東工大/信州大/ソニーらがエッジAIとLPWA技術で「放牧牛AIモニタリング」実証実験 牛の島「沖縄県竹富町黒島」

東京工業大学、信州大学、電通国際情報サービス、ファームノート、テクノプロ・デザイン社、ソニーグループ株式会社の共同プロジェクトチームは、東京工業大学COI(センター・オブ・イノベーション)『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点のもと、鹿児島銀行の協力を得て、牛の島として知られる沖縄県竹富町黒島のさくら牧場にて、共同プロジェクトチームで開発したエッジAI技術とLPWA技術による放牧牛AIモニタリングシステム「PETER」(ピーター)の動産・債権担保融資(ABL:Asset Based Lending)への適用に関する実証実験を開始したことを発表した。

個体を遠隔からモニタリングするPETERの活用により、適切・効率的なABLの実行に繋がり、持続可能な畜産経営への貢献が期待される。なお実証実験は2022年3月末まで実施する予定。

技術説明
・サイレントボイス
地球上の自然、里山、社会、人に存在する今まで測ることができなかった・気づかなかった現象を、新規のセンサ技術および既存のセンサ技術を用いて顕在化させた統合的データのこと。東工大COIでは、上記センサ技術により取得されるデータをAI処理により、解釈可能あるいは私たちに関わりのある情報にすることを「サイレントボイス」に声を与えると表現している。

・エッジAI技術
通常はクラウド側で実行されるAIの処理をセンサなどのデバイスが存在するエッジ側で実行する仕組み。

・LPWA技術
「Low Power Wide Area」の略で、「低消費電力で長距離の通信」ができる無線通信技術の総称。


実証実験の背景

畜産物を担保とするABLは、畜産経営への貢献に資するものとして注目されているが、放牧を取り入れた畜産を対象とする場合、融資に必要となる個体数の確認や個体ごとの状況把握に時間やコストがかかるという課題があった。

動産・債券担保融資(ABL)とは
流動資産(集合動産、在庫、売掛債権等)を担保として活用する金融手法。

共同プロジェクトチームは2019年4月より信州大学農学部において、肉用牛の放牧飼育管理に焦点を当て、アニマルウェルフェアに配慮しつつ、その管理作業を低コストで実現する仕組みの実証実験を行ってきた。放牧牛に首輪型センサを取り付け、放牧牛の飲水・摂食、伏臥位、立位、歩行などの複雑な行動や姿勢の情報をAI処理により推定する技術検証をこれまでに実施し、放牧牛の遠隔モニタリングを行う首輪デバイスとクラウドアプリケーションなどで構成するシステム 「PETER」を開発した。

今回の実証実験は、この取り組みを放牧牛を担保とするABLに応用する試み。従来から畜産ABLに積極的に取り組む鹿児島銀行と、放牧を中心に飼養を行っているさくら牧場が実証実験に協力することで、銀行のABL業務と畜産経営の両面からPETERの放牧牛ABLへの有効性を検証し、追加すべき機能の洗い出しや課題の抽出などを行う。


放牧牛10頭に首輪デバイスを装着し、データをクラウドに集約

実証実験ではさくら牧場の放牧牛10頭にPETERの首輪デバイス(PETERエッジ)を装着し、アプリケーションで放牧牛の遠隔モニタリングを行う。PETERエッジで計測した放牧牛の位置データと活動データに加え、牧場内の環境データをクラウドに集約し(PETERクラウド)、銀行がABL業務を行う上で有効なデータ項目の抽出とPETERクラウドを介した銀行へのデータ提供のあり方を検証する。PETERを活用したABLの実現性検証の取り組みを通じ、畜産農家と銀行の情報連携の効率化と畜産ABLの更なる利用促進を目指す。

PETERの首輪デバイスを装着したさくら牧場の放牧牛

共同プロジェクトチームが目指す将来の畜産イメージ



放牧牛群管理システムPETERについて

共同プロジェクトチームが開発した放牧牛群管理システムPETERは、PETERエッジのAI分析アルゴリズムで、放牧牛の位置情報、歩行や摂食、反芻、休息といった牛の行動や状態を推定し、データ量を圧縮してソニー独自のLPWA 技術である「ELTRES」でクラウドに送信する。PETERのアプリケーションは畜産農家のヒアリングに基づいて優れたユーザビリティを確保している。PETERエッジの開発はアートアンドプログラム株式会社と有限会社サカイデザインアソシエイツの協力を得ている。また、ELTRES通信のアンテナは日本アンテナ株式会社と検証・測定し「DP-920-INF1-100」(日本アンテナ製)を利用している。

