マッキンゼー・アンド・カンパニーは2026年8月13日、AIを搭載し、経験を通じて学習しながら多様な環境で幅広い作業を担う「汎用ロボット」への移行が、日本のロボティクス産業にもたらす機会と課題を分析したインサイト「汎用ロボットが切り拓く、日本の1,000億ドル市場」を発表した。インサイトは同社Webサイトで8月4日に公開されている。(※冒頭の画像は編集部で作成)
今回の発表で重要なのは「日本のロボット産業が衰退した」という視点ではなく、「ハードウェアでは依然として強みを持つ日本が、AI・ソフトウェア・データを競争力の源泉とする新たな競争軸へ転換し、実環境への展開をいかに速く、大規模に進められるか」という指摘だ。
■汎用ロボット市場は2040年に3,700億ドル規模へ
世界のロボティクス市場は、特定用途向けの専用機を中心とした時代から、AI・ソフトウェア・データを競争力の源泉とする時代へ移りつつある。
マッキンゼーの試算では、汎用ロボット市場は2025年時点で10億ドル未満だが、2040年には約3,700億ドルへ拡大する見込みだ。一方、従来型の産業用ロボット市場は年率約3%で成長し、2040年には約800億ドルになると予測している。
注目したいのは、今後のロボティクス市場の成長の大部分を汎用ロボットが担うと予測している点だ。マッキンゼーは、2025年から2040年にかけて従来型ロボットが緩やかな成長にとどまる一方、汎用ロボットは年率約70%で急拡大し、2040年にはロボティクス市場の中心を占めるとみている。

日本政府はAIロボティクス市場全体で2040年に世界市場の3割超、20兆円の獲得を目標としている。マッキンゼーは、2040年の汎用ロボット市場約3,700億ドルのうち、日本企業が30%を獲得すれば、その規模は約1,110億ドルに達するとしており、日本企業にとって大きな市場獲得の機会があると指摘している。
■ロボット密度は世界1位から5位へ後退
インサイトは「日本の逆説」にも触れている。日本はロボット技術の先駆者であり、ヒューマノイド研究でも長い歴史を持つが、現在ヒューマノイド供給企業の上位10社に日本企業は入っておらず、関連特許出願件数でも中国・米国との差が広がっているという。製造業の従業員1万人当たりの稼働ロボット台数を示すロボット密度では、日本は1994年から2009年まで世界首位だったが、2014年に2位、2019年に3位、2024年には5位へ後退した。2024年のロボット密度は日本446台に対し、韓国1,220台、シンガポール818台、中国567台、ドイツ449台となっている。

世界の産業用ロボット生産に占める日本のシェアも、2015年の54%から2024年には29%へ低下した。マッキンゼーは、技術力の不足ではなく「高度な技術を採算の取れる形で、速く、大規模に展開できていないこと」が最大の論点だと指摘している。
■日本企業に迫られる3つの戦略転換
「製品を売る」から「学習し続けるシステムを運用する」へ
現場で得られる運用データをモデル学習へ還流し、性能を継続的に高める「データフライホイール」の構築が競争優位になる。「部品供給」から「モジュール・プラットフォーム提供」へ
演算装置やセンサー、ソフトウェアを統合したスマートジョイントや、安全認証をまとめたパッケージなど、顧客の統合作業を減らす提案に商機がある。「国内で確立してから海外へ」から「当初から世界市場を前提に」へ
国内需要の縮小を踏まえ、製品設計や価格、サプライチェーン、人材、意思決定権限を当初から世界市場を前提に構想する必要がある。
■人手不足対応の社会インフラとしての期待
日本では今後20年間で労働人口が約1,500万人減少すると予測されており、人手不足は製造業だけでなく介護、物流、外食、建設、農業などへ広がっている。マッキンゼーは、汎用ロボットは単なる産業政策上の成長市場ではなく、サービス供給力や地域インフラを維持するための選択肢にもなり得ると位置づけた。特に介護・医療、点検、防衛、不発弾処理など、品質・安全性・信頼性が重視される用途では、日本企業が長年培ってきた強みを発揮できる可能性があるとしつつ、規制や安全基準、責任所在、プライバシー、サイバーセキュリティを含む社会実装のルール形成が不可欠だとしている。
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