記者向け成果発表会では、13プロジェクト・14社が登壇した。各社の取り組みは、ロボット本体の開発から基盤モデル、学習データ、シミュレーション、具体的な現場への導入まで幅広い。以下、発表順に紹介する。
■アトム 国産ヒューマノイドの全身制御とVLA学習を検証
2025年11月創業のアトムは、国産ヒューマノイドの開発、生産、社会実装に加え、ロボットの頭脳となる基盤モデルと学習データの収集基盤まで一体で手がける。今回のプログラムでは、ヒューマノイドの歩行・全身制御、テレオペレーションによるVLA学習、人の一人称視点で撮影したエゴビューデータによるVLA学習の3テーマに取り組んだ。

歩行制御ではNVIDIA Isaac Sim、Isaac Lab、MuJoCoを使ってシミュレーション上で学習し、通常歩行と早歩きを実機で確認した。物流現場の仕分けを想定したVLAでは、人が遠隔操作して収集したデータを学習させ、無人で動作させるところまで進め、8月28日には24時間の連続稼働デモを完走した。

一方、エゴビューデータだけによる学習は難航したが、テレオペレーションのデータと組み合わせることで学習が進むことを確認した。今後は200台規模のヒューマノイド、30万時間のデータ、数十億パラメータの基盤モデルによって、ロボット基盤モデルのスケーリング則の検証を目指す。
■オムロン サイニックエックス 理解し、行動し、失敗から学ぶAIへ
オムロン サイニックエックスは、ロボット自身が状況を理解して行動し、結果を振り返って改善する仕組みを目指した。現在のフィジカルAIは、人がAIの能力を評価し、行動データを用意し、巨大なモデルを構築する必要がある。この負担を減らすため、「理解」「行動」「振り返り」に対応する3つの研究成果を発表した。

動画理解の評価では、規模の大きなAIでも時間の前後関係を取り違えやすく、自らが生成した誤りを見逃す傾向があることを示した。行動生成では、小規模なVLMの言語理解能力を活用し、VLAへ適応させる手法「CLAP」を提案。さらにロボットが動作中の失敗を検出し、その理由を言葉で説明して次の改善につなげる仕組みも示した。AWSのGPUリソースを約3カ月利用し、関連する特許出願と論文投稿を計3件行ったという。3つを一連のループとしてつなぎ、より小さく、速く、低コストで自己改善できるロボットAIを目指す。


■ZEALS 半年でヒューマノイドの垂直統合へ
ZEALSは、3月のプログラム採択時には中国製ロボットを使ったソフトウェア開発を中心としていたが、約半年で準国産コンパクトヒューマノイド「D1」、ヒューマノイド専用統合OS「Omakase OS」、マニピュレーション向けAIモデル「Omakase Zen」をそろえ、ハードウェア、OS、AIを垂直統合する体制を構築した。

AWSはOmakase Zenの中核となるデータパイプラインの構築を支援し、分散学習への対応とデータ変換の10倍高速化を実現した。D1は発表会直前の8月26日から28日まで重工大須病院で稼働し、自律移動、軽量物の運搬、配茶機の操作、レクリエーションの進行、下膳補助などを実施。3日間で35時間稼働した。

ZEALSは2026年度内に100台を量産し、現場で計1万時間稼働させる目標を掲げる。D1と同社が現場データを重視する理由については、別記事で詳しく紹介する。
■ダイフク・JDSC 自然言語の指示で未知の商品を97%仕分け
ダイフクとJDSCは、物流現場の完全無人化に向け、作業者が自然な言葉で指示するとAIエージェントが手順を組み立て、ロボットを制御する仕組みを開発した。物流では入荷から出荷までの各工程に人の判断や手作業が残り、従来の自動化設備は事前登録した対象しか扱えないことが課題になっている。

今回の仕組みでは、「棚Aの3段目に商品を2個補充して」といった指示をAIが認識、把持、配置などの単位に分解する。ロボットの基本動作と安全条件はあらかじめ用意し、各工程の成否を判定して、失敗時には該当する作業だけをやり直す。Amazon SageMaker AIによる学習から、テスト済みのソフトウェアを自動展開するCI/CDまでをAWS上に統合した。シミュレーションでは、学習していない商品と仕分け先の組み合わせ100回のうち97回で適切な仕分けに成功した。今後は実機での検証へ進む。

■竹中工務店 建設現場の壁塗りをVLAで学習
竹中工務店は、建設業に特化したVLAを開発し、ローラーによる壁の塗装作業を検証した。建設業では投資額の増加が見込まれる一方、日本建設業連合会は2035年度に技能労働者が129万人不足すると予測している。人手不足を補うロボットの開発が狙いである。

