは互換性がないので、しばらくは二つが併存することになる。

新しいアプリ「Roomba Home」アプリ

一新されたルンバ本体のラインナップは、たしかに選びやすくはなった。しかしながら、他社製品に対する競争力がずば抜けているかというと率直にいうと微妙なところである。2本の「デュアルアクションブラシ」を採用した機種が「Roomba Max」1機種しかない点も1消費者としては残念である。

コーエン氏も、同社の強みについて改めて問われた折に「ブランド力がある」と述べるにとどまった。たしかにルンバ自体のブランド力は、まだ高いだろう。知名度も圧倒的だと感じる。しかしながら会見を通して全体的に、もう少しトップランナーとしての力強さが欲しかったというのが正直なところだ。

アイロボットは従来は存在しなかった「家庭用ロボット掃除機市場」そのものを切り拓いたパイオニアである。筆者自身もルンバユーザーの一人だ。個人的にも、もっと頑張ってほしいという気持ちがある。

最近のロボット掃除機は高価になりすぎていると思う。なにしろ売っているのはあくまで「掃除機」なのだ。コストパフォーマンスに優れた製品の投入により、今後の展開を期待したい。

*動画

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森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。WEB:http://moriyama.com/ Twitter:https://twitter.com/kmoriyama 著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)が好評発売中!

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