散らかった部屋をロボットが片付けてくれる未来 WRS「サービスカテゴリー」ってどんな競技?競技委員長に聞く / World Robot Summit 2018

経産省とNEDOが主催する国際的なイベント「World Robot Summit 2018」(WRS)が21日(日)まで東京ビッグサイトで開催されている。競技の中でも最も身近なカテゴリーが「サービスカテゴリー」だ。今回はサービスカテゴリーとはどんな競技なのかを解説したい。また、CEATECで話題となっているPFNの片付けロボットとどう違うのかも注釈しておきたい。


サービスロボットカテゴリーには大別すると、一般家庭の家の中が舞台の「パートナーロボットチャレンジ」とコンビニが舞台の「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」がある。

子ども部屋のオモチャを片付けてくれるロボットがいてくれたら・・「パートナーロボットチャレンジ」リアルスペース

パートナーロボットチャレンジのコンセプトは「人間とロボットが協働できる生活環境を実現すること」。家庭の中で働くロボットがテーマとなっている。なお、パートナーロボットチャレンジには実際のロボットを使用する「リアルスペース」部門と、コンピュータ上の仮想空間(シュミレーター上)で行う「バーチャルスペース」部門の2つがある。

競技の舞台はディスプレイの中・・「パートナーロボットチャレンジ」バーチャルスペース

実況と解説者の中継もディスプレイを見ながら「パートナーロボットチャレンジ」バーチャルスペース

コンビニを舞台にした「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」。現在のコンビニの業務をロボット化するのではなく、ロボットによる未来のコンビニをイノベーションする競技



散らかった部屋を片付ける競技「お願い、部屋を片付けて」

リアルスペース部門では、家庭のリビングルームやダイニングルームを模したセットが用意され、トヨタ自動車のロボット「HSR」を使って競技が行われる。
18日は「お願い、部屋を片付けて」競技が行われた。ひと言で言えば、散らかっている部屋を片付けるステージ1と、テーブルに乗っているものをつかんで所定の位置にしまうステージ2が行われる。

Stage1:子供部屋の散らかったおもちゃをおもちゃ棚の所定の場所に片付ける
Stage2:リビングとダイニングの散らかった物をユーザに確認しながら捨てるor片付ける

「こども部屋を片付けて」ロボットに仕事を指示するところからはじまる。声で指示してもいいし、この写真のようにQRコードで指示を読み込ませてもOK

指示を受けたロボットは子ども部屋へ。ところがそこには難関が。子ども部屋のドアを開けて入らなければならない。これも加点のひとつ。(ロボットの行動としては簡単ではないので、ドアを開けることを最初から諦めて時間を節約しようという作戦に出るチームもある。その場合は人間が代わりにドアを開けてあげる)

子ども部屋には散らかったおもちゃが・・ロボットはおもちゃを認識してつかみあげる

つかみ挙げたら、おもちゃの種類によって所定の棚に入れて片付けなければならない。写真で手に持っているのは音の鳴るオモチャ。間違った棚に入れたとしても、棚に入れれば少しだけ得点になる

次のおもちゃをつかみあげるロボット。「そこ持つと苦しそう」という観客の声・・それは、ご愛嬌

Stage2はテーブルの上に置かれた日用品や食品を所定の位置に片付けるタスク。

片付ける前に予め冷蔵庫を開けておくチームも

冷蔵庫に入れる食品を把持して

無事に冷蔵庫の中に入れられた。このあときちんと冷蔵庫を閉めると観客から大きな拍手が・・

さまざまな項目をクリアするごとに加点されるしくみで、150点満点。概ね20〜40点を獲得するチームがあったが、加点0のチームもあった。

■ 会場では実況と解説付きで観戦できる(動画)


競技委員長に見どころを聞く

「パートナーロボットチャレンジ」の概要と見どころをサービス競技委員会 委員長に聞いた。

サービス競技委員会 委員長、玉川大学 工学部情報通信工学科 教授の岡田浩之氏

編集部

WRSとしては初めての大会ですが、始まってみて得点の経過などはどう感じていますか?

