Googleからソフトバンクの手に渡った東大発のロボットベンチャー「Schaft(シャフト)」とは?

ソフトバンクは本日ボストン・ダイナミクスの買収を発表した。こちらの記事にもある通り、Googleの親会社であるAlphabet傘下のロボット開発会社だ。

そして今回の発表の中で、もう一社買収を発表した企業がある。それが日本発のロボットベンチャーで、同じくGoogleに買収された過去をもつSchaft(シャフト)だ。

Schaftの話題は一般のニュースの中では埋もれがちだろう。世界的に見ても、数々のロボットを発表してきたボストン・ダイナミクスの方が知名度が高く、それは日本においても同様だ。

しかしこのSchaftの技術力の高さは世界中が認めている。今回の記事では、このSchaftという会社に迫ってみたい。



Google、そしてソフトバンクに買収されたSchaftとは?

Schaftは、2012年に設立された、東京大学の情報システム工学研究室発のベンチャー企業。二足歩行ロボットの開発を行う会社だ。2013年11月にGoogleによって買収された同社は、2013年12月に行われた「DARPA Robotics Challenge」の予選を他を寄せ付けない技術力で最高得点で通過した。

DARPA Robotics Challengeとは、アメリカ国防総省の機関である国防高等研究計画局が主催した災害救助用のロボット競技大会。世界中の大学の研究室やロボット開発企業など、名だたるチームが参加した大会である(シャフトはその後、本戦での優勝も期待されていたが、本戦には出場しなかった)。その大会において予選をトップ通過したSchaftは、当時最も優れたロボット開発会社だと賞賛された。

ロボットの開発には資金がかかる。そこに助け舟を出したのがGoogleのアンディ・ルービン(Andy Rubin)だった。アンディ・ルービンは、Android OSを開発するAndroid社を創業、Googleに売却したのち、Googleの技術部門担当副社長として活躍した人物だ。

アンディ・ルービンは当時Schaftの技術を見てすぐに出資を決めたのだという。即決をした海外勢に対して、出資を行わなかった日本のVC。この経験から、シャフトの元CFOである加藤氏は、日本のベンチャー・キャピタルに対する不満をこちらの記事の中で吐露している。

日本のベンチャーで成功したと言われている企業や新興市場に上場した企業は、モノマネベンチャーのオンパレードなのです。リスクを取って、巨額の先行投資をし、自分の腕一本で新しい産業や市場をこじ開けてやろう、という気概に満ちたベンチャーキャピタリストなど、日本では皆無だと思います。

イノベーションの最前線 東大発ベンチャー・シャフト元CFO激白 世界一の国産ロボットはなぜグーグルに買われたのか 「支援する枠組みは行政に無い」――日本からジョブズが出現しないのはなぜか|文藝春秋SPECIAL|加藤 崇(株式会社加藤崇事務所代表)|本の話WEBより引用

記事を読んでもわかるように、当時は日本のVC及び大手企業は、新しい技術に対して出資をすることに抵抗感があったようだ。その姿勢自体は今も変わっていないのかもしれない。

しかし、そんな中でソフトバンクはその「Schaft」を「Google」(正確には親会社の「Alphabet」)から買収した。日本にSchaftという会社が再輸入された格好となった。



過去に発表されてきたSchaftのロボットたち

ここでSchaftの技術がわかる動画を改めて紹介していきたい。まずは2012年5月に公開されたIEEE Spectrum制作の動画だ。動画ではロボットを蹴っても倒れない技術が紹介されている。記事の中にも記載があるが、動画に映っている方はシャフトの創業者の一人浦田順一氏である。



その後2013年12月にDARPA Robotics Challengeで予選トップ通過を果たすことになるが、その出場直前にSchaftはYouTubeチャンネルで同社のロボット技術を紹介する動画を公開した。それが以下の動画だ。

「DARPA Robotics Challenge」では8種目の競技種目が用意されていた。瓦礫をどかす作業から、自動車の運転、足場が悪い場所の歩行などだ。自動車の運転技術など、いくつかの競技においては「準備期間が足りない」と辞退するチームも多かった中で、これらを全て完璧にこなしていく様子が収められたこの動画は、世界中から衝撃と賞賛を持って受け入れられたようだ。

この動画で示された技術力を発揮したSchaftは、「DARPA Robotics Challenge」の予選で他を圧倒することとなる。1種目あたりの最高得点が4点で、8種目の合計最高点が32点という中、1位のシャフトは27点を獲得。2位のチームが20点だったことを考えると、かなりの高得点だったことが伺える。(参考:DARPAロボティクス・チャレンジ第2日。来年の決勝戦へ進む8チームが決定 | robonews.net

その後Googleに買収されてから、公の場にロボットが登場することはなかったが、昨年4月8日に行われた「NEST2016」にて、驚くべきロボットを発表した。

このロボットは従来の二足歩行ロボットの常識を覆すような無関節のロボット。左右についた脚を上下することで体を移動させる。

不安定な足場でも家の中の狭い階段でも登っていく様子に、日本だけでなく世界中のロボットファンが心踊ったはずだ。


NEST2016に登壇し、ロボットを披露したシャフトの中西雄飛氏


ソフトバンクが買収した目的は?

ARM買収後、「Softbank World 2016」での孫正義氏によるプレゼンの様子

このイベントへの登壇を最後に、シャフトが公の場でロボットを披露することはなかったが、ボストン・ダイナミクスと同様、トヨタが買収するのではないかという噂が囁かれていた。

だが、結果買収したのはソフトバンクだったのである。

今回、ボストン・ダイナミクス、そしてシャフトを買収したことによる次の一手は誰もが気になるところだろう。なぜなら、この買収は他の買収とは意味合いが違うからだ。ARMの買収も、スプリントの買収も、その企業のビジネスモデルが確立しており、長期的に見たときのリターンやシナジーを多くの人が想像できた。

しかし今回は違う。ボストン・ダイナミクスもシャフトも優れた技術は持っているものの、それをビジネス活用する道筋はまだ出来上がっていない。これから先、アルデバランを買収した時のように「新たなロボット」を開発する方向に進むのか、それとも「Pepper」に技術を組み込むのか。

今後発表されるであろう次の一手は、日本人のみならず世界中の人々の関心の的になるはずだ。

今日という日は、「振り返ればソフトバンクにとって大きな節目だった」と言われる日なのかもしれない。

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ロボットスタート株式会社

ロボットスタートはネット広告・ネットメディアに知見のあるメンバーが、AI・ロボティクス技術を活用して新しいサービスを生み出すために創業した会社です。 2014年の創業以来、コミュニケーションロボット・スマートスピーカー・AI音声アシスタント領域など一貫して音声領域を中心に事業を進めてきました。 わたしたちの得意分野を生かして、いままでに市場に存在していないサービスを自社開発し、世の中を良い方向に変えていきたいと考えています。

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