介護ロボット(2) 会話・クイズ・体操、高齢者施設のレクの主役は会話ロボット【サービスロボット最前線 / 初級ロボット講座 第3回】

ロボット業界を短時間で把握する連載企画「サービスロボット最前線」。

前回「介護ロボット(1) 高齢者介護施設で導入が進む」では、介護現場でも活躍するロボットたちを紹介しましたが、会話ロボットは実際にどのような会話をするのでしょうか。
また、人間のスタッフが対応するのと、どのような違いがあるのでしょうか。

今回は、コミュニケーションロボットたちのソフトウェアに注目して、具体的な事例やコミュニケーションの方法を紹介します。

高齢者施設や介護施設でのロボット導入が進む


昔の風景を見ながらロボットと話が弾む

前回も触れましたが、「Pepper」や「PALRO」などのコミュニケーションロボットが介護の現場でできることと言えば「おしゃべり」です。

ただのおしゃべり? と思うかもしれませんが、高齢者にとっておしゃべりは健康のバロメータのひとつ、何かを思い出しながら積極的に会話をすることで、認知症の予防に繋がるという説もあります。
また、やることがたくさんある介護現場のスタッフにとっては、ロボットが高齢者とおしゃべりしてくれている間に、他の仕事に従事することができます。

では、ロボットとどんな話をするのでしょうか。
例えば、Pepperの胸にあるタブレットに昔の懐かしい風景画を表示すると、高齢者でなくとも、それについて話したくなりますよね。わたし(著者)も幼少を高度経済成長期に過ごしたので、昔の風景をみると感慨深いものがあります。そんな絵を高齢者に見てもらうことで当時のことを語りあって話を弾ませようと考えたアプリが「ケア樹for pepper」(グッドツリー社)です。下記のような「ミッケルアート」を表示し、昭和の思い出、大家族でちゃぶ台を囲む風景や、渓流の滝に飛び込んで遊ぶ子供たちの風景が遠い記憶を呼び覚まし、それが認知症予防に繋がるのでは、と考えられています。

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レクリエーションの主役はロボット

高齢者介護施設では「レクリエーション」(通称レク)の時間が設けられています。ホールのような場所に集まって、みんなで歌を歌ったり、健康体操をしたり、クイズをしたり。中には楽器を演奏したりするところもあり、高齢者たちにとって元気と活気に溢れた時間となっています。その司会進行役、MCをロボットが努める事例が増えています。

エクシングは高齢者向け音楽療養コンテンツ「健康王国」を提供しています。エクシングはカラオケの「JOYSOUND」で知られる会社。高齢者みんなでカラオケを歌ったり、音楽に合わせて体操をしたり、懐かしい昭和のニュース映像を見たり、クイズやあやとり、おりがみなどのコンテンツも用意しています。この「健康王国」の主要機能とPepperを連携したアプリが「健康王国レク」です。

また高齢者との対話機能に特化した「健康王国トーク」も発売されています。Pepperの顔認識機能を使って、施設利用者一人一人の顔と名前を覚えさせることができます。「Pepper」が顔認識で個人を覚えることで、個別なシナリオで対話したり、個々人のスケジュールに合わせて食事や入浴の時間などを会話の中で知らせることができます。

「健康王国レク」のアプリ構成図 (ソフトバンク公式ホームページより)


いきいき脳体操をPepperと

介護施設向けに開発されたものでは、フューブライト・コミュニケーションズの「Pepperアプリ」が知られています。

「川島隆太教授のいきいき脳体操アプリ」(脳のトレーニングゲーム)
仙台放送では2004年から脳のトレーニング番組「川島隆太教授のテレビいきいき脳体操」を制作しています(ニンテンドーDSの「脳トレ」を覚えている人も多いと思いますが、あれを監修した川島隆太教授です)。これはテレビを見るだけで脳が活発に働く世界初のテレビ番組で、それをPepperに組み込み、Pepperがリードしてレクの時間にみんなで脳体操をしよう、というのがこのアプリです。

「りつ子式高齢者レクササイズ」(身体を動かす体操アプリ)

もうひとつは高齢者のための健康体操をテーマにしたロボアプリ「りつ子式高齢者レクササイズ」です。
余暇問題研究所の山崎律子先生が考案した高齢者レクリエーションメソッドをもとに Pepper を使って、デイサービスなどの比較的軽度の要介護者を対象として、リズム体操、歌いながらの体操、脳を使いながらの体操などのメニューが備わっています (「川島隆太教授のいきいき脳体操アプリ」には「りつ子式高齢者レクササイズ」が含まれています)。

下記の動画を見ると利用のイメージがわかると思います。(「りつこ式レクササイズ」のみ販売もされています。いずれもPepper for Biz)


■ペッパーと行う脳のトレーニング「いきいき脳体操」

実はこの「川島隆太教授のいきいき脳体操アプリ」、海外でも高い評価を受けています。Pepper向けロボットアプリのコンテスト「Pepper Innovation Challenge 2015」で「最優秀賞」を受賞しただけでなく、アジア太平洋地域の「高齢者ケア・イノベーション・アワード」の「Best Wellness Programme」部門で最優秀賞を受賞し、アジアで広く認められました。

アジア太平洋地域の「高齢者ケア・イノベーション・アワード」の「Best Wellness Programme」部門で最優秀賞を受賞。仙台放送 太田茂氏、フューブライト・コミュニケーションズ 近藤幸一氏(photo by Ageing Asia Pte Ltd)

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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