国際大会のWRS「ジュニア競技」ってどんなことするの? ロボットがいる将来の生活とプログラミング教育 競技委員長に聞く / World Robot Summit 2018

経産省とNEDOが主催する国際的なイベント「World Robot Summit 2018」(WRS)が東京ビッグサイトで開催されている。
今回はジュニアカテゴリーにフォーカスしよう。ジュニアカテゴリーは19歳以下の参加者で競う競技だ。

ジュニアカテゴリーの「ホーム」。自作のロボットで競技にのぞむ

ジュニアカテゴリーには「ホーム」と「スクール」がある。人とロボットが協力しながら生活する家庭を想定した「ホーム」競技は、自分たちが作ったロボットを使う。一方、「スクール」競技はソフトバンクロボティクスの「Pepper」を使う。「もしも学校にロボットがいたらどんなだろう?」と想像力とアイディアを働かせながら、子ども達は大会前の4日半というわずかな期間でプログラムを作って競う競技となっている。

ジュニアカテゴリーの「スクール」。Pepperを使ってアイディアとプログラミング技術で競う


スキルチャレンジに苦戦

スクールチャレンジについてもう少し詳しく解説しよう。
18日は「スキルチャレンジ」が行われた。各チームには4つの課題が与えられる。1日に3回、10分間(合計30分間)が各チームの競技時間だ。好きな課題でチャレンジすることができる。

スキルチャレンジの例。青いシートから黄色のシートへ、人についてPepperを移動させる。挑むのはチーム「SMILE」。

声で指示をする。Pepperは聞き取ってくれたようだ

Pepperは人を追いかけて黄色いシートの上に移動した!次はPepperが人を誘導して青いシートに戻る

チーム「SMILE」はこの日3回目のトライで成功したが、1~2回目はうまくいかなかった。また、大きなアルファベットの文字を読むタスクもあったが、SMILEチームのPepperは2文字読めたが、惜しくも最後の1文字が読めなかったという。そのほか、多くのチームがスキルチャレンジには苦戦していたようだ。


アイディアとデモで競うオープンデモンストレーション

19日は「オープンデモンストレーション」が行われた。学校にあるさまざまな課題を子どもたち自身がみつけて「もしもPepperがあったらどんな風にその課題を解決できるだろうか」を自由に考え、プレゼンテーションとデモンストレーションを行う。19日と20日に各チームが1回ずつ行い、競技時間は2分間のプレゼンテーションと5分間のデモンストレーション、計7分で構成されている。


どのような内容かと言えば、例えばオランダチームは、生徒が登校した時に時間割を忘れていた場合、Pepperと顔を合わせるだけで「キミは××教室に行くんだよ」と教えてくれるアプリ。「教室に遅刻しそうな時に便利な機能だけど・・日本人は時間に真面目だから必要ないかな?」とプレゼンテーションして会場を笑わせた。Pepperが遅刻の管理をきっちりしているので、あまりに遅刻が多い生徒には注意文がプリンタ印刷される機能も備えている。

オランダチームの「オープンデモンストレーション」

駐日オランダ王国大使がチームの応援に駆けつけるひと幕が・・

国際大会ならではの光景。選手たちもうれしそう

こちらはチーム「Yamamon Japan」(ヤマモン・ジャパン)。プレゼンテーションは英語で上手に行えたものの・・・


残念ながらこの日はデモができなかった。

「Yamamon Japan」の3人組。高校一年の同級生だ。

競技の後、バックヤードで会った際にチーム名の由来を聞くと、リーダーの「山本くん」の名前とあの「クマモン」を合わせた名前だと言う。更に「でも私たち、広島なんですけれどね(笑)」と笑った。今回はPepperをインターネットサーバーに接続してデモを行う予定だったがその接続でつまづいてしまった。そのため、今日はプレゼンテーションだけで明日にデモを必ず成功させたい、と語った。

「スキルチャレンジ」と2日間の「オープンデモンストレーション」の成績で最終順位が決まる。

■動画 WRS ジュニア競技ってどんなことするの?


