ヒューマノイド市場の主導権を握るのは誰なのか。ロボットメーカーか、それともAI企業か。あるいはアクチュエータやセンサーを供給する部品メーカーなのか。
ヒューマノイドロボットとフィジカルAIに特化した国際カンファレンス「Humanoids Summit Tokyo 2026」(東京・高輪)で、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナー、Ani Kelkar氏が登壇。市場規模予測や商用化への課題、中国が築きつつある競争優位性について分析を示した。
講演では、ヒューマノイドが単なる先端技術ではなく、製造業やサプライチェーン、国家競争力にも影響を及ぼす次世代産業として位置づけられた。また、中国のEV産業がヒューマノイドの量産競争にどのような優位性をもたらしているのか、商用化に向けて越えるべき「4つの壁(橋)」についても解説した。
本当のボトルネックや課題はAIそのものではなく、現場導入であるとして、「4つの壁」とは安全性、稼働時間、器用さ・移動能力、コストをあげた。

■ヒューマノイドを必要とする製造業の現実
マッキンゼーはまず、世界の製造業が直面する人手不足と生産能力不足に注目した。米国では2033年までに約190万人分の製造業人材が不足すると予測されているほか、倉庫作業員の離職率は40%に達するという。
また、中国の工場におけるロボット導入速度は米国の約10倍に達しており、自動化が経営課題として認識され始めていると説明した。

一方で、自動化が進まない理由については「技術的な制約だけではない」とした。
マッキンゼーの調査によると、導入企業が抱える課題として、
・投資対効果の説明責任(71%)
・社内能力や人材不足(62%)
・技術・インフラ整備(40%超)
が挙げられている。

ヒューマノイドの普及には、ロボットそのものよりも企業側の変革が重要になるという見方だ。
■日本の現在位置
興味深かったのは、製造業におけるロボット密度の推移だ。1990年代から長年トップを維持してきた日本は、現在では韓国やシンガポール、中国に抜かれている。
2024年のロボットランキングは、
韓国 1,220台
シンガポール 818台
中国 567台
ドイツ 449台
日本 446台
となっている。

日本は依然としてロボットメーカーとして強い存在感を持つ一方で、実際の導入では世界トップ集団から後退していることが示された。
■世界で80社を超えるヒューマノイド企業
更にマッキンゼーによると、ヒューマノイド関連企業は世界で80社を超えているという。
地域別では、
中国 35社超
北米 20社超
欧州・中東・アフリカ 15社超
アジア太平洋(中国除く) 10社超
という構成だ。

特に中国と北米が実証実験や商用化段階で先行しており、市場競争はすでに量産フェーズへ移行し始めているという。
■商用化には4つの橋を渡る必要がある
講演では、ヒューマノイドが本格普及するために越えるべき「4つの橋」が提示された。

具体的には、
安全性
稼働時間
器用さと移動能力
コスト
があげられる。

現在のヒューマノイドは、多くが2~4時間程度しか連続稼働できず、工場で求められる8~12時間のシフト運用には届いていない、とした。
また、人と同じ空間で安全に働くための認証制度も未整備。さらに、複雑な作業を行う器用さや、実運用に耐えるコスト削減も大きな課題として残っている。
■中国が握るサプライチェーンの優位性
今回の講演で最も印象的だったのは、中国の優位性に関する分析だった。ヒューマノイドの主要部品であるモーター、アクチュエータ、減速機、永久磁石、パワーエレクトロニクスは、EV(電気自動車)産業と高い共通性を持つ。

中国は巨大なEV産業を背景に、
・アクチュエータ
・サーボシステム
・減速機
・LiDAR
・トルクセンサー
・3Dビジョン
などで急速に競争力を高めている。

また、将来的な供給不足が予想される分野として、アクチュエータとセンシングシステムが挙げられた。

AIやGPUだけでなく、「身体」を構成する部品群もまた、次世代の競争力を左右するという見方だ。
■勝者はロボットメーカーとは限らない
マッキンゼーは、2040年までにヒューマノイドを含む汎用ロボティクス市場が約3,700億ドル規模へ拡大すると予測している。

講演を通じて、ヒューマノイド競争はロボット本体の競争だけではない、ということがクローズアップされた。
AIモデル、シミュレーション、データ収集基盤、部品供給網、システムインテグレーション、運用サービスなど、ヒューマノイド時代の勝者は、必ずしもロボットメーカーとは限らない。
むしろ、アクチュエータや減速機、センサーといった「身体」を支えるパーツ産業や、それらを統合するエコシステム、フィジカルAIに活用できるデータ等が大きな価値を握る可能性もある。
Humanoids Summitの講演では、ヒューマノイドが研究テーマから産業政策の対象へと変化していることを明確に示したと言えるだろう。