現場で実機を使って十分なデータを集めることは難しいため、AWS上にNVIDIA Isaac Simを使った環境を構築し、遠隔操作によるデータ収集、VLAのファインチューニング、検証を一貫して行えるようにした。建設現場で使うローラーなどの3Dデータが存在しないことから、生成AIを使って道具のデータを用意し、実際の建設現場を3D Gaussian Splattingで再現した。1時間未満の操作データでGR00T N1.7を調整し、塗装動作の精度は現時点で10~15%程度。データ不足と、シミュレーションの学習結果を実機に移すSim2Realが今後の課題となる。

■Telexistence ロボット行動の大規模事前学習なしで成功率86%
Telexistenceは、動画生成モデルを基盤として世界の変化を予測し、行動を生成するWorld Action Model(WAM)の軽量化に取り組んだ。

大規模なWAMは将来の状態を映像として予測できる一方、推論に時間がかかり、店舗でリアルタイムに動かすことが難しい。そこでDiffusion Transformer(DiT)を中心とする10億パラメータのモデルを自社開発した。

AWS上には、実機とシミュレーションのデータ蓄積、複数GPUによる分散学習、チェックポイント管理、Isaac Simを使った閉ループ評価、実機テストまでをつないだパイプラインを構築した。
設計の異なるモデルを同時に走らせ、同じ条件で比較できることが検証の高速化につながった。自社モデルは、大量のロボット行動データによる事前学習なしでタスク成功率86%を記録。事前学習済みの「π0.5」の80%と同等以上の水準に達した。基盤モデル開発の初期段階で必要となるデータ量とコストを抑えられる可能性を示す成果である。

■野村総合研究所 実機、シミュレーション、人の作業データを並行検証
野村総合研究所(NRI)は、実機ロボット、real2sim2real、一人称視点データという3つの方法を並行して検証した。実機では、リーダー・フォロワー方式の遠隔操作で集めたデータからVLAを学習し、ペットボトルのピッキングに成功した。

real2sim2realでは、実環境を撮影して3D空間を再構成し、シミュレーションでデータ収集と学習を行った。実環境とシミュレーションで映像の質感が異なる問題を改善し、仮想環境で学んだモデルによって実機を動かせる可能性を確認した。さらに人の一人称視点で記録した作業データからもロボットAIを構築できることを確認。将来は、現場スタッフが普段の作業を記録することで、ロボット導入に必要なデータを低コストで集めることを目指す。AWS上にはデータ収集、共有、モデルの学習、評価までの環境を整備した。

■Highlanders 国産ヒューマノイドと100億パラメータWAMを開発
Highlandersは、四足歩行ロボットとヒューマノイドを、機体、AI、量産まで一体で開発するスタートアップである。危険・過酷な現場の移動を四足歩行ロボット「HLQ PRO」、その先の作業をヒューマノイド「N」が担う構想を掲げる。

今回、100億パラメータのWorld Action Model「Kepler」の開発を支えるパイプラインをAWS上に構築した。テレオペレーションで収集する大量の動作データを処理するデータ基盤、Isaac Simを並列実行して例外的な状況を補う合成データ生成、大規模GPUクラスタによる学習を接続。24時間365日、モデルを学習し続けられる体制を整えた。Keplerは時間をかけて計画する層と、高速に反応する層を組み合わせ、量産したロボットから集まるデータで自己改善する構成を採る。ヒューマノイド「N」と三菱自動車工業との量産構想は、別記事で詳報する。

■FastLabel シミュレーションデータで成功率が平均14.2%向上
FastLabelは、少量の軌道データから大規模な学習用データセットを作るシミュレーションデータパイプラインを構築した。ロボットを実際に動かすデータ収集は時間も費用もかかるため、フィジカルAIのスケールを阻む大きな課題となっている。

まずIsaac Sim上で実機と同等のロボット環境を構築し、遠隔操作で90エピソードの軌道データを収集。MimicGenで約100倍に拡張し、失敗データを除いた1万エピソードを生成した。さらに物体や背景の色、照明条件などをランダム化し、実データと混ぜて学習した。その結果、実データだけで学習した場合に比べ、タスク成功率は平均14.2%向上し、データ収集時とは異なる環境でも一部動作の達成率が上がった。

一方、シミュレーションデータが最も多い条件では精度低下も見られ、仮想環境への過適合が今後の検証課題となる。データ収集コストを抑えながら性能を高められる可能性を数値で示した。
■豆蔵 VLAと従来制御を組み合わせ、板金整列で成功率85%
豆蔵は、ヒューマノイドによる板金部品の整列作業にVLAを導入した。上半身の制御では、遠隔操作で359エピソードを集め、NVIDIA Isaac GR00T N1.7をファインチューニングした。ただし視覚情報だけでは部品や床との衝突が発生したため、力制御を併用した。