新見第一中学校の「SMILE」

先に紹介した「SMILE」は、ソフトバンクグループが今年実施した「Pepper社会貢献プログラム スクールチャレンジ」成果発表会で、みごと中学生部門で銅賞を受賞した新見第一中学校のふたりだ。その時は作品名「買い物をenjoyするために役立つPepper」で出場した。

オープンデモンストレーションを行うチーム「SMILE」

「今日のオープンデモンストレーションでは、Pepperが新しい国語の先生として学校にやってくるお話しです。Pepperが回って戻ってくると主人公(人)とPepperが入れ替わって、Pepperに乗り移っているという設定内容です。声を変えて主人公の気持ちを話したりします」と面白いアイディアで取り組んだことを話してくれた。また明日二回目のオープンデモンストレーションは「今日できなかったもうひとつのプログラムがあるので、それでチャレンジしたい」と語った。

チーム名のとおり素敵な「SMILE」を見せてくれた。新見第一中学校 主幹教諭 藤井幸治氏と。


子どもたちの国際交流の機会「グローバルコラボレーション」

日曜日はエキシビジョンとして「グローバルコラボレーション」が予定されている。これはジュニア出場者たちにとって国際交流の場になる。これまで競い合ってきた3チームが混合で1チームとなり、「オープンデモンストレーション」の形式で自分たちのアイディアとデモを披露する。ここではPepperを3基までデモで使用することができるので、贅沢なパフォーマンスが楽しめるかもしれない。


ジュニア競技委員会 委員長に聞く

ジュニア競技とSTEM教育について、ジュニア競技委員会 委員長の江口愛美氏に聞いた。

ジュニア競技委員会 委員長 江口愛美(Amy Eguchi)氏

編集部

Amyさんはロボカップ2017のジュニア大会も担当されましたが、ロボカップとWRSの違いはどこにありますか?

江口氏

一番の違いは、WRSはロボットと人との「協働」「共存」が強く意識されているところですね。ロボカップはロボットとロボットの競い合い、ロボットを使った技術の競い合いですが、WRSは人とロボットが協力して何ができるだろう、ということがテーマになっています。ロボットと会話したり、人のあとをロボットがついていったり先導したり。ジュニアに参加している選手達が社会に出る頃には、ロボットが家庭や学校に実際にいるかもしれませんよね。そのときのためにも、そんな未来を想像し、どうしていくべきかを今から考えておくことが大切だと思っています。

編集部

将来のサイエンティストやロボティストがこの中から生まれるといいですね

江口氏

はい。ただ、どんな職業に就いたとしても、ロボットが身近な社会になった将来、ここで得た経験が役立つと考えています。例えば、この大会で切磋琢磨した子ども達はきっと、プログラミングや通信、センサーやモーターのことがしっかり理解できているので、将来、家庭や街中にいるロボットの存在に対応できるようなスキルと経験を身につけてくれていることでしょう。

バックヤードで自作ロボットの動きを調整する選手(ホーム)

編集部

日本では2020年からプログラミング教育が義務化されます。Amyさんは米国ブルームフィールド大学の先生ですが、米国のSTEM教育(STEAM教育)の状況はどうでしょうか。

江口氏

アメリカは州によって状況は異なるのですが、カリキュラム化はされていません。その点では英国や日本など、小学生の年齢から高校までコンピュータ・サイエンスをカリキュラムとして組み入れようという動きについてはむしろ先行していると感じています。シンガポールや中国、韓国などがSTEAM教育には特に力を入れている傾向にあるのではないでしょうか。

編集部

会場に見に来られる観客の方にひとことお願いします

江口氏

子ども達はみんなすごく頑張って、ロボットを調整したりプログラミングしています。夜は会場の制限時間の20時まで、朝も9時前から会場が開くのを待って急いで入ってきて取り組んでいます。一生懸命頑張っている成果をできるだけ多くの人たちに見てもらいたいです。
日曜日は「グローバルコラボレーション」ということで、先ほど混合チームが発表され、「新しい仲間たちと話し合いを始めてください」と言ってきたばかりです。国や言語を超えて、協力して頑張っている姿をぜひ観に来てください。

バックヤードでプログラムを確認する選手たち(スクール)



WRSの各カテゴリーの競技の様子はYoutubeで中継配信も行われている(アーカイブとしても視聴できる)ので、現地に行けない読者はYouTubeで観戦できる。

https://www.youtube.com/channel/UCPIi946f5n4X2ZRZdrWb8Ng

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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