岡田氏

成功して当たり前の企業によるデモンストレーションではなく、「競技」なので失敗することを想定して行われています。今大会は平均が30点前後、2020年で50点程度が想定内です。それをきっかけに、その先の将来にかけてロボット技術が加速していくと考えています。



※編集部の解説
CEATECで展示されたPreferred Networks(PFN)の「全自動お片付けロボットシステム」が注目されていることはロボスタでもお知らせした通り(記事「PFN、圧巻の「全自動お片付けロボットシステム」をCEATECで展示へ」)。PFNによるデモとこの競技と比較する読者も多いかもしれないが、それは技術的に見ればいささか的外れだ。

PFNの展示は筆者も見たが、素晴らしいデモンストレーションだった。ロボットがいる未来の家庭を描いた、ある意味でお片付けロボットのゴールとなる姿にワクワクした。しかし、注意すべきは、PFNのデモはこの競技と同じロボット「HSR」が片付けをしていることは間違いないが、画像の認識や判別処理など、知的な部分のほとんどはバックヤードのPC(GPUサーバ)が行っているシステムだ。膨大な通信帯域を使い、GPUフル稼働で実現している。一方、こちらの競技で競われるのはほぼロボット単体での技術だ。競技のHSRは背中にノートパソコンを背負って、知能の拡張を図っている(PFNのHSRはバッテリーを背負っている)。見た目は同じロボットが片付けをしている景色でも、両者は全く異なる技術で課題に取り組んでいるのである。

編集部

今回は競技者チームはどの部分でつまづいているケースが多いですか

岡田氏

照明やライト、灯りに対するチューニングですね。逆光や反射など、通常は様々な状況に合わせてチューニングしていきますが、競技では数日前に現場に入って、限られた時間でその最適化が求められます。モノを認識したり識別するために大切な目のチューニングが如何に的確に行えるか、ということになります。

編集部

モノをつかむ技術についてはどうですか?

岡田氏

それほど大きな違いはほとんどのチームでは見られないですね。HSRの標準機能をそのまま活用しているチームが多いです。ただし、HSRの腕の動きが全く異なるチームがありますから注目してみてください。ユニークな軌道修正の動きが見られます。

編集部

これから足を運んでくれる観客にメッセージをお願いします

岡田氏

ロボットが家庭にいる将来の姿を想像しながら観戦して欲しいと思います。たいそうなことではなく、人々が普段行っている片付けやモノを取ってくるようなこと、そんな他愛もないことをロボットがやってくれている未来のシーンってどんなだろう、と。特に「片付け」タスクには、いろいろな業務の基本となる技術がたくさん詰まっています。片付けがきちんとできるようになれば、洗濯やクッキングができるロボットへの進化も一気に加速するのではないでしょうか。観客のみなさんにはそんな未来を想像しながらご覧になって欲しいですね。


これからの予定

17日と18日の競技は30分ごとに1チームずつ行われた。19日は「あれ、取ってきて」競技が行われる。この競技は2チームが同時進行で行われ、各チーム1日2回のトライになる予定だ。「お願い、部屋を片付けて」と「あれ、取ってきて」競技で高得点を獲得すると、20日(土)午後のファイナル(決勝)に進むことができる。ファイナルは「Robotics for Happiness」に関連した自由な発想のプレゼンテーションとデモンストレーションが行われる競技となる。
また、21日(日)の朝にはエキシビジョンが予定されている。「あれ、取ってきて」や「お願い、部屋を片付けて」で高得点を獲得したチームがもう一度登場し、高得点を獲得した実演が見られる予定だ。



WRSの各カテゴリーの競技の様子はYoutubeで中継配信も行われている(アーカイブとしても視聴できる)ので、現地に行けない読者はYouTubeで観戦できる。

https://www.youtube.com/channel/UCPIi946f5n4X2ZRZdrWb8Ng

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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