実証実験で用いる放牧牛群管理システムPETERのユーザーインターフェース(提供:東京工業大学 大橋匠助教)



実証実験における各機関の役割
東京工業大学 東京工業大学は共同プロジェクトチームのチームリーダーを務めるとともにPETERエッジの開発、PETERクラウドやインターフェースの開発、畜産農家への新システム普及の検討、アニマルウェルフェアの社会的受容性の研究を担当している。
【ホームページ】
https://www.titech.ac.jp/
信州大学 信州大学は共同プロジェクトチームのサブリーダーを務めるとともに、農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター農場における放牧牛の行動データをもとに、エッジAI学習のための教師データの作成、エッジAI処理による行動分類の検証、アニマルウェルフェアに適したエッジデバイスの装着方法や装着放牧牛のアニマルウェルフェア評価を行う他、放牧を取り入れた家畜生産が持続可能な社会実現に及ぼす影響についての研究を担当している。
【ホームページ】
https://www.shinshu-u.ac.jp/
電通国際情報サービス(ISID) ISIDは実証実験において共同プロジェクトチームのメンバとして、クラウドサービスFACERE®を活用したPETERクラウドの運営やデータ解析などを担当している。また共同プロジェクトチームと鹿児島銀行、さくら牧場間のマネジメント業務を行うとともに、畜産ABLの観点で、PETERから得られる放牧牛の行動データの有効性を検証する。
【ホームページ】
https://www.isid.co.jp/
ファームノート ファームノートは牛群管理システムFarmnote Cloud、及び、牛向け生体モニタリングデバイスFarmnote Colorの販売を行っている。またFarmnote Cloudに格納された生産データを元に解析を行い、生産現場の課題を明確にするレポーティングサービスFarmnote Compassを提供している。実証実験においては東京工業大学・信州大学・ISIDと協力し、PETERの社会実装に向けた共同プロジェクトチームにて牛向け生体モニタリング技術のノウハウ提供を行う。なお、ファームノートは令和2年度農林水産省 スマート農業実証プロジェクト「肥育牛の動産担保」(ABL)等の導入促進に資する生体センシング等のIoTを活用した低コスト個体モニタリングの実証」を実施する「IoTを活用した個体モニタリング実証コンソーシアム」に参画しており、畜産ABLの推進における課題の抽出及び社会実装を担当している。
【ホームページ】
https://farmnote.jp/
テクノプロ・デザイン社(テクノプロ) テクノプロは産学連携の取り組みとして東京工業大学との共同研究を行っている。産業界で数多くの研究開発プロジェクトを通じて培った技術と経験を活用し、共同プロジェクトチームのメンバとして、PETERのコア技術である「エッジAI」、「クラウド」、「LPWAを用いたアプリケーション」の開発を担当。農家からのヒアリングを含めた企画/要件定義/実装までの実業務を担当している。
【ホームページ】
https://www.technopro.com/design/
鹿児島銀行 鹿児島銀行は「アグリクラスター構想」に基づき、肥育・繁殖牛を対象としたABLによる融資を行っている。これまでの畜産ABLの実績をベースに、放牧牛を対象とする本実証実験を金融機関の視点でサポートし、畜産農家における資金調達手法の更なる多様化を図る。
【ホームページ】
https://www.kagin.co.jp/
さくら牧場 黒島は人口約220人に対して、牛の数は3000頭を超える牛の島。さくら牧場は黒島港からほど近い繁殖農家で、広い放牧場で健康な牛をのびのびと育てている。実証実験を通じて共同プロジェクトチームと連携し、PETERを活用するとともに、放牧利用の畜産農家にとってPETERがより良いものになるようアドバイスを行う。
ソニーグループ株式会社 ソニーグループ株式会社は東京工業大学COI『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点の中心企業として活動している。東工大COIにおける本実証実験では、ソニーグループ株式会社R&Dセンターが低消費電力プロセッサボードや省電力広域通信網の提供を通じ、技術開発に協力している。
【ホームページ】
https://www.sony.com/ja/

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山田 航也

横浜出身の1998年生まれ。現在はロボットスタートでアルバイトをしながらプログラムを学んでいる。好きなロボットは、AnkiやCOZMO、Sotaなどのコミュニケーションロボット。

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