ソフトバンクは「RTK測位」技術によって誤差が数センチメートルで測位可能な新サービスを、2019年11月末から法人向けに全国で開始することを発表した。このサービスは農業や建築現場、自動運転やMaaSなどへの活用が見込まれている。
ソフトバンクは提携パートナーとして、ヤンマーアグリ(農機の自動運転やアシスト)、鹿島建設(建設現場管理)、SBドライブ(自動運転)の3社を発表した。各産業での実用化に向けた共同実証を7月から順次行う予定だ。
提供エリアは全国(一部離島は除く可能性あり)。車両などの移動体にも途切れないハンドオーバー機能も提供し、専用の受信機(RTK計算処理機能も内蔵)も提供していく。
高精度な測位が実現できる理由
従来の位置情報サービスの多くは米国の軍事衛星GPSを使用したもので、精度には10〜15m級の誤差があるとされる。
一方で今回発表のあったサービスで高精度な測位が実現できる理由は下記が上げられる。
・GPS以外にもQZSS、GLONASS、Galileoなど、複数の衛星測位システムの総称であるGNSS(Global Navigation Satellite System)が利用できること。
・QZSSとしては、日本が準天頂衛星「みちびき」を複数基打ち上げ、サービス展開したことで、常に日本上空の衛星と通信が可能になり、測位精度が向上したこと。
・ソフトバンクがLTE基地局の一部(3,300カ所以上)に設置する独自基準点(固定局)と通信して、衛星の測位の精度を著しく向上できること
こうしたことから、その誤差は数センチメートルに縮めて高精度な測位サービスが提供できるようになる見込みが立った。
あらゆる産業の自動化に高精度な位置情報が不可欠
報道関係者向け発表会にはソフトバンクの野田本部長が登壇した。野田氏は本格的なIoT時代到来に伴って、今後あらゆる産業が自動化し、その普及には高精度な位置情報が不可欠、と語った。
ソフトバンクがこの分野でリードするための重要な技術のひとつが「独自基準点」の設置だ。従来の4G(LTE)基地局の一部に増設するもので、全国の3,300箇所以上に設置することを決めた。これは3大キャリアの中では最多数になることを見込んでいる。
RTK技術を用いて精度1.4cmを実現
ソフトバンクの高精度測位には「RTK」技術が用いられる。RTKとは、Real Time Kinematicの略称で、固定局と移動局の2つの受信機を利用し、リアルタイムに2点間で情報をやりとりする方式。これにより高精度での測位を可能にする。
衛星から測位情報は電離層・対流圏と呼ばれる大気層等の影響によって、現在位置の測定に大きな誤差が発生するとされている。その誤差を補正するのに役立つのが「独自基準点」だ。設置された地域ごとに、電離層等の影響による誤差を独自基準点が測定し、それを補正することで、GPSやGNSSの誤差を著しく減らすことができる。
更に、「みちびき」(QZSS)はほぼ日本上空に常に展開しており、誤差補正能力の高い情報が送られるため、センチメートル級の精度が実現できる。ソフトバンクが2019年4月に行った実証実験では誤差1.4cmという精度を達成しているという。
「エッジRTK」と「クラウドRTK」
ソフトバンクでは2つのRTKサービスを用意する予定だ。ひとつは、端末やトラクター、自動車など、エッジ側でRTK計算を処理する「エッジRTK」だ。そのための端末を発表会で公開した(モック:冒頭の写真)。この端末はGPSやGNSS受信機であり、RTK計算を行って自分の位置を高精度に測位する機能も内蔵している。つまり、この端末をトラクターやドローンに設置したり、持ち歩くことで、この端末の位置を高精度で測位することができるようになる。
もうひとつがRTKの計算をクラウドサーバーで行うことで自分の位置を測位する「クラウドRTK」だ。端末自体にはGPSやGNSSの信号を受信し、位置情報の生データ(RAWデータ)を生成する機能だけを積む。演算処理が重くバッテリー消費が大きいRTK計算はクラウドで行うことで、端末のバッテリーやコストを軽減できる点が優れる。スマートフォンやコンスーマ機器など、コストを上乗せするのが難しい機器にはクラウドRTKが選択されると見ている。
一方、処理速度やリアルタイム性についてはモバイル機器やエッジデバイス(トラクターやドローン、クルマなど含む)側で位置情報を算出するエッジRTKの方が有利となる。
なお、エッジRTKでのFix時間は平均3.4秒を実現している(従来の他社サービスでは平均13.4秒程度かかるという)。最初の測位まで3.4秒程度、それを基準にして秒以下の単位で測位し続けることもできる。
なお、11月からサービスを開始するのは「エッジRTK」が先行する様だ。「クラウドRTK」はそれに遅れて、準備ができ次第導入していく考えだ。
ALESが測位情報の配信を行う
また、発表会では、衛星測位に関する技術知見をもつイネーブラー株式会社と、ソフトバンクが共同出資して設立したALES株式会社が、測位情報配信サービス会社として今後は機能していくことも発表された(2018年7月に設立)。センチメートル級の高精度な測位を実現するRTK-GNSS技術を用いた測位情報配信を行っていくという。代表取締役には本プロジェクトの本部長、野田氏が兼任する。
高精度測位サービス競争が激化する予感
5月29日にNTTドコモも発表、同様の高精度な位置情報サービスを10月1日より開始を予定していることから(ドコモはパートナーとしてコマツを発表)、今後高精度測位サービス分野はますますホットになるだろう。それによって端末の価格が下がり、サービスの質が底上げされ、一気に利用の可能性が広がることも期待できる。
その一方で、GPSを使った位置情報サービスの多くはユーザーは無料で利用することが今まではできた。今後、高精度測位サービスになると有料化へと一気に流れていくのか、それともなんらかの価格破壊や無料化への方向へと再び向かうことになるのか、現時点ではまだ未知数だ。
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神崎 洋治神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。