NEC、高精度で実用的な量子アニーリングマシンの実現に向け、多ビット化のための基本ユニット動作に世界で初めて成功

複雑な社会課題の解決には、膨大な選択肢から最適な組合せを導出する組合せ最適化が重要だ。

日本電気株式会社(NEC)は、1999年にゲート型の量子コンピュータに用いる超伝導量子ビットを開発し、その技術を応用して組合せ最適化問題を高速・高精度に解くことができる超伝導パラメトロンを用いた量子アニーリングマシンの研究開発を行っている。

2022年3月17日、同社は、量子コンピュータの一種である量子アニーリングマシンの実現に向けて、高精度な計算を可能とする超伝導パラメトロンを用いて、多ビット化が容易な方式の基本ユニットを世界で初めて開発し、アニーリング動作の実証に成功したことを発表した。同成果により、量子アニーリングマシンの実現に向けてさらに前進したといえる。


動作実証に成功した基本ユニットの写真(左、一部加工)と、多ビット化時の模式図(右)




組合せ最適化問題を量子アニーリングで解くことに成功

同社は今回、独自の超伝導パラメトロンと回路結合技術を活用して多ビット化が容易なLHZ方式の基本ユニットを開発し、小規模ながら組合せ最適化問題を量子アニーリングにより解くことに世界で初めて成功した。また、タイル状に並べて配置した各基本ユニットと外部の機器を効率的に接続するための3次元構造技術も開発し、本構造での超伝導パラメトロンの動作を世界で初めて実証した。


3次元構造の概略図
【量子アニーリングマシン】
量子アニーリングマシンとは、量子力学の法則を活用してコスト関数の最小エネルギー状態を探索する計算機だ。最小エネルギー状態が組合せ最適化問題の解に相当する。エネルギーを徐々に下げながら最小エネルギー状態を模索する様が金属の焼きなまし(アニーリング)処理に似ているため、量子アニーリングマシンと呼ばれる。量子アニーリングでは最適な組合せを探す試行の回数を、量子重ね合わせの原理によって圧倒的に増やせるので、他の解法と比べて圧倒的な速度で組合せ最適化問題を解けると言われている。計算を行う最小単位である量子ビットの数が増え量子ビット間の結合が全結合に近づくほど、より大規模で複雑な組合せ最適化問題を解くことができる。

【超伝導パラメトロン】
ジョセフソン素子とキャパシタで構成される超伝導共振回路。回路を共振周波数の約2倍の周波数で変調することにより、0またはπの位相で発振する。これらの位相の異なる発振状態の重ね合わせを量子ビットとして使用することができる。磁束量子ビットと比較して量子ビットの寿命(高速演算が可能な時間の上限を決める)が桁違いに長いため、一定時間内における計算精度の向上が見込める

【LHZ方式】
LHZとは、提案者であるLechner, Hauke, Zoller 3氏の頭文字の略称。ビット数が多くなるにつれてハードウェアとしての全結合が困難になる課題を解決するため、3氏によって提案され、Parity Quantum Computing社が発展させたもので、最近接の量子ビット間の結合のみで全結合の問題を扱うことができるようにする変換方式。これにより、4量子ビットと中央の結合回路から成る基本ユニットをタイル状に敷き詰めるだけで容易に多ビット化が可能となる。




今回の結果と今後の展開

今回開発した基本ユニットをタイル状に敷き詰めることで、高精度に計算できる超伝導パラメトロンの特徴を維持しながら多ビット化が容易に可能となり、大規模で複雑な組合せ最適化問題を高速に解くことができる量子アニーリングマシンの実現に向けて前進した。
同社は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」として、超伝導パラメトロン素子を用いた量子アニーリングマシンの開発に取り組んでおり、2023年までの量子アニーリングマシンの実現を目指し、現在は全結合状態の超伝導パラメトロンの集積度向上などの研究開発を行っている。今後は、同成果を足掛かりに、量子コンピュータの開発をさらに加速していくと述べている。

■【動画】組合せ最適化処理を高効率化する量子アニーリングマシン(NEDO)

NECの量子コンピューティングについて:
https://jpn.nec.com/quantum_annealing/index.html
関連サイト
日本電気株式会社

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