ばら積みされた板金を取り出す動作はVLAだけでは成功率が上がらなかった。そこでピッキングは従来のルールベース制御、整列はVLAというハイブリッド構成を採用し、上下方向の整列で85%、左右方向で80%の成功率を達成した。下半身ではIsaac Labによる強化学習で、メーカー標準の制御ではできなかったしゃがみと前傾を実現。さらに全43自由度のうち作業に必要な10自由度に絞り、わずか43エピソードで全身動作を学習させた。

すべてをVLAに任せず、従来制御と適切に分担することが産業利用では現実的だとする発表であった。
■MW(ムウ)、家に組み込むロボット 年間5万時間の家事データを収集
住宅開発を手がけるMWは、住宅そのものに組み込むガントリー型の半人型ロボット「MW bot」を開発している。

同社のスマートホーム基盤「MW intelligence」は照明や空調を自動制御するが、片付けなど物理的な家事は人が担っている。そこで、人のように動きながら家具のように住空間へ溶け込むロボットによって、家事の自動化を目指す。

家事は環境や対象物が変化する非定型作業であり、学習データが不可欠となる。MWは五反田TOCビル内にデータ収集施設「Data Factory」を設け、年間5万時間の家事データの収集を開始した。最終的には2.5PBのデータを集める計画である。本プログラムではVLAのファインチューニングまでを実施。日々集まるデータをAmazon S3へ保存し、Amazon SageMaker HyperPodでモデルを学習、生成したモデルをMW botで検証して再び学習へ戻すサイクルを構築した。

■メルカリ 靴の検品を双腕ロボットで自動化へ
メルカリは、越境取引の拡大に伴って増える倉庫での検品・出品作業の自動化に取り組んだ。海外向けの商品は国内の自社倉庫で検品する必要があり、検品はほかの工程の約10~60倍の時間を要するという。まずは形状のばらつきが比較的小さい靴を対象に、箱を開け、靴を取り出し、全面を確認して戻し、箱を閉じる一連の作業を双腕ロボットに学習させた。

現在のVLAが抱える、力加減の不足、カメラ視点への依存、データ収集の難しさに対し、力覚・触覚の追加、異なる視点の映像を学習時の視点へ変換する処理、力や触覚も記録できる操作デバイスを導入した。発表では、60時間分のデータで学習したロボットが靴を取り出して撮影し、箱へ戻すデモを披露した。

2026年度中の実証を目指して製品設計を進め、2028年には自社倉庫の約20%を自動化し、年間最大2億円のコスト削減を目指す。
■リコー 共通の行動表現で3種類のロボットを動かす
リコーは、ロボットの種類が変わるたびにデータ収集と再学習が必要になる課題に対し、機体に依存しない共通の行動表現を学習するLatent Action Model(LAM)を検証した。ロボットや人の動画から「物を持つ」「前進する」といった意味的な動作を共通表現へ変換し、機体ごとに出力部分だけを適応させる考え方である。

AWS上にH100を8基搭載するGPUインスタンス5ノードの学習環境を構築し、1回の試行を約4日、モデル改良を週1回のペースで回せる体制を整えた。URアーム、Unitree G1、SO-ARM101の3構成をシミュレーションで動作させ、Unitree G1では実機でも自社部品のピックアンドプレースを確認した。公開ベンチマークLIBERO-10では、LAMを組み込んだ20億パラメータのモデルが81.5ポイントを記録し、LAMなしの70億パラメータモデルの81.3ポイントと同等の性能を示した。モデルを約3分の1に小型化できれば、ロボット側へ搭載しやすくなる。

■見えたのは「万能モデル」ではなく、現場に合わせた組み合わせ
13プロジェクトの成果を通して見えてきたのは、巨大なVLAを導入すればロボットの課題が一挙に解決するという未来ではない。
豆蔵は、VLAだけでは難しかった板金のピッキングをルールベース制御に任せ、整列にVLAを使った。ダイフクとJDSCも、安全条件と基本動作はあらかじめ定義し、その場の状況に応じた手順の組み立てをAIに担わせた。竹中工務店は、現場固有の道具の3Dデータが存在しないため自ら作成した。メルカリは、ロボットを投入した効果が大きい検品工程を選び、自社倉庫を実証環境にする。
つまりフィジカルAIの実用化には、AIモデルの性能だけでなく、どの作業を対象にするか、どのデータを集めるか、従来制御とどう分担するか、安全性をどう担保するかという現場側の設計が求められる。一方で、実機だけでは集めきれないデータをシミュレーションで増やし、複数GPUでモデルを学習し、条件をそろえて評価するには大規模な計算基盤が欠かせない。

AWSジャパン プリンシパル スタートアップ ソリューションアーキテクトの針原佳貴氏は、今回の成果を「スピード」「現場の力」「クラウド」の3点から総括した。プログラム終了後も、フィジカルAIの支援は「生成AI実用化推進プログラム」に統合して継続する方針を語